わたしたちの願い
前回
徳島県屈指の美味しいお米の産地「佐那河内村」を五感で体験するために、佐那河内で炭素循環型農法に取り組む鈴木さん夫妻を訪れたコメヤノムスコ。
田圃やみかん畑を案内してもらい、少し休憩するために鈴木さんのご自宅にお邪魔させてもらうことにした。
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鈴木さんのご自宅は山あいのみかん畑をさらに登ったところにあった。
平家建てで煙突のあるおしゃれな家だった。
「ここはもともとただの雑木林だったのだけれど、とても景観がよくて自分のなかの直感がはたらいてここにしようと決めたんです。」
「すると偶然にもラッキーなご縁が重なって、家の隣に畑もできたし、家の裏には貯水タンクもある。それに家の前の道も塗装してもらえるようになってなんだか導かれているような気がしました。」
「さあさ、中へどうぞ」
私は少しわくわくしながら中に上がらせてもらった。
鈴木さんがコーヒーを淹れてくれている間、あるものを発見。
興味深そうに眺めていると、
「それは“起き上がり小法師”です。」
「会津の工芸品なんです。母の実家が会津でちょくちょく訪れていて。」
“起き上がり小法師”、初めて聞いた。でもなんだろうこの癒されるフォルム。なんとも言えない愛らしさに加え、風情がある。
そして家の中には“会津”と書かれた提灯もある。
「この提灯もおしゃれで可愛いですね。」
「あーそれね!かわいいでしょ。前に会津に寄ったときにね、お土産屋さんに寄ったときに買ったの。」
「ただそのお土産屋さんにね、起き上がり小法師の形をした提灯があったの。それもまたかわいくてね。お店の人に聞いたの『譲ってもらえないか』って。」
「そしたらダメだった。『これはもう作れる人がいないから売ってない』って言われた。」
複雑な気持ちになった。
このかわいい起き上がり小法師もそのうち作る人が居なくなってなくなるんだろうか。
戦後の高度経済成長により生産性が上がった反面、職人の作る魂のこもった工芸品は溢れるモノのなかに埋もれてしまったのかもしれない。
私の故郷、徳島県にも大谷焼きや阿波木偶、阿波和紙などの工芸品が沢山ある。それらが失われないように願う反面、それらに従事している方たちへの敬意を改めて感じることができた。
(少し話が脱線したので、時を戻そう。。)
鈴木さんはコーヒーと一緒におやつも出してくれた。
美味しい。
発酵玄米について教えてもらった。
【発酵玄米】
玄米と小豆に塩を加えて一緒に炊くことで小豆の色素が反応し酵素を生みだす。
それによって生きたお米になるため、保温器で管理するだけで半年は普通にもつそうだ。
お米が半年もつなんて信じがたい話だが、すでに検証されている事実なんだとか。なんだかすごい知識を手に入れたような気がする。
「ところで改めて聞かせてほしいんですが、鈴木さんはどうして炭循(たんじゅん)農法を?」
「はい、私たちは“環境としての農”、それから“風景としての農”という考え方をとても大切にしています。」
「もうすぐ彼岸花が咲く頃です。彼岸花は毎年ほんとに彼岸の日に向けて咲きます。緑一色の畑に赤い彼岸花が咲いてるあの様子が好きでね、そういう風景として畑を守っていきたいななんて考えるんですよね。」
「でも…」惠子さんが続ける。
「でも私たちがこういう農業ができているのは、小規模でやっているからであって、専業で農業をやっている人は稼ぎも必要だしなかなか難しいと思う。」
「それに私たちの畑には周りの畑がないから、他の人に気を遣う必要がない。もし周りに畑があったら、虫がきたり草が生えたりで迷惑をかける可能性がある。」
これが自然栽培がいまいち流行らない理由なんだろう。
専業農業の方が刊行農を行うのは、その方が確実に見た目の綺麗な商品がたくさんできるから。
そうして作物をたくさん作れば安く提供することができる。安くないと消費者には選ばれない。
そうして選ばれた商品が売れて生産者の手元に残るのはわずかなお金。
いったい誰が得しているのだろうと思う。
安さだけを求めた結果、消費者のもとに届いた食材はほんとうに安全なのだろうか。子どもたちの口に運ばれるその食べ物は果たして本当に安全なのだろか。
もちろん生産者が悪いなんてことはこれっぽっちも言うつもりはない。
見直すべきはこの社会のシステムであり、消費者の購買意識であると思っている。
それらはすぐに変えることはできないが、まずは自分の消費行動を見直そうと思った。
生活もある。これから全部値段の高い野菜を買うぞ!なんて思わない。生活が破綻する。
だけど、その意識があるかないか、そのほんの少しの差で購買行動は変わるかもしれない。社会がほんの少し動くかもしれない。そうであってほしいと願う。
最後に鈴木さんは言ってくれた。
「いま若い人に移住してもらうような動きが流行っているけど、高齢者や退職した人たちこそ田舎に移住すべきだと思います。」
「年金や退職金みたいな生活の土台となるお金が有れば、田舎暮らしはそりゃもう天国です。」
そう、にこやかに話してくれた。
「無農薬はたいへんというイメージがあるかもしれないけど、私たちみたいに楽しくできる方法があるよということを広めていきたいと思っています。」
「お邪魔しました。今日はたくさん教えていただきほんとうにありがとうございました。」
私は鈴木さん宅を後にした。
「晩ごはん何食べようかなぁ」
佐那河内の美しい自然のなか立派に育った稲穂を横目に、お腹を鳴らしながら帰った。
佐那河内編 おわり
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