見出し画像

抱擁

冷たい棘が刺さっている
それは喉につっかかって
時折、ふと思い出したように
チクチクと私を責め立てる

あの日、壊した傘の感触、
あるいは引っ張ってしまった髪の感触、
そしてざらついた喉に張り付いた、
「嫌い」の2文字

数年前、十数年前の、風化した記憶
記憶は時を重ねるごとに色褪せていくものだった
しかし、それと同じくらい
記憶は私を強く強く、縛るようにもなった

私は決して無垢ではなく、
掌はささくれ塗れである
誰かに許されたい、なんて傲慢であった
自分勝手な我儘は、
私を許したくない理由でもあった

汚い私を許せるか
汚い私を愛せるか
私は私を見捨てやしないか
汚い、悍ましいとつぶやいて
微塵も愛せないことは、
酷く切ないことだった
それくらい、私が一番分かっていた

冷たい棘が刺さっている
私は私の棘を、半分だけ取ってやった
私が抱きしめないならば、
誰が私を抱きしめてやるのだろう

汚い私を許せるか
汚い私を愛せるか
私は私を見捨てやしないか
汚い、悍ましいとつぶやいて
微塵も愛せないことは、
酷く切ないことだった
だからこそ私は、
いつか私を許したいと、
私を抱きしめてやるのだった

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?