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子供が塾を3ヶ月で辞めた話ーその11:塾の経験を振り返って(私立中学メリット編)

前回までのあらすじ

突然塾に通いたいと言い出した子供。私立中学受験に全く興味がなく、何も知らない状態でまずは友達の親に色々と聞いてみることに。小学校高学年になってくると定員がいっぱいで入れなくなるから、辞めるのは後でできるからとりあえず入ってみたら、というアドバイスをもらう。次はいよいよ塾選び。入塾試験なる不思議な関門を乗り越え、体験授業で感激した子供はついに塾を選んで通うことに。塾のシステムに不慣れは親は、最初の難関、宿題の多さに四苦八苦する。特に最初の数週間は塾、宿題、試験というサイクルに慣れるのに時間がかかり、家庭内での諍いが増える。授業内容と試験内容にやや疑問を持ち始める。Ankiを使って暗記科目を克服し、クラス分けを楽しむ子供。一方、宿題や塾で理解できなかった点のフォローなど、親のサポートが増えてくる。学校探しを始め、私立中学には給食がないことを知り愕然とする親。ところが一転、子供の方から宿題が多すぎて大変だから塾を辞めたい、ということで平和が訪れる。


3ヶ月の塾生活を振り返って

振り返ってみて思うことがたくさんあるのですが、大きく2つあります。それは、

1. 私立中学校の利点がよく分からない
2. コストパフォーマンス悪すぎ

という点です。今回は1つ目の「私立中学校の利点がよく分からない」という点に絞って振り返ります(長くなってしまいました)。

私立中学校に行くことのメリット

以前のブログ(その9)で書いたように、外国語教育に力を入れているとか、スポーツに力を入れているとか、公立中学校では受けられないような教育が、幅広い選択肢の中から選べる、と言うのは非常に良いことだと思いました。

また、以前ネットの記事で見かけた話で、住んでいる学区の公立中学が荒れているなどの理由で子供を通わせるのが心配、といった理由も聞いたことがあります。私立中学は自分で学校の雰囲気などを選ぶことができるので、こう言う場合も私立中学に行くメリットかなと思いました。

個人的に気になったのは、大学進学を最終目的とする観点で語られるメリットです。

「私立中学+メリット」で検索すると、多くのサイトがヒットします。その中からいくつか選んでメリットをピックアップしました。そうすると大まかに以下の4つに分けられるように思いました。

  1. 施設・環境

  2. 校風・教育内容の選択肢の多さ

  3. 教育内容の充実

  4. 大学進学に有利

「中学受験に意味がない」は本当か? 公立中学と私立中学の違いから考える (TOMAS)
私立中学のメリットとは?【中学受験の学校選び】(栄光ゼミナール)
私立中学を受験しよう!私立のメリットや必要な対策とは?(エディック創造学園)
私立中学受験のメリットと厳しい現実! 受験に迷う親たちへ(AllAbout)

TOMASのサイトで「 高校・大学受験とは異なる偏差値の仕組み」と言うのがありましたが、これはメリットなのかよくわからなかったので省きました。要するに受験する人が小学校の成績上位者が多く母集団全体のレベルが高いので、偏差値50でも全体の平均からは高めだ、と言うことのようですが、それの何がメリットなのか全然わかりませんでした。

それぞれのメリットについて、納得できる部分と、違和感を感じた部分を説明します。

施設・環境

  • 施設設備を整え、学びの多様化 (栄光ゼミナール)

  • 子どもの成長に大きな影響を与えるのは環境 (TOMAS)

  • 自分に適した環境で10代を過ごせる (TOMAS)

これは分かりやすいです。まずは受験できる私立学校が、通える公立中学校よりも多いので、選択肢が多く子供にあった学校を選びやすいと言うものです。ハード面では私立中学校の方が充実していることが多い(もしくはそういう学校を選べる)ようで、「PC教室や図書館だけでなく、普段の授業を行う各教室などにもICTをはじめとする最先端技術を導入」(栄光ゼミナール)などあるようです。ソフト面でも、「授業や部活動、学校行事、そして友人や先生、先輩や後輩たち」(TOMAS)と言う利点があるようです。

これは概ね納得で、繰り返しになりますが「外国語教育に力を入れているとか、スポーツに力を入れているとか、公立中学校では受けられないような教育が、幅広い選択肢の中から選べる」と言う、非常に良い面だと思います。

ひとつだけ納得できなかったのは、ソフト面でのメリットに関してで、友人や先生、先輩や後輩というのは入学する年にもよりますし、特に友人はどういう人が来るかわからないので、一概にメリットとは言えないのではないか、と思いました。しかも私立中学でなくても公立中学でも、公立高校でも同じようなメリットはあるのではないかと思いました。ただし、外国語に興味がある人が多いとか、工学系に興味がある人が多いとか、共通の嗜好を持った人を見つけやすい、という意味では、その通りなのかもしれません。

