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【読書】ナチス関連書籍を読んだ感想【24/6/30】

ブログ再開設後では初めてとなる、読書感想系の記事となります。


序:ナチス関連書籍を読んで

サムネにも設定している通り、筆者はこれまで何冊かのナチス関連書籍を読んできました。「ホロコースト」などの重要な書籍にはまだ手を出せていませんが、当記事では関連書籍4冊を読んで、全体的に感じたこととかを書いていこうかと思います。
また今日は突撃隊幹部が親衛隊に粛清された事件である「長いナイフの夜」が発生してちょうど90年のタイミングということもあるので、この日にアップさせていただきました。

【これまでに読んだ書籍】
・ナチスの戦争1918-1949 民族と人種の戦い
・ニュルンベルク裁判 ナチ・ドイツはどのように裁かれたのか
・ヒトラー演説 熱狂の真実
・ナチ親衛隊(SS) 「政治的エリート」たちの歴史と犯罪

※すべて中公新書より刊行。記載順は読んだ順です。

そもそもナチス本に手を出した経緯としては、以前どこかでも話したとは思うが、とあるゆっくり実況者さんが『Hoi4』でナチス・ドイツルートの実況をやっていて、『んじゃナチスって具体的に何をしたの?この登場人物って史実だと何をしたの?』という疑問が湧いてきて、本に手を出すことにした。
それ以前にも、Youtubeで関連人物をひとりひとり掘り下げた動画とかを見てきたけれど、全体的な知識(政権掌握や第二次世界大戦に至った経緯など)や教科書レベルから一歩抜け出した知識を、時間をかけて解説した動画は見つけられなかったので、識者が書いた本を読むのが一番早いだろうということで今に至っている。

以下、各書のネタバレを一部含みます。


『ナチスの戦争1918-1949』

一番最初に手を出したのはこちら。文字通り、ナチス・ドイツを全体的に学ぶことのできる一冊。サムネにこの本は載せていないが、これは現在弟に貸し出し中であるため。

この本では、そもそもヒトラーやナチスがホロコーストの原点である反ユダヤ主義へと走った経緯や、戦後の連合軍占領期(WW2敗戦から主権国家としての東西ドイツが誕生するまでの期間、つまり1940年代後半)など、ネットやTVなどではあまり出回っていないような知識についても取り扱っているのが良かった。
ネット、特にSNSでは少し前まで『ナチスは良い事もした』神話みたいなことが流れていたけれど、少なくともこの本で彼らが良い事をしたと感じられる文面は見当たらなかった。というよりも、一般に『良い事』の裏に何があったのかというのを、本書ではしっかり指摘できていた。特に経済や雇用に対する政策が軍事面に寄り過ぎていて、挙句の果てに借金返済のためにポーランドとの戦争を引き起こすという愚行を侵しているのだから、そりゃ擁護の余地は無いよねと感じた。
本書については読み終えて既に1年近くが経過しているので詳細は覚えていない所も多いが、ナチス・ドイツの時代を全般的に学ぶには最適の1冊だと思った。


『ニュルンベルク裁判』

戦後、連合国がナチス高官を裁いた軍事裁判に焦点を当てた一冊。この本を2冊目に手を取った理由としては、単純にナチスがどう裁かれたのかと言う所に興味が湧いたからである。

裁判の流れとか判決とかは概ね納得がいったけれど、個人的には反ユダヤ新聞を発行していたシュトライヒャー氏にも死刑判決が下されたのが興味深かった。ユダヤ人の殺害を直接指示したり実行した人物でなくとも、それを扇動した人物に対して極刑を下したというのは、国民を扇動してナチ・ムーブメントを旗振りしたという意味で重大だと判断した末での判決だったのかなと感じている。
また裁判後も逃亡し、逃亡先が発覚した末に処刑されたアイヒマンの顛末も中々興味深かった。彼も重大な犯罪に加担した人物のひとりとして断罪されるべき事案ではあるものの、それが息子のうっかりによって引き金が引かれたのは、何ともいえないものがあった。

ただ個人的には、この本はもう少し後に読んでおけばよかったかな…と少し後悔している。読んでいたは後述する「ナチ親衛隊」が刊行される前で、特に親衛隊関係者の具体的な犯罪行為についてよく分からなかったところがあったので、多分そっちを読んでからこれを読んでいれば、もっと高い理解度で読めていたのかなとも感じている。


