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斎王からの伝言【創作】15

15 ヌーソロジー

 ミキは、ビジネスホテルで一心不乱にヌーソロジーについて二人と共有が出来るように大まかな概要をまとめていた。それともう一つ、現代能楽として自分で創作して舞いたいと常々考えていたため、自分自身がヌーソロジーについて、落とし込む必要があった。

 まずこの難解な世界観をどう説明すればいいのか考えていた。量子力学、数学、哲学、宗教、グノーシス、天体、カバラ、幾何学、ルドルフ・シュタイナーの人智学とあらゆる事柄を散りばめて、半田広宣さんがチャネリングした内容を彼なりに解釈して発信したものを理解するためには、幅広く深い知識の土台が要求される。
 椅子の背もたれに重心を移し大きく腕を上げて背筋を伸ばした。「受験生に戻った気分だわ」あの当時は必要な事を見落としていないかという焦りが大きかった。
 今の状態では情報が足りていない事だけは分かっていた。理解が出来ているとは到底思えない。冷静になるために静かに目を閉じた。

 訳もなく追い詰められている焦燥感があると、何で自分がやらなければいけないのかと「やってられない」と思うと同時に福島の病院で働いていた時のことを思い出す。
【彼女はまだ20代だった。そんな若さで味わった絶望に比べたら私は今とてつもなく幸せだ。これくらいなんだ、幸せボケにも程がある。】

 「ふーーーーーーーーーーーー。」無意識に考え込んでいる時は呼吸が浅く吐く息が短くなってしまうので、ミキは深く息を吐いた。

 自分は恵まれている。生まれた時から何不自由なく暮らす基盤が整っていた。上を見たらそれこそきりがないが、今の自分の立ち位置にとても満足している。少し偏屈なところがあるが、だからこそ学び続ける事が出来るのだと自負している。

 【何かを救うなんて、おこがましい。医療行為だって生活のために、体系化された枠の中で行うしかない。それこそマニュアル化されているから言ってしまえばザルだ。もし対象が自分の大切な家族なら果たして決められている治療が行えるのかが疑問だ。もっと何か最善がないかと探し続けるはずだ。そしてその治療は、ほぼ保険外のために治療費は全額負担となってしまうだろう。ごく一部の人達にしかチャンスはない。】

 ミキの両親は、母親が歯医者で父親が漢方内科だったため、どちらかというと価値観が東洋よりであり、鉱物や薬草、能楽に興味を持ったのも精神的な側面と全体のバランスの大切さを知っているためだった。

 1年前より半田広宣さんの「ヌーソロジー」という存在を知り、能楽修行の合間をぬって”NoosAcademeia”というHPを見ていた。あまり時間が取れないため、細かく調べなければならない部分は、コウさんに任せる事にしている。概要だけ簡単に説明をしたいのだがHPで動画を見れば見るほど訳が分からなくなり、全容を掴めないでいた。

 簡単に言えば”オコツト”という冥王星の意識のチャネリング情報で、従来のチャネリングと同様に、”人類の霊的向上を促す”話なのだが、特徴としては素粒子と意識と物質を結び付けて科学的に霊的な部分を解明して、フロイトの無意識を明るみにする理論だ。霊媒で終わらせる神秘主義ではなく、どこまでも人間の理性を頼りにする。

 と、書いてしまえば簡単だけど、”理性”で目に見えない世界を解き明かすため一筋縄ではいかない。数学から幾何学、”Ψ”(「プサイ」精神医学で超能力を表す記号。 量子力学でφとともに波動関数を表す記号)まででてくる。正直、医学より難しい。音楽や芸術理論みたいに難解となっている。
透視能力を理論として現わし、その理論を読んだ他の人が具現化できるくらいの内容なのだろうが、自分には理解するのが不可能に思えた。
 
 コウさんならもしかしてと、一縷の望みを持っているだけだ。
彼女なら目を輝かせて、「何これ?!すごい面白い!」と言ってとことん調べ始めるだろう。ミキには、能楽の修行を置いてまで、ヌーソロジーにのめり込む事が出来なかった。

 【”二兎を追う者は一兎をも得ず”二人にはHPを見て貰えばいいか、それが一番早い。】

 ミキは諦めて、開いていたノートを閉じた。

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