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5月の俳句(2023)

風薫る

五月に続く現代の枕詞といえば「風薫る」でしょうか。
「広辞苑」では、「初夏の涼しい風がゆるやかに吹くのにいう。薫風。」と説明されている。凡兆の「夕飯にかますご食へば風薫る」(猿蓑)という句が紹介されていた。

「かますご(叺子)」って?
関西では、「かますご」はイカナゴの別名だそうだ。凡兆は加賀の出身で、京に出て医業に携わった人である。「かますご」の呼び名は、かますに入れて出荷するからとも、カマスの稚魚と誤ったからともいう。

「かますご」はともかくとして、風薫る五月である。木々の緑が美しい。その間を吹き抜ける爽やかな風が「薫風」だろう。

風薫る五月大きな深呼吸


白い花

5月の声を聞くのを待っていたように咲き出したのが、我が家の庭のヒメウツギ(姫空木・姫卯木)だ。樹高50cmほどの低木で、たくさんの枝を広げて白い可憐な花を咲かせる。

「ウツギ(空木)」は「卯の花」の別名で、茎の中が空洞になっていることから「空木」の名がある。花言葉は「秘密・秘めたる恋」。

姫空木秘めたる恋のあらばこそ

マンションの中庭にも、この時期に白い釣鐘状の小花をいっぱい咲かせる高木がある。いつも名前を忘れてしまう。パソコンで検索すると「エゴノキ」だった。ちなみに漢字では「野茉莉」と書くそうだ。
5月6日、この日は立夏。

花の名をまた忘れたり夏立ちぬ

樹上より星降る朝やえごの花

前夜の雨で、たくさんの花が散っていた。

えごの花散りても咲ける水たまり

白い花といえば、この季節に咲き始める「ドクダミ」がある。「エゴノキ」は、実の果皮の部分に強いえぐみがあることがその名の由来だが、「ドクダミ」は、「毒痛み」または「毒溜め」が転じたものという。実際に毒があるわけではなく、その逆で薬草として古来重宝されてきた。

どくだみの白き花にも夏光

しかし、このドクダミ。生命力が強すぎる。庭の片隅に咲いていると思うと、いつの間にか版図を広げている。おまけに摘むと強烈な臭いが手に移る。純白の十字の花弁は宗教的でさえあるが、我が家の庭で広がるのは勘弁してほしい。

どくだみよ咲け他の庭で咲きほこれ


端午の節句

雛人形を片付けた後、4月になって飾った鎧兜。飾るのも私、片付けるのも私。孫たちはほんのちょっと手伝うが、すぐ飽きてしまう。

この日はいつもちまきを買ってくる。和菓子屋やスーパーでもたくさん用意するのだろうが、夕方に行くとたいてい売り切れだ。柏餅は残っているのだが。
今年は朝いちばんで買いに行った。白くてほんのり甘い餅が笹の葉で包まれている。本来の「ちまき」は、その名が示すように「茅・巻き」で、「ちがや」の葉で巻かれていたそうだ。「ちがや」は神聖な植物として、神社の「茅の輪くぐり」にも使われる。

笹衣解きて粽の白さかな


京都の初夏

京都の泉屋博古館で「光陰礼讃」という展覧会を観た。初夏の陽光が眩しく、汗ばむほどの陽気だ。木々の葉の「光陰」の影も濃くなっている。

光陰の影眩しきや青銀杏

展覧会の帰り、久しぶりに東山の麓を歩き、南禅寺に立ち寄った。外国人観光客や修学旅行の生徒たちの姿が目立つ。すっかりコロナ前に戻った感じ。赤煉瓦で造られた琵琶湖疎水の水道橋付近は、写真を撮る人が多い。

恐竜のごとく佇む夏の橋

人の少ない水辺を歩く。紅葉の若葉が日に透けて美しい。

振り仰ぐ顔も染まるか若楓

南禅寺から四条河原町に向かう。岡崎の美術館のそばから白川沿いの道を歩くのがいつものコースだ。水底が見える浅い川の流れも、風に揺れる川沿いの柳も、はなやぐ初夏の風情だ。

青柳の水面わづかに届かざる


小満

5月21日。二十四節気の「小満」。
江戸時代の暦の解説書『暦便覧』には、「万物盈満えいまんすれば草木枝葉繁る」と記されている。麦の穂が膨らんでくるが、まだ成熟はしていない時期。
この日、小学生の孫が11歳の誕生日を迎えた。張り切って、自分でハンバーガーを作った。大きすぎてかぶれない!

まだまだ子どもだが、少しずつ少女になっていく。まさに「小満」。

小満や孫も乙女に近づけり


近江八幡の初夏

5月25日、思い立って近江八幡に行く。詳しいことは別にnoteに投稿しました。

この町の良さは、なんと言ってもお堀があることだと思う。
八幡堀は天正13年(1585)に豊臣秀次が八幡山に城を築き、町を開いたことに始まるそうだ。秀次は、八幡堀と琵琶湖とを繋いで湖上を往来する船を城下内に寄港させ、人や物を集めることで、城下を大いに活気づけた。
戦後には交通路の役割を失い、かなり荒廃して、埋め立てを考えた時期もあったそうだが、市民運動の高まりによって、現在の美しい景観が復元されたという。

さざ波を残し船追ふ青葉風

堀端の道を歩く。かすかな水の流れがすぐそこにある。この道を行くのは楽しい。
珍しい黄色の花をつけた菖蒲があった。黄菖蒲は明治の頃に日本に来た新しい花だという。

風止みて黄菖蒲の黄水に映りけり

近江八幡といえば、その名称の元になった神社がある。日牟禮八幡宮だ。ご祭神は誉田別尊ほんたわけのみこと息長足姫尊おきながたらしひめのみこと比賣神ひめかみの三柱。八幡山の麓に鎮座するお社だ。

楼門の前に砂岩製の立派な狛犬が置かれている。たてがみや尻尾の巻毛が精緻で美しい。

夏光狛犬の背の暖かき


季節は進む

当たり前だけど、季節はたゆたいながらも前進する。この5月にも、大阪で一度だけ最高気温が30度を超した日があった。いわゆる「真夏日」だ。

三十度欅並木の影の濃き

そうかと思うと、一昨日の29日には、早くも近畿で「梅雨入り」が発表された。今週はぐずついた天気が多い。土曜日には小学校の運動会が予定されているけれど、残念ながら雨の予報だ。
さて、どんな6月になるのかな?



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