校風・教育内容の選択肢

これもまあだいたいそうなのかな、と納得ができる内容です。公立中学校でも特色ある教育理念を持った学校があるとは思いますが、その学区に住んでいないとそもそも入学することができません。私立中学校なら親なり子供なりが良さそうだなと思える学校を探して、受験することで入学できるので、これも良い面だと思いました。

教育内容の充実

これは施設、環境に近いですが、よりソフト面での施設・環境についてです。先生の異動が少ない、というのは個人的に合わない先生がいた時にはデメリットになるかな、と気になりました。新しい教育法というのは、より定着度の高い新しい授業方法などそういうものかと思ったら、「大学入試を見据えたカリキュラムで学習している学校も多く、中学校・高校の6年間で学ぶ内容を5年間で学び、残りの1年を大学入試の問題演習にあてることで、十分な受験対策の時間をとることができます」(栄光ゼミナール)とあるので、最後の1年を大学受験の勉強に当てられますよ、という下に書いた「大学進学に有利」というのに近いものでした。

部活や習い事に集中できる、というのは内部進学をするとそのまま大学に進めるから受験がもうない、というものでした。これはちょっと変な感じがして、部活や習い事がメインの人なら良いとは思うのですが、内部進学した大学の環境などは気にしなくても良いのかな、という気がしました。6年も経ったら興味の対象も変わっているかもしれないし、もうちょっとレベルの高い大学に行きたい、という人もいるかもしれません。

大学進学に有利

最後ですが、これはちょっと納得いかないところが多かったです。大学進学に有利な理由としては、

  • 高校受験がないから「独自のカリキュラムで子供を指導」できる(エディック創造学園)

  • 5年で授業を終わらせて高校3年生は学校で受験対策ができる(AllAbout、栄光ゼミナール)

ということのようです。最後の「東大の文1や理3の入学に有利」は「東京大学の文1や理3をめざすなら、私立難関校への入学が有利です。」(AllAbout)としか書いておらず理由が全く書いていなかったので、意味不明でした。

なぜ納得がいかなかったのか、いくつかあったので個別に詳しく書きます。

私立中学校は大学進学に有利なのか?

大学進学に有利という点について、本当にそうかな、と思った点と、そもそも有利なことが良いことなのかな、と思った点とありました。具体的には、

  1. 大学進学だけが目的なら、もっと良いオプションもあるのでは?

  2. 進学校に行くことは、学力の向上に役立つのか?

  3. 日本の大学進学だけに今から特化してしまって大丈夫なのか?

の3つです。以下順に説明します。

他のオプションはないのか

私立中学に入ると、公立中学校とは異なり、授業のスピードを変えて5年で高校3年までに習うことを終えてしまう学校もあるようです。記事ではそのことを持って大学進学に有利になる理由の一つとしています。もちろんそれだけではなくて、先生の異動が少ないから教育の質が高いのだとか、設備の良さも理由として挙げられています。

で、ちょっと考えてみると、だったら高校に入ってまるまる3年間、もしくは浪人覚悟で4年間、塾に行って大学受験の勉強だけをすれば良いのでは、と思いました。小学校で塾に行かず、私立中学校の公立より高い学費を払わないで済む分、トータルでかかるお金は安く済みますし、勉強時間も少なく済みます。もっと極端な例だと、高校には行かないで大検を受けて、あとは大学受験専門の塾に3年通い続ける、ということもできると思います。高校に通わなくて済む分、時間的にはさらに有利です。

大学受験はまた別の勉強が必要になりますし、中高一貫の私立中学に入学した場合も、学校の授業だけで大学受験する人はおそらく少なくて、多くの生徒が大学受験のための塾にまた通うのだと思います。そうすると、頑張って入った私立中学校での授業って、なんか意味があるんだろうか、塾の勉強だけで十分ではないか、という気がします。

まずこれが一つ。

ただし、進学実績の高い私立の進学校に行くことで、学力が上がってより大学受験で有利になる可能性が高まるのだ、という反論もありそうです。そこで2つ目の疑問です。

進学校に行くことは学力向上に役立つのか

こんな記事があります。「行動遺伝学者ロバート・プロミン「子供の成功には、親も学校もあまり関係ありません」」。どうも様々な研究では、どこの学校に通うかで学力が変わるという説は否定されているのだそうです。記事の中では、

英国では、一部の親が何十万ポンドも支払って、子供を最高の幼稚園、最高の小学校、最高の中学・高校に行かせて、オックスフォードやケンブリッジ大学に入学させようとしています。しかし、私たちの研究でも、ほかの人の研究でも、どこの学校に通うかで学力に差が出るわけではないことが示されています。