『ヒトラー演説』

こちらは文字通り、ヒトラーが政権獲得や国民高揚のために行ってきた演説にスポットライトを当てた一冊となっている。

ただこの本にヒトラーが実際に話した演説本文が掲載されている訳ではなく、演説中に出てきた単語や用語の傾向や、政権獲得の原動力となった演説術について具体的に解説した一冊となっている。特徴的な演説がいかにして作られたか、「師匠」の存在や話術の導入、当時の情勢をいかに利用していくかなどが細かく解説されていたのが良かった。ヒトラーの演説術が現代にもビジネスでも通用するとか言われているけど、これ悪徳商法に悪用されそう…なんてことを考えてしまった。

また本書はヒトラーの生涯、特に戦前の政治家としてのキャリアについて詳しく説明した本にもなっており、ヒトラーがどのようにして国民の心を掴んだのか、そしてナチスが政権を獲得するまでに集会や演説がどの様子で行われていたのかについても良く解説した一冊となっている。特に20世紀前半の、拡声器(マイク)が出るか出ないかの時代の中で、広々とした空間にいかに声を届けるのかについての工夫は、当時の政治活動を語る上では貴重な資料ともいえるかと。

他、ナチスの政権獲得までの経緯についても詳しく述べられており、(本書に限った話ではないが)国民に熱狂的な支持を得て圧勝したというよりも、地道な宣伝活動で辛うじて勝利し、そこから法律の制定や暴力を以てして一党独裁を成立させた、という点は見逃せない点だと感じた。「国民を煽動して政権を掴んだ」だけでなく、その背後に従前のヨーロッパからあった反ユダヤ主義や、1929年に起こった世界恐慌などの社会情勢、そして独裁成立のために手段を選ばないなど"複合的な経緯をもって"ナチスの時代が始まった点については理解しなければならないと感じた。


『ナチ親衛隊(SS)』

今年3月に初版が発行されたばかりの一冊。ナチスの中でも特に悪名高い「親衛隊」にスポットライトを当てた一冊となっている。

親衛隊の結成から突撃隊との対立、勢力の拡大と武装化、そして彼らが引き起こした「ホロコースト」の全容など、200ページ前後ながらも非常に濃厚な一冊だった。特に「親衛隊は当初より暴力的な組織で、突撃隊よりも危険な組織だった」と「武装親衛隊が戦争に参与したのは国防軍と比べて1割以下」という事実とデータは興味深かった。特に後者のデータを鑑みると、(武装)親衛隊は国防軍と共に戦う「武装組織」よりも、イデオロギーに基づいてホロコーストを実行するための「犯罪集団」と解釈する方が自然とも取れる(だから、本書内でも「犯罪」を強調しているのかなと感じた)。創作物でも親衛隊が軍隊のような振る舞いを見せている描写が結構多いと感じるので、ここら辺は注意して見る必要があるのかな…とも感じた。

また本書終盤では前述のニュルンベルク裁判の他、東西ドイツ成立後に同国が独自に裁いた裁判についても取り上げていた。ナチス本の中でも「西ドイツが」ナチスの過去にどう向き合ったかについては、本書が一番詳しく取り上げていたと思う。
ところが、これほどの行為をした集団でも、下級隊員については数年程度の有罪判決で済んでいることが多く、また人物によっては企業のトップとして社会復帰している点には驚いた。日本も日本で戦前期の政治家が公職追放されたのちに社会復帰しているのであまり人のことは言えないものの、戦後間もない西ドイツ政府の親衛隊観やナチス観ってこんなもんだな…と非常に勉強になった。ただ同時に強制収容所の看守などに対する追及が現在に至るまで続いている理由についても、本書でより納得がいったかと。


最後に

最後に4冊のナチス関連書籍を読んで、彼らの悪行だけでないその「実態」や、その悪行の後にどのように裁かれ、今のドイツ社会に傷跡を残しているかについて理解することができた。今でこそSNSの識者の努力によって日本国内でのナチス観がアップデートされつつあるものの、それをより理解し、納得するためにも、これらの本にはぜひ手に取って欲しいとは感じている。

最後はちょっとした宣伝になるが、本記事アップ日の翌日にNHK総合にてナチス・ドイツ前夜の体制である「ワイマール共和政」にスポットライトを当てたドキュメンタリーが放映される。奇しくもこのタイミングでの放映になっており、長いナイフの夜を意識したのかどうかは不明だが、映像資料についてはあまり目を通していない身であるので、リアルタイムで当番組を見届けたいと思う。


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