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「料理本の読書会」連載8回目のテーマは、ちょっと変わった料理マンガ!

双子のライオン堂書店の店主、竹田信弥さんとライターの田中佳祐さんの2人による連載、「料理本の読書会」8回目です。今回のテーマは「ちょっと変わった料理マンガ」。というと、食を切り口にあらゆる問題を扱った『美味しんぼ』や日々の料理に役立ちそうな『クッキングパパ』などを思い浮かべがちですが、2人が題材にしたのは、モンスターや妖怪など、架空のものを捕らえて食す、というファンタジー的要素の強いマンガ3冊。何とも不思議ながら、架空の設定、架空の食材だからこそ、食べること、そして料理をすることの意味を改めて考えさせられる要素があるのかも……? ということで、2人のやりとりも蜜なものになっています。

今日のテーマは料理マンガ?


田中
 みなさん、こんにちは! レシピ本から歴史の本まで、さまざまな料理本を紹介する「料理本の読書会」が今日も始まりました。ライターの田中と双子のライオン堂書店の竹田の2人が、わいわい本と料理のお話をお届けします。
竹田 僕たち、料理本の連載をしているのに、大事なジャンルを取り上げるのを忘れてますよ。
田中 なんだろう、レシピもやったし、歴史書もやったしなあ。
竹田 料理マンガですよ!
田中 あんまりマンガを読まないけど、料理マンガなら詳しいですよ。
竹田 どんな切り口で紹介しましょうかね。
田中 『美味しんぼ』のエピソードを紹介しましょうか? 「ノビル」の話が面白いんですけど……。
竹田 それもいいですけど、田中さん、最近『将太の寿司』を読んでましたよね。
田中 現実にはありえないくらい意地悪なキャラクターが出てくる料理マンガですよ。『将太の寿司』の敵キャラクターは卑劣な手段を使ってきますからね……。
竹田 あ! 思いついた! 今回は現実にはありえない料理をテーマに紹介しましょう。ファンタジーを舞台にした料理マンガとかあるじゃないですか!
田中 え? まだ、料理マンガトークあるんですけど、『鉄鍋のジャン!』とか『クッキングパパ』とかの話、してないよ!
竹田 まあまあ、それは今後にとっておいて、今日は架空の料理本ということにしましょうよ。
田中 分かりました。今回は、お互いにマンガをオススメするのはどうですか?
竹田 いいですね!

スライムは食べられますか?

田中 じゃあ僕から。紹介するのは『ダンジョン飯』(九井諒子著 ハルタコミックス KADOKAWA/エンターブレイン)かな。
竹田 架空飯マンガとして、定番ですね! でも、僕は読んだことがありません!
田中 タイトル通り、ダンジョンRPGゲームのような世界が舞台です。
竹田 スライムとかドラゴンとか出てくるんですか?
田中 そうです! 主人公のライオスはダンジョン探索でお金を稼ぐ冒険者なのですが、敵として現れるモンスターたちに興味津々です。彼は、小学生の虫博士のように無邪気にモンスターが好きで、知識も豊富。そんなライオスが、ダンジョンで倒したモンスターを調理して食べるという物語です。
竹田 マンガの紹介ページで、バジリスクの丸焼きとかとか見たことがあります。ふつうの料理マンガみたいに、大きく料理の絵があって、材料が箇条書きになっているところが面白いですよね。材料は、ふつうの料理マンガと違って、バジリスクとか魔力草とか毒消し草とかって書いてあって、ロマンを感じますね。
田中 よくファンタジー小説とかゲームで見るモンスターたちを、美味しく料理しちゃうわけです。ライオスには仲間がいて、モンスター料理を嬉々として一緒に作ってくれる仲間やちょっと不気味がりながら食べる仲間など、立場の違うキャラクターたちが冒険をしながら食事をしているのが作品の魅力ですね。モンスターを食べちゃうというコミカルな題材を扱っていますが、裏のテーマには「侵略」をどう考えるのか、というシリアスな要素もあるように思います。
竹田 昔から、ドラクエとかやってるときに、主人公たちは何を食べてるか気になってたんですよね。食べられそうなものは薬草とかしか見当たらないじゃないですか。
田中 ゲームのモンスターは、倒すと不思議な力で消えちゃうことが多いですね。
竹田 『ダンジョン飯』にリアリティとかロマンを感じるのは、そのモンスターの実在感なのかもしれないですね。
田中 もし、RPGの世界に行ったら、モンスター食べられますか?
竹田 ちょっと怖い。
田中 竹田さんはボーイスカウトだったから、いけるんじゃないですか?
竹田 ボーイスカウトは冒険者じゃないよ!
田中 え? 違うの?
竹田 違うよ!