クーリエジャポン:「何冊本を読み聞かせても読解力に影響は出ない」

行動遺伝学者ロバート・プロミン「子供の成功には、親も学校もあまり関係ありません」

記事ではイギリスの話が出ていますが、イギリスではパブリックスクールと言って、日本の中高一貫私立学校などをはるかに凌ぐような、教育費も高い名門校があります。イートンやラグビーなどが有名です。確かにそう言った進学校の生徒は日本でいうセンター試験のような全国統一試験で良い成績を取るようです。ですがそれは学校の教育による効果ではなく、「もともと学業成績が優秀な子を選んで入学させているだけ」ということのようです。

例えばその論文の一つが、記事でインタビューを受けているロバート・プロミンが著者の一人となっている、"Differences in exam performance between pupils attending selective and non-selective schools mirror the genetic differences between them"です。

イギリスの公立学校(入試なし)、入試がある公立学校、入試がある私立学校の3つのグループに分けて、生徒の違いを分析したそうです。これらの学校では16歳で受ける試験成績に差があり、入試なしの公立学校が一番低いようです。すると3つの種類の学校では、genome-wide polygenic score (GPS)という遺伝子から計算した指標を使うと、入試なしの公立学校の生徒は平均的にGPSが他2つの入試がある学校より低い(遺伝的な違いがあった)ことが分かったそうです。どういうことかというと、このスコアが高い生徒は、平均的に高い認知能力、成績を持ち、社会的・経済的に裕福な家庭で育った傾向が高いために、結果的に入試に受かりやすい、と説明されています。

ただし、入試に関わる要因による違いを取り除く統計処理をして分析すると、16歳時に受ける試験成績(日本のセンター試験のようなもの)の差は、学校のタイプの差ではほとんど説明できなくなるようです。つまり見かけ上は入試のある公立学校や私立学校の方が成績は良いのですが、それは入試で成績の良い生徒を選んでいるだけで、何か学校での教育に差があるとか、そういうことではない、と論文では述べられています。

これは個人的な経験からも、納得できる主張です。以前ブログにも書いて、本にも書いた通り、私は運良く全国的にも有名な公立名門高校に入学する事ができました。ではその高校の授業は非常に素晴らしかったのか、というとそんなことはなかったです。まず第一に大学入試のための授業はありませんでした。夏休みの補修などもありません(個人的にはものすごい嬉しかった)。先生の授業がわかりやすかった、ということも特にありません。中には教えるのが下手すぎる先生がいて、生徒が嘆願書を集めて校長に先生を変えてほしい、という事態になったこともありました。さらには半分以上の生徒が進学塾の宿題などを持ってきて授業中に内職をしていたので、仮に学力が上がったとしてもそれは学校のおかげではなくて塾のおかげではないか、というような状況でした。

もちろん研究論文なので、今後反証される可能性はなきにしもあらずです。仮にこれらの研究が間違っていたとして、やっぱり私立中学校では学生の学力向上に役立つのだ、大学進学に有利になるのだ、として、もう一個疑問が出てきます。

それは「日本の大学に通うことは、子どもの3、40年後を考えた時にも、良いことなのだろうか」というものです。

日本の大学進学に有利なことは良いことなのか

私が以前ブログに書いたように、個人的な経験からはあまり日本の大学に魅力を感じず、正直時間の無駄だったと思うことが多かったです。海外に留学しなかったら、本当に今の生活はなかった、と感じます。それもあってなんとなく、日本の大学進学に有利という私立学校のメリットとされるものは、本当にメリットなのかなと疑問に感じていました。

武蔵野大学中学校・高等学校の学園長である日野田直彦氏が書いた「東大よりも世界に近い学校」という本に、そのような疑問に答えてくれるような事が書いてありました。

この方はもともと大阪府立箕面高校の校長をやっていて、偏差値50そこそこの普通の学校を大きく変え、「生徒と先生も見違えるほど変わり、帰国生でなくても、海外経験がなくても、多くの生徒たちが海外に飛び立って」いくような学校に変革した人だそうです。この本では今の学校は「オワコン」(終わったコンテンツ)と厳しく批判しています。「東京大学や、その東大に多くの生徒が進学する御三家とよばれる中高一貫の名門校」、加えて「予備校や進学塾」も同様にオワコンであると書いています。

詳しくは本を読んでいただきたいですが、なぜオワコンなのかというと、世界はものすごいスピードで変化しているのに、その変化に全く対応できていないから、だそうです。

子供達は幸いなことに親よりも長生きします。彼らが自分たちでお金を稼いで生活をするようになるのは、小学生なら10年後から始まって50年後ぐらいまでです。寿命も伸びているので下手をしたら60年後、70年後まで稼いでいかなければならないかもしれません。50年後など長期を見据えた時に、大学入学までを考えて大学入試に最適化するのは非常にリスクが高いのではないか、というのが私が理解した「オワコン」である主張です。

