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寂しさと時間の使い方

夜、唐突に寂しさを感じる瞬間がある。この寂しさを乗り越えられるほどに僕は強くできていないことを知っている。
ふと、テーブルの隅に置いてあるスマホを見つめる。なんとありがたいことに、僕には今から電話しても大丈夫な友がいる。中学からの友だ。

大学生となり、通う学校、住む場所も変わった僕たちでも電話はできる。それだけの時間を過ごしてきたともいえる。早速LINEを開き、彼に電話をかける。長いコール音、今は手元にスマホがないのだろうか。

「もしもし、、、なーに?」

彼のけだるそうで、かつ、いかにも顔がニヤついてそうな声でそう聞いてきた。僕は夜に電話をかけたことを気にしない。彼も突然夜に電話をかけてくるからお互い様だ。

「この前言ってたフェス、どうするの?」

ちょうど話したいと思っていたことを理由にして、電話を正当化する。もうそろそろ抽選販売が終了するから、今すぐチケットを買いたい。早く、彼のYESを聞いて、チケット2枚分を買いたかった。

しかし、あまり上手くはいかないものだ。彼は僕の問いには答えずに、何かを隠すように言った。

「今、テレビで映画観てるから~」

そんなのは録画してくれよ。一瞬そう思ったが、楽しみにリアタイしていたかもしれないため、その思考はすぐに思考廃棄場に持って行った。すると、彼の後ろで何かが聞こえる。

かすかに人の声がする。しかも、トーンが高い人だ。彼も一人暮らしだから少し違和感を覚えたが、大学生はいつでも友達を家に呼ぶらしいから気にしなかった。

早くフェスに行くかを決めたい。そう彼に伝えると、月曜まで待ってと言う。それでは締め切り日当日になってしまう。そのことを考えた自分は、少しだけ駄々をこねる。今決めてほしそうに。これができるのは、中学からの友だからだ。

「ごめん、今日家に人間がおるのよ」

彼のとつぜんの告白に、ふざけながらも応える。
「人間て、、、どうせ彼女なんだろ?」

彼は最近まで恋愛をしていなかった。そのうえ「恋愛って、どうやるんだっけ?」とも言っていたし、彼女いなさ過ぎて「好きってなんだっけ?」とも言っていた。モテない男子なら言ったことがありそうな言い訳をしていた。
そんな男にかけた言葉、「どうせ彼女なんだろ?」に対する返答は「いや違うわ!いるかー!」のはずだった。

「うん、そうなのよ」

まじか。いつからよ。「好きってなんだっけ?」からまだ1週間経ってないよ。というか、なんで最初隠したのよ。映画観てるからっていう理由は弱いよ。僕が一人寂しいなとほざいてるときに、ちゃんと家に呼んでるんかよ。一人寂しく時間を持て余して、これじゃだめだよなと思って勉強しているときに、ちゃんと愛育んでるんかよ。

「やっぱりなー」

動揺していることを隠した強がりは、彼にはバレなかっただろうか。彼よりは上手であると思っている。そのあとは「彼女は大切にしろよ」的な、変な声かけをした。即行で電話を切った。

一回りも二回りも成長した寂しさだけが部屋に残った。
とりあえずフェスは締め切り日当日でいいや。

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