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戯曲「しらないせかいかくめい」

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ねえ、一緒にいよう
いいよ
ねえ、あたしたちは一緒に生まれてきたものね
そうだね
ねえ、ずっと一緒よね?
多分ね
多分って何よ
僕らは違う個体だよ?
でも一緒に生まれてきて、一緒にいるわ
そうだけど
あの空をこの場所から初めて見た時も一緒だったわ
そうだね
ねえ、一緒よね?
そうだね
そうよね


〇光から出ようとする彼の手を引く


ねえ、どこいくの
どこって
どこいくの
外へ
だめよ、あたしはいけないわ
でも僕はもう行けるよ
でも
じゃあもう少し


〇光の淵に立つ


ああ、怖いわ
そうだね
そうよね、だってあたしとあなたは一緒


〇彼がヒカリから足を踏み出す。よろよろと枝を渡る


でも違う個体だよ
おいていかないでよ
でも違う個体だよ
でも
じゃあ早くおいでよ
うん


〇彼女が恐る恐る光から出る、彼の近くへ行こうと枝を渡る


ねえ、一緒よね
そうだね
これからもね


〇彼は何も言わない。元の場所へ帰る
〇彼女も元の場所へ帰る。光の淵に立つ
〇二人、一緒に歩く


一緒にいるのは、心地いいよね
そうよね
でも、心地いいだけだよ
いけない?
いけないな
どうして
だって、世界はここだけじゃないからね
当たり前じゃない
そう、当たり前だよ
じゃあなんなのよ
まだ早かったかなあ
なによ、一緒のくせに大人ぶっちゃって
君より1日大人だよ
そんなの大人じゃないわ
そうかな
そうよ


〇彼の方が綺麗に枝を渡るようになる


待ってよ
待って何になるの?
え?
何にもならないよ
そんなこと
そんなことあるさ
そんなことないわ。一緒だもの
一緒じゃないよ
一緒よ。ずっと一緒にいるの
ずっとじゃなかったよ
何言ってるのよ
一緒じゃいけないよ
何言ってるのよ
一緒じゃ生きてはいけないよ
あたしのこと嫌いなの?
嫌いなんかじゃないさ
あたしと一緒にいるのが嫌?
そんなことない
あたしが嫌い?
大好きだよ
じゃあなんで?
僕とお前が一緒に生まれたことと、一緒にいることは別のことなんだ
どうして?
それがわからないから、お前は僕よりおとなじゃない
生意気ね、あたしとあなたは一緒よ
一緒じゃないよ
一緒よ
一緒じゃない
一緒よ
お前は知らないよね
え?
僕はお前より1日大人だ。それは、お前とは決定的に違うことだ
決定的に
そう、決定的に。勘違いしないでほしい。僕はお前のことが大切だし、大好きだ
じゃあ一緒にいようよ
でもね、お前のことが大事だから、僕はお前と一緒にはいられない
大事なら、一緒にいてほしい。あたしはそうしてほしいし、あなたが大事だからそうするわ
でもね、僕ら別の個体なんだ
別だなんて言わないで
別だよ
あたしにはあなたしかいないわ
そんなことないよ


〇彼が、彼女の頭を撫でる


世界は、ずっと広い


〇彼、きれいに枝を渡って外へ出ていく


あたしはまだそんなところへ行けないよ、待って。待ってよ。どうして一緒じゃいけないの?あたしとあなたに何の違いがあったの?あなたが1日早くこの空を見たって、あたしたちははじめから一緒にいたわ


〇彼女、ゆっくりと空を見る


ねえ、今日の空は悲しい色ね


〇彼女、隣を見るも、誰もいない。息をのむ
〇彼、彼女を遠くからみている


僕が初めて空を見たとき、空はとてもきらきらしていた。お前はきっとみたこともないような、それはそれはきれいな深い色をしていた。
僕はお前より1日早く生まれた。それはお前が今見ているその時の悲しい色を、僕がそこからみていないのと同じことだ。
僕とお前はずっと一緒にいた。でもそれは、これからずっと一緒にいることとは違う。僕には僕だけの、お前にはお前だけの空の色があるように、互いの世界は別の場所で広がってる


〇彼女、彼がいた場所を見ている


一緒にいることが嫌なんじゃない、お前と一緒に過ごした時間と空の色は、僕にとってかけがえのないものだ。僕の世界を形づくる、大切な時間だ。きっとお前にもそうであってほしい。
だから、僕はお前より早くここを立ったんだよ


〇彼、どこかへ去っていく
〇彼女、ゆっくりと立ち上がり、枝を渡る練習をしだす
〇彼女、空を仰ぐ



こんな空は、初めて





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2018.11 戯曲集「世界の綻び」 集録

ロゴ : いい ことみ
文章 : 駒 優梨香

※ロゴ・文章共に無断転載を禁止します


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<しらないせかいかくめい>
もともとは「スダチ」というタイトルでした。柑橘の香りが漂って来そうです…。

ロゴ制作のいいちゃんがロゴを作って見せてくれた時、
あまりにも想像通りの空の色をつけてくれて感動したことを覚えています。

みなさんはどんな色を想像しましたか?





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