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アジア紀行~カンボジア・アンコール遺跡の旅③~


アンコールワット第一回廊


十字型テラスを抜け、いよいよアンコールワットの中心部分に入って行く。最初に見学するのは「第一回廊」と呼ばれているところだ。


須弥山を模した中央祠堂は三重の回廊で囲まれいる。第一回廊はそのいちばん外側にあたり、東西200m、南北180mで、多くの彫刻が施されている。

入口で一人の若者に声を掛けられる。名前を「チェラトン」といって、ハイスクールの生徒だという。休みごとに15kmも離れた村から自転車でアンコールにやって来るそうだ。わかりにくい英語で、いろいろ話しかけてくる。途中から「ルーン」という名の若者も加わる。彼もハイスクールの生徒で、チェラトンよりも英語ができないが、外国人を見ると気軽に挨拶をし、話そうとする。期せずしてこの二人といっしょに、アンコールワットを見学することになった。


アンコールワットの参道は西側から通じているので、第一回廊で最初に目にするのは、インドの二大叙事詩「ラーマーヤナ」と「マハーバーラタ」を描いた西面の彫刻群だ。
「ラーマーヤナ」は、王子ラーマが魔王ラーヴァナに奪われた妻・シーターを取り戻すという一種の冒険物語である。第一回廊西面北側には、ランカー島の戦闘場面が描かれている。

風神ヴァーユの子である猿神ハヌマーンの助けを借りて、矢を射るラーマ王子
羅刹の王ラーヴァナ 10の頭、20の腕と銅色の目を持つ


二大叙事詩のもう一つ「マハーバーラタ」は、「マハー(偉大な)・バラタ族」=「バラタ族の物語」という意味を持つ。従兄弟同士の戦争物語を中心に、その間に多くの神話、教説、哲学が織り込まれている。
アンコールワットの第一回廊西面南側には、王族家のカウラヴァ族とパーンダヴァ族の戦闘場面が描かれている。


南面南側は「乳海攪拌」、東側は「天国と地獄」の場面である。案内の若者の解説がよくわからない上に、彫刻があまりにも膨大で圧倒されて、どんな場面を見ているのか理解できなかった。

「乳海攪拌」の説話が50mにもわたって描かれている、その中心になるヴィシュヌ神像。神々と阿修羅が大蛇の胴体を綱として、大亀の背の大マンダラ山を引き合うというカンボジアの創世神話。
天国と地獄の一場面


回廊をぐるっと一周するだけで1時間以上かかった。何を見てきたのか、頭の中が整理できない。回廊から外の明るいところに出るとホッとする。



アンコールワット中心部へ

西側に戻って、十字型の通路から第二回廊へと向かう。第二回廊には壁面彫刻はほとんどなく、連子窓になっている。ところどころでデバター像を見かける。顔と胸がツヤツヤしているものがある。みんなが手で触るからだろう。

見上げると、中央祠堂がそびえている。

この階段を上るのは、正直怖かった。斜面にしがみついて、這うようにしてのぼった。危険なので、今では仮設の階段が設置されたらしい。
上から見下ろすと、第二回廊の様子がよくわかる。寺院の向こうは完全な森である。


カンボジアの元となるクメール帝国が成立したのは9世紀の初頭だった。12世紀前半に即位したスーリヤヴァルマン2世はこの地に新王宮を建設し、国家鎮護のための新しいヒンドゥー教寺院を建設した。それがアンコール・ワットである。
15世紀に王都が遷ると、一時アンコールは放棄されて荒廃するが、16世紀半ばに再発見されて仏教寺院として改修される。この頃、スペインやポルトガルの宣教師や商人がカンボジアにやって来て、アンコールワットをはじめとする巨大遺跡があることを西欧に紹介するが、本格的に西欧にアンコールワットが知られるようになったのは、1860年にフランス人のアンリ・ムーオが地元民の案内により寺院を訪れてからであった。西洋建築や教会を見慣れた目で初めてアンコール遺跡を見たときの驚きは、想像に難くない。


一通り見学が終わった、というより、その大きさに圧倒され暑さにバテてしまう頃には、3時間以上が経っていた。陽は西に傾きかけている。夕方近くになって、徐々に人が増えてきたような気がする。やはり昼間の暑さを避けて、夕刻のアンコールワットを見にきたのだろう。

西参道を通って壕を渡り、昼ご飯を食べた食堂に行く。二人の高校生、チェラトンとルーンもいっしょだ。暑さで喉がカラカラになる。1リットルのボトルの水を買って、3人で飲む。
チェラトンが私の使っていたボールペンを欲しそうにしていた。余分があればあげてもよかったのだが、横にはルーンがいるし、断るしかなかった。それに、ガイドとしては、彼らは未熟すぎた。お金を渡すことも考えたが、彼らはそれを求めている様子ではなかった。休日を、大好きなアンコールワットで外国人と過ごし、英語力を鍛える。それが彼らの目的のようだ。彼らのような元気な若者が、明日のカンボジアを背負っていくのだろう。


アンコールワットの夕暮れ


遠くから眺めるアンコールワットは静かで美しい。もう少し待てば、空が赤く染まるのだろうか。


夕方5時半、約束の時間に、バイクのキーさんがやって来た。後ろにまたがり、ホテルまで送ってもらう。行きと帰りだけ。気楽なものだな。ほんとうに高校の先生なんだろうか。
6時、ホテルに帰着。明日の朝は8時にということで、約束して別れる。

部屋に戻り、まずバスタブに湯を張る。しかしほとんど湯が出ない。しかたなくぬるいシャワーで、髪とからだを洗う。1日の汗とほこりが流れていく。
夕食は、ホテルのすぐ近くにあった「廣東菜館」で食べる。中国人の経営のようだ。ここもドル払いである。「ばんごはん」と平仮名が書いてあった。
お金を払うと、中国人の奥さんが「See you tomorrow」と言った。


今日は、さすがに疲れた。昨夜はあまり眠れなかったし、1日目からアンコールワット見学とは考えてなかった。しかし順調な出だしだと思う。明日が楽しみだ。おやすみなさい。

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