フィルムカメラの復権
父の遺したペンタックスのカメラが郷里の家にあり、もう20年以上前にそれで写真を撮っていた時期があった。
その後、時代はデジタルカメラ全盛となり、私もフィルムカメラは触ることがなくなった。
ところがこの度、ペンタックスが21年ぶりに新しいフィルムカメラを発売するという。
2年ほど前から「フィルムカメラプロジェクト」なるものを立ち上げていたのは知っていた。
今回、予約受注が発表されると同時に注文が殺到し、僅か1日で予約停止となる盛況ぶり。
(生産はタイで行うらしい)
私は父のレンズをそのまま使えるペンタックスのデジタル一眼レフを新たに購入し、愛用している。(レンズは新しいのを何本か買い足しております)
世に言う「ペンタキシアン」としては嬉しさ半分、心配半分といったところ。
(レンズ交換式カメラは、各社「マウント」が異なるのでレンズもそのマウントに対応したものしか装着できないのです)
◆ペンタックスの立ち位置◆
皆さんはカメラメーカーと聞くとどこを思い浮かべられるだろうか。
キャノン、ニコン、ソニー、パナソニック・・・
そう、それらが大手である。
それに続くのがペンタックス、富士フィルム、OMシステム(旧オリンパス)といった位置づけである。(私見)
実はデジタルカメラと言っても大きく分けて2種類あり、「一眼レフ」(ミラーあり)と「ミラーレス」だ。
詳しい構造の話は割愛するが、サイズがコンパクトにできて、連写枚数も多く撮れるミラーレスが主流となった。
わがペンタックスも、一時期はミラーレスカメラもラインナップに載せていたが、数年前に廃番。そしてミラーがある一眼レフに専念することを発表した。
つまり、時代の流れに乗って他社と競争していくことをやめ、独自の道を歩むことを宣言したのだ。
ご存知の通り、スマホの写真機能が飛躍的に良くなり、カメラ離れが起こっている。
特にコンパクトカメラの失速が著しく、一時代を築いたカシオもカメラ事業から撤退した。
大手のニコン、キャノンもカメラ事業はかなり苦戦しているらしい。
ペンタックスはその土俵で勝負することを避けたのだ。
それは歓迎すべきことであるかもしれないが、しかしだからといって必ずしも生き残れる保証はない。
私は内心、いつかは「ペンタックス」も消滅することを覚悟した。
◆ただ美しい写真を残すこと、だけではない魅力◆
写真は、目の前の美しい情景を残す、それが目的である。
しかし、デジタル時代の今、パソコンで、あるいはカメラ本体の中でも、「レタッチ」といって、画像データに加工が施せるようになっている。
いや、レタッチでなくても、そもそも撮る前の設定の段階で、どういう写真にしたいか、その「カスタムイメージ」を選べるのだ。
ペンタックスで言うと、「鮮やか」「雅び」「モノクローム」「ほのか」「銀残し」などなど。
つまり、もう「目に見えるままに写す」は当然で、さらに「目に見えた以上に美しい」写真を残すことが手軽にできる時代。
それはカメラに限らず、スマホでもそうでしょう?
アプリで、本人以上に美しい写真に自動加工・・・(以下自粛)
◆撮るプロセスを楽しむ◆
おまけにデジタルカメラは何枚でも撮って、その場で結果が確認できるので、失敗作や不要な写真は削除でき、何度でもやり直せる。
それが大きな魅力ではあるが、反面、「この1枚に全てを賭ける」といった意気込みでシャッターを押すことがなくなった。
誰でも気軽に、美しい写真が撮れる。
しかし時代は不思議なもので、誰でも少々のお金をかけさえすればプロ並みの写真が撮れる今、「チェキ」が流行っているという。
富士フィルムの小さなインスタントフィルムカメラで、撮ったその場でプリントできる。
ブレたり、暗かったり、そのレトロな写り味が人気なのだという。
そこへ来てペンタックスのフィルムカメラ(再)開発である。
フィルムを装填し、絞りを決め、シャッタースピードを決め、ファインダーをのぞき、ピントを合わせて、シャッターボタンを押す。
その結果はフィルムを現像に出し、プリントが出来上がってくるまで分からない・・・。
その一連の工程そのものを楽しむ、そこに主眼を置くのだ。
露出(光の取入れ量)の失敗もあるだろう、手ブレもあるだろう。フィルム代は最近高騰しているから、コストもかかる。もちろん現像代も要る。
でもそれを経て、思い通りの、そして時には思った以上の写真が撮れる。
そこに楽しみを見出し、その「体験」を得るための道具(カメラ)。
ペンタックスが新しく発売するフィルムカメラは、「写真を撮るツール」ではなくて、「写真体験を楽しむ道具」ということになろうか。
一過性のものではなく、今後もフィルムカメラと、フィルムメーカー、そしてDPEショップが永く存続していくエポックになることを祈る。
私も父のカメラ(トップ写真)で、久々に撮ってみたくなった。明日、フィルムを買いに行こう。
★ご参考★
ペンタックス開発者の想い
https://www.sankei.com/article/20240704-5DZEZZPCE5HQ7M3P7TFSAZZMDU/
https://www.youtube.com/watch?v=yxsYkBJFeRM