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大阪市の神社と狛犬 ⑰東成区 ④比賣許曽神社~身動き取れない江戸の狛犬~

大阪市東成区の地図と神社

大阪市には、現在24の行政区があります。東成区は大阪市の東部に位置し、北は城東区、東は東大阪市、南は生野区、西は中央区・天王寺区と接しています。主要道路の集まる今里交差点は、通称「今里ロータリー」と呼ばれ、この付近が区の発展の拠点となっています。
この辺り一帯は、古代において、上町台地の東側の低湿地に流れ込む淀川と大和川の土砂が堆積してできた土地で、「東にる」ことから「東生ひがしなり」と呼ばれたといいます。奈良時代の和銅年間には新しい郡郷の制度ができ、上町台地の東が「東生郡」、西が「西成郡」と定められました。「東生・東成」の地名は、まさに1300年以上の歴史をもつ由緒あるものです。

東成区には、今回の八王子神社御旅所も含めて神社が6社あります。さらに熊野大神宮に隣接する妙法寺の境内社を含めると7社になります。東成区では、この7ヶ所の狛犬を訪れたいと思います。
今回参拝する比賣許曽ひめこそ神社は、JR環状線鶴橋駅から東へ約500mほどの交差点手前の、すぐ北側に鎮座します。
こちらの比賣許曽ひめこそ神社は、『延喜式神名帳』に記載されている「摂津国東生郡 比賣許曽神社」の論社です。論社とは、同名の神社が複数あって、どれが『延喜式』に記されている神社か、決定しがたいものをいいます。大阪市中央区の高津宮の境内にも、摂社「比売古曽神社」があります。また先日紹介した産土稲荷神社は、比賣許曽神社の旧社地とされています。


比賣許曽ひめこそ神社

■所在地 〒537-0024 大阪市東成区東小橋3-8-14
■主祭神 下照比賣命
■由緒  社伝によると、垂仁天皇の頃、愛久目山あくめやま(現在の天王寺区の丘陵地)に下照比売命を祀ったのが始まりである。天正年間、信長による石山本願寺攻めの兵火によって社殿が完全に焼失したために、現在地にあった当時の摂社の牛頭天王社に、ご神体が遷されたという。
『古事記』の応神記によると、新羅の女が「吾が祖の国に行かむ」といって難波の津に至り、比売碁曾の社に鎮まったと記されている。その神の名は阿加流比売神あかるひめのかみといった。『日本書紀』にも類似の話がある。

狛犬1

■奉献年 江戸時代(奉献年不明)
■作者  不明
■材質  砂岩
■設置  境内入口

境内入口の浪速狛犬(阿形) 玉垣・樹木・社号標に囲まれている
境内入口の浪速狛犬(阿形)
境内入口の浪速狛犬(阿形)
境内入口の浪速狛犬(阿形)
境内入口の浪速狛犬(吽形)
境内入口の浪速狛犬(吽形)
境内入口の浪速狛犬(吽形) 玉垣・蔵・トタン壁に囲まれている


比賣許曽神社は、南側と東側の道路からそれぞれ短い参道がある。また北東側にも入口がある。社殿は南向きなので、南側が正面になる。正面鳥居のすぐ内側の狭い所に、江戸時代の砂岩製浪速狛犬が置かれている。紀年銘等は確認できないが、文政頃の作だと推定する。阿形は顔面などに損傷があるが、吽形は表情もよくわかる。かつては境内がもっと広かったのだろうが、今は身動きできない場所に押し込められているようだ。もっとも、狛犬は動かないが・・・。


狛犬(獅子)2

■奉献年 昭和十八年八月吉日(1943)
■作者  岡崎市中町 神谷勝
■材質  花崗岩
■設置  拝殿前

比賣許曽神社拝殿と狛犬
拝殿前の東大寺南大門型狛犬
拝殿前の東大寺南大門型狛犬
拝殿前の東大寺南大門型狛犬(阿形)
拝殿前の東大寺南大門型狛犬(吽形)


拝殿前に、参拝者側の正面を向いて坐す一対の狛犬がある。前肢を前方に突き出し、体全体を反らせている。鈴のついた胸飾りをつけている。東大寺南大門型の狛犬である。一般的に、この型の狛犬は左右共に開口で、どちらにも角がない。そのため狛犬と呼ばずに獅子一対と考えることが普通である。しかし比賣許曽神社の狛犬は、珍しく左右で阿吽の口の形をしている。
奉献年の昭和18年といえば、太平洋戦争で日本が苦境に立たされつつあった頃である。日本国民はその事実をほとんど知らされていなかった。東大寺南大門型の狛犬は、国威高揚を願って奉納されたのだろう。

ところで、この狛犬の基壇を見ると、「昭和五年十二月吉日」「東小橋町 津田長右衛門 妻孝」と大きく刻まれている。一方、狛犬の第一台座には、「昭和十八年八月吉日」「奉納 津田太良 長三 治郎」と記されている。
これはどういうことだろうか。昭和5年に奉納された狛犬がすでにないということだ。もとの狛犬が青銅製であったなら、金属類回収令によって供出されたのかもしれない。奉納者がどちらも津田姓なのは、おそらく親子であろうと思われる。


狛犬3

■奉献年 不明
■作者  不明
■材質  花崗岩
■設置  境内社 白玉稲荷大神

白玉稲荷神社

白玉稲荷神社は境内の北東に鎮座する。比賣許曽神社の本殿の東側である。
いくつか並ぶ鳥居を潜って小さな社殿の前まで進むと、両側にとてもかわいい石造狛犬が置かれている。

実は、私はこの狛犬に気づかなかった。比賣許曽神社には2回参拝したが、先の2対の狛犬ですべてだと思い込んでいた。白玉稲荷神社にもお参りしていながら、まったく気づかずに帰ってきた。
今回は、「神社探訪・狛犬見聞録」の掲載写真をお借りして、狛犬3を紹介したい。

かなり小さなもので、阿吽が通常とは逆である。紀年銘などはなさそうだが、自分の目で確認したい狛犬だ。

比賣許曽神社の境内ではないが、南参道の入口の表道路に面して興味深い祠がある。


大小橋命おおばせのみこと胞衣塚えなづか

比賣許曽神社の主祭神は下照比賣命だが、そのほかに5柱の神様が配祀されている。そのうちの1柱が大小橋命おおばせのみことである。比賣許曽神社の所在地は東小橋で、もともとこの地と関係が深い神のようだ。

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