私がなんとなくモヤモヤしていたところを、この本は正確に言語化していて、いくつかハッとする文章がありました。例えば、

親が「子どものためにいい学校に入れさせたい」と思い、子どもたちも将来のために「あの学校、あの大学に入りたい」と思うのは当然のことです。しかし、その根底には、「あの学校に入れば大丈夫」「あの会社に入れば大丈夫」という思いがあるはずです。つまり、〝人任せ〟です。有名な大学に合格したり、有名大学に合格者を数多く出している中学や高校に入学したり、予備校や進学塾のカリスマ教師を信じて勉強していれば、明るい未来が開けると勘違いしている「思考停止」状態です。

日野田直彦. 東大よりも世界に近い学校 (p.41). Kindle 版

いまの日本の学校では、模擬試験の成績のよい生徒は育てられますが、リサーチやクリティカルシンキングの力を身につけさせる教育はできません。生徒は議論もあまりできないし主体性もありません。そのような学校には多様性(ダイバーシティ)もありません。

日野田直彦. 東大よりも世界に近い学校 (p.42). Kindle 版

などです。勉強ができるに越したことはないとは思いますが、今後どのような仕事が主流になってくるのか、反対にどのような職業は衰退していくのか、そういった世の中の変化をうまく察知して、分析して、自分なりに答えを出して、自分が進む道を決められる、というような能力が必須になってくると思います。これは別に今だから特別ということもなくて、いつの時代でもそうだったと思います。自分の子が50年後も幸せな生活を送れるように責任を持ってサポートしようとした時に、リサーチ力やクリティカルシンキングの力を身につけられないのはかなり致命的な気がします。それにあの学校に行けば大丈夫、というような思考停止状態も恐ろしいです。今やっていることは果たして意味があるのだろうか、もっとやるべきことはないのだろうか、という批判的な思考ができなくなるのも、かなり恐ろしいです。

海外留学すれば安心、というそういうことでもなくて、これをやっておけば正解、というものはないのだとすると、大学進学に有利、というのは特にメリットには感じないなと思いました。

私立中学に行くことのメリットは他にはあるか?

大学進学に有利、というのは個人的には少し疑問に思いつつ、施設、環境、教育内容の選択肢などは私立中学校に行くことのメリットではないかと思いました。

子供が塾に行く中で私立中学について調べていて、それ以外にもメリットがあるのではないかと思った事があります。

それは、

  • 面白い友達と出会える可能性が高い

  • 友達に刺激を受けて自然と高い目標、難しい目標を持てるようになる
    かなと思っています。

親があれこれと言ったところで子供への影響というのはそんなにないのではないかと思っていて、それよりは友達から受ける影響の方が大きいと思います。私立中学で外国語など自分と同じことに興味がある生徒がたくさんいれば、自分と興味があった友達が作りやすい、というのは大きなメリットだと思います。また、進学校に進むと何かに異様に詳しい生徒がいる可能性も高く、そういう友達が作れる可能性があるというのも、メリットではないかと思います。

もう一つのメリットは、似ているのですが友達のおかげでより高い目標を持てるようになる、ということではないかと思います。これは個人的な経験によるのですが、たまたま私は進学校の高校に進んだことで、周りが難関の国立大学を目指したり、海外留学を目標としていたりしていると、自然とそういう高い目標が自分の目標にもなってきてしまう、というものです。以前留学経験について書いた本でも説明したのですが、私は田舎出身ということもあって海外留学など全く考えていなかったですし、地元の国公立大学になんとなく入って、そのまま地元で就職先を見つけて働くんだろうな、という曖昧な目標しか持っていませんでした。ところが高校で周りがすごい人たちばかりなので、自然と情報が入ってきたり、競争心が生まれたりで、中学生の時には考えてもいなかった高い目標を持つ事ができました。必ずしも私立中学である必要はないとは思いますが、塾に通って勉強をして、少し難しい中学校、高校に行くことはそのようなメリットもあると思いました。

まとめ

今回は子供の塾通いを振り返りました。施設や教育内容の選択肢など、私立中学にもメリットはあると思いつつ、学習塾が宣伝するような大学進学に有利、というのはそれが目的なのだとしたらちょっとどうなんだろう、という疑問を持ったことを書きました。

一方で、面白い友達に出会い、友達から影響を受けて高い目標を持てる、というのは確かにメリットとしてはあるかな、ということも書きました。ただし、それが私立中学でなくても良いのではないか、という疑問はありました。

このように私立中学にも一定のメリットはありそうかな、と思いつつ、次回はそのために塾に通うのはどうなんだろうか、というもう一つ思ったことについて書く予定です。

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