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『ダンジョン飯』(九井諒子著 ハルタコミックス KADOKAWA/エンターブレイン) 2014年より『ハルタ』にて連載。現在1~11巻まで発売中。

河童はおやつに入りますか?


竹田
 ぼくは『正しい妖怪の食べ方』(むこうやまあつし著 BUNCH COMICS 新潮社)を紹介するね。
田中 妖怪なんていないけどね。
竹田 それ言っちゃおしまいでしょ! この漫画の主人公は、想ちゃんとさく子の夫婦。もう第1話が衝撃的です。休みの日に、さく子は、仕事で疲れている想ちゃんをリフレッシュにハイキングに誘います。「ちょうどアレが美味しい季節だから」っていうので、想ちゃんは山菜でも採るのかなと思ってついていったら、なんと冬眠している河童でした。それを捕まえてさく子は「ぷくぷくしててすごく美味しそう」と一言。想ちゃんはあまりのことに驚いて気絶しちゃう。気がつくと今度は、河童を解体して手際よく料理をしているさくちゃんの姿。河童の甲羅から包丁を入れると調理しやすいとか、河童のお皿は実はぷにぷにしててとか、ファンタジーなのに調理方法や感触が妙にリアル。第1話の最後では想ちゃんも妖怪をうまそうに食べちゃってる。こんな感じで、日常に潜む妖怪を調理していく漫画です。
田中 何を言っているのかわからない……。
竹田 僕も、初めて読んだ時、衝撃がすごかった。何かいけないものを読んでいるみたいな気持ち。
田中 河童を食べるのは、何だか気が引けちゃうな。
竹田 そうなんだよ。妖怪って、どこか友達みたいな感じがするでしょ。
田中 友達なの!? 僕は襲われそうで怖いけど。おどろどろしいものを想像しちゃうので、食べたくないですね。
竹田 水木しげるタッチの妖怪を想像してました。同じ食べたくなさでも、いろいろあるんだなぁ。
田中 竹田さんは妖怪が好きすぎるよ! 水木しげるの妖怪も怖いよ!!

正しい妖怪の食べ方

『正しい妖怪の食べ方』(むこうやまあつし著 BUNCH COMICS 新潮社) 『月刊コミックバンチ』にて2017年より不定期で掲載。現在1巻発売中。

ドラゴンの焼き加減はいかがいたしましょう?


竹田
 もう1つ『空挺ドラゴンズ』(桑原太矩著 アフタヌーンKC 講談社)を紹介するね。
田中 聞いたこと、ありますね。あれ、料理漫画なんですか?
竹田 僕も知り合いにすすめられたときは、ドラゴンが出てくる冒険ファンタジーものかなと思っていたんだけど。ストーリーは、空飛ぶ船で龍を捕まえて、売ったり食べたりしながら生きている人たちの話。主人公のミカは、龍捕り(おろちとり)の1人でちょっと破天荒なんだけど、龍を捕まえる腕は超一流。そして、彼は捕まえた龍を食べるのを生きがいにしている。ミカとその仲間たちが龍を捕ったり、海賊と戦ったりするのも面白いんだけど、メインは龍を食べることなんですよ。日常モノとしても読めます。
田中 「食いてぇドラゴンズ」ってこと?
竹田 ダジャレか! この漫画がすごいのは、捕まえた龍を食べるシーンのリアルさなんだよ。このページみてよ。田中さん好きそうでしょ。
田中 しっかり下処理もしてるね。
竹田 大型動物を狩猟する話でもあるから、食肉について考えさせられる話でもありますね。
田中 食を扱うマンガでは、大事なテーマですね。
竹田 所々にレシピが載ってるのもいい。龍がスーパーに売ってないから作れないけど。
田中 テリーヌとか凝ってますね。
竹田 あ、著者がインタビューで、リアリティを担保するために龍の肉以外はちゃんと存在する食材で作っているみたいなことを話してましたね。
田中 大きな嘘を信じさせるために、小さな真実を積み重ねないといけませんからね。

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『空挺ドラゴンズ』(桑原太矩著 アフタヌーンKC 講談社) 『月刊good!アフタヌーン』にて2016年より連載。2019年にノベライズ版『小説 空挺ドラゴンズ』(小説・橘もも 原作/イラスト・桑原太矩 KADOKAWA)発売。 2020年にアニメ化。現在1~12巻まで発売中。

あの作品の「あれ」が食べたい!


