見出し画像

2月の俳句(2024)前編

きさらぎ・衣更着・如月

2月になりました。と言っても、これを書いているのはもう月末ですが・・・。陰暦2月の異称を「きさらぎ」といいますね。音の響きがいいので気に入っています。
ところで、「きさらぎ」の語源は何なのか。まずは手元の『広辞苑』で調べてみました。

「生更ぎ」の意。草木の更生することをいう。着物をさらに重ね着る意とするのは誤り。陰暦二月の異称。きぬさらぎ。

『広辞苑』

陰暦2月は初春。太陽暦でいえば、2月末から4月初めごろに相当します。まだまだ寒い日もありますが、これから暖かくなる時期に、着物を重ね着するという「衣更着」という漢字を充てるのは、納得がいかないと思っていました。
角川書店の『入門歳時記』でも「如月」を調べてみました。

陰暦二月の異称。語源には諸説あるが、気更に来るとか、生更ぎとか、草木が更生する、万物が動きだすころの意であろう。

角川書店『入門歳時記』

ここでも「衣更着」説はとっていませんね。「気更に来る」という説も紹介されています。漢字を充てれば「気更来」でしょう。これも理解できます。
一方、「生更ぎ」の「更ぎ」ですが、「さらぐ」という動詞があれば納得できるのですが、手元の辞書では見当たらないのが残念です。

ところでもう一つ気になることがあります。「きさらぎ」になぜ「如月」という漢字を充てるのか、という問題です。「睦月」「弥生」「卯月」などは、和語そのままの意が月名の漢字になっていますね。

結論からいえば、古代の中国で2月を「如月」と呼んだという記録があるのです。『爾雅じが』という中国最古の字書がそれです。春秋戦国時代以降に行われた古典の語義解釈を、漢代初の学者が整理補充したものと考えられています。今から二千年も前のものですね。この中に、次のように書かれているそうです。

「二月爲如」(二月如と為す)

『爾雅』

「如」という漢字は、「ごとし」という読みはよく知られていますが、「く」という動詞にも使います。先の『爾雅じが』では、「如、往也」と記されています。如月は「往く、行く」月、季節が前に進む月、ということでしょうか。

「きさらぎ」の説明が長くなりました。それでは「今月の俳句」も前に進みましょう。


雨の2月

2月は雨がよく降りました。ひと月の半分はどんよりとした曇り空で、強くはないけれど、冷たい雨が降りました。2月っていつもこんな気候だったのかな? もっと乾燥してカラッとしていたように思うのですが。

傘閉じて足早に行く春の雨

音もなくワイパーに散る二月雨

2月19日は、二十四節気の「雨水うすい」でした。降る雪が雨に変わり、雪解けが始まる時期らしいですが、大阪はこの冬、ほとんど雪の気配がありませんでした。

孫の傘くるりと回る雨水かな

雨水の日の翌日、朝起きて外を見ると、一面の霧です。高校生の頃、濃い霧に包まれた公園を横切って通学のバス停まで歩いた記憶が、ふと蘇りました。

朝霧や太陽月のごとく出づ

子らの背をやがて包むか朝の霧

ちょっと待てよ! 「霧」はいつの季語だったかな?
調べてみると、やはり「霧」は秋の季語でした。秋は「霧」、春は「霞」だとか。そうすると、「朝霧」は「朝霞」と言い換えなければいけないのでしょうか。

朝霞太陽月のごとく出づ

子らの背をやがて包むか朝霞

実際の感覚としては「霞」ではなく「霧」なんだけれど・・・。俳句の約束の難しさが、こんなところにもあるのですね。


節分と立春

日にちが前後しましたが、2月3日が節分、その翌日4日が立春でした。暦の上ではあるものの、春になるのはうれしいですね。
節分といえば「恵方巻」ですが、子どもの頃はそんな習慣はありませんでした。2000年以降に関西から広まったそうです。この日は家で巻き寿司をつくりました。

恵方巻食べて恵方を調べたり

巻き寿司を食べ終わりて知る恵方かな

「節分の夜に恵方に向かって願い事を思い浮かべながら丸かぶりし、言葉を発せずに最後まで食べきる」のが作法らしいですが、だれが決めたのでしょうね。私は普通に切って食べてしまいました。でも食べ終わったあと、やっぱり気になって「恵方」を調べると、今年は東北東でした。

その後は「豆まき」・・・と、いつもなら鬼役が回ってくるはずなんですが、今年はなぜか孫たち3人でやってました。ちょっとさびしい・・・。

節分や鬼の出番はなかりけり

鬼を「遣らう」のは、いわば一年の厄落としです。「三人吉三廓初買さんにんきちざくるわのはつがい」の、お嬢吉三の台詞を思い出します。

月も朧に白雲の、篝も霞む春の空、冷てえ風もほろ酔いに、心持よくうかうかと、浮かれ烏のただ一羽、ねぐらへ帰る川端で、竿の雫か濡れ手で粟、思いがけなく手に入る百両、
 
(舞台上手より呼び声) 御厄払いましょう、厄落とし!
ほんに今夜は節分か、西の海より川の中、落ちた夜鷹は厄落とし、豆沢山に一文の、銭と違って金包み、こいつぁ春から縁起がいいわえ 

ほんに今夜は節分か・・・。厄を落としていい春を迎えたいですね。

そして立春。春立つ日です。今年の2月4日は、陰暦(旧暦)では12月25日にあたり、まだ年内ですね。『古今和歌集』の巻頭歌は、在原元方のこんな歌でした。

  ふるとしに春たちける日よめる  
年のうちに  春は来にけり  ひととせを  去年こぞとやいはむ  今年とやいはむ

陰暦の新年を迎える前に、立春になってしまったという、戸惑い?のような気持ちを詠んだものでしょうか。きっとそれだけでは読みが浅いと叱られそうですが、最初の勅撰和歌集の巻頭を飾る歌としてふさわしいのかどうか。

それはともかくとして、今年も「年のうちに春は来にけり」だったのですね。陰暦の年明けは2月10日でした。

さて、「こいつぁ春から縁起がいいわえ」の話が一つ。立春のこの日、姪の結婚式の日取りが決まったという連絡をもらいました。最近は、冠婚葬祭というともっぱら「葬」が多かったので、これはとてもうれしい知らせですね。

春立つや姪嫁ぐてふ知らせあり

「2月の俳句」、まだ先がありますが、長くなるので、今回は「前編」ということでここまでにしておきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?