竹田
 架空の食材や料理をテーマに話してきましたが、存在する食材のレシピ本より真面目に作品の紹介をしちゃいましたね。
田中 実在しない食材を出すことで、食べ物との距離感がわかる気がしますね。
竹田 ふだんは何気なく食べているけど、生き物を食べるということについて、逆にしっかり考えちゃうかも。
田中 あと、気がついたんですけど、今回紹介したマンガの主人公はみんな架空の食材に対する欲がすごいですね。
竹田 確かに、そうですね! 探究心というか好奇心というか。
田中 作者の気持ちの投影なのかもしれないですね。だって、ありもしない食材についてお話を作るんだから、作者自身がこれってどんな味がするんだろうっていう気持ちがないと。
竹田 それがリアリティを生み出しているのかもしれない。
田中 僕たちも何か架空の食材を食べたくなってきましたね。
竹田 いいね! 僕は、映画の『ドラえもん』(『ドラえもんのび太の日本誕生』(1989年)※新作は2016年の『新・ドラえもんのび太の日本誕生』)に出てくる、料理が詰まってるダイコン(畑のレストラン)かな。
田中 丸ごと揚げてタルタルソースをつけて食べたいね。
竹田 もったいない食べ方! 全部タルタルソースの味になっちゃう!

(その後、お腹が空いてしまい、どら焼きを買いに行く2人であった)

次回は、北大路魯山人をテーマにする予定です。

文・構成・写真:竹田信弥(双子のライオン堂)、田中佳祐
イラスト:ヤマグチナナコ

著者プロフィール:
竹田信弥(たけだ・しんや)

東京生まれ。双子のライオン堂の店主。文芸誌『しししし』編集長。NPO法人ハッピーブックプロジェクト代表理事。著書に『めんどくさい本屋』(本の種出版)、共著に『これからの本屋』(書肆汽水域)、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)など。最新刊は、田中さんとの共著『読書会の教室――本がつなげる新たな出会い 参加・開催・運営の方法』(晶文社・写真下)。FM渋谷のラジオ「渋谷で読書会」MC。好きな作家は、J.D.サリンジャー。

田中 佳祐(たなか・ けいすけ)
東京生まれ。ライター。ボードゲームプロデューサー。NPO職員。たくさんの本を読むために、2013年から書店等で読書会を企画。編集に文芸誌『しししし』(双子のライオン堂)、著書に『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)がある。出版社「クオン」のWEBページにて、竹田信弥と共に「韓国文学の読書トーク」を連載。好きな作家は、ミゲル・デ・セルバンテス。好きなボードゲームは、アグリコラ。

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双子のライオン堂
2003年にインターネット書店として誕生。『ほんとの出合い』『100年残る本と本屋』をモットーに2013年4月、東京都文京区白山にて実店舗をオープン。2015年10月に現在の住所、東京都港区赤坂に移転。小説家をはじめ多彩な専門家による選書や出版業、ラジオ番組の配信など、さまざまな試みを続けている。

店舗住所 〒107-0052 東京都港区赤坂6-5-21
営業時間 水・木・金・土:15:00~20:00 /日・不定期
公式HP https://liondo.jp/
公式Twitter @lionbookstore

動画で楽しむ「料理本の読書会」アーカイブはこちら! 第3回目に取り上げた『古代メソポタミア飯 ギルガメシュ叙事詩と最古のレシピ』著者の遠藤雅司さん(音食紀行)をゲストに、双子のライオン堂店主の竹田さんとライターの田中さんが、歴史や文学の中にみる料理や料理マンガについて語ります。ここでも『美味しんぼ』の話題が!

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