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価値の再考 ~乃木坂46とファンの未来のために~

人気者であり続けるために。

最後に新品のCDを買ったのはいつですか。僕はここ数年で新品のCDを買っておらず、もはやそれを思い出せません。なぜ買わなくなったのか、それはスマートフォンさえあればCDを買わずとも曲を聴ける時代になったからです。

iTunes等のプラットフォームから曲をダウンロードしたり、オンラインストリーミングで再生したりして曲を聴くのはもはや当たり前だと思います。昨今は曲どころか全尺のミュージックビデオがYouTubeの公式チャンネルで公開されるようになってきています。であれば、インターネットが使える環境さえあれば無料で充分に音楽を聴けるのです。「CDが売れない時代」と言われるようになって久しく、この潮流はより加速していくはずです。

そんな時代にもかかわらず、乃木坂46は新曲を発表するたびにCDのミリオンヒットを連発しています。なぜそのようなことが成し遂げられているのでしょうか。

数年間新品のCDを買っていない僕は予想することしか出来ませんが、ファンがCDに付随している特典目当てでCDを購入し続けているということが理由として考えられます。

乃木坂46のCD特典といえば握手券です。CDを購入すると、その特典である握手券を得られます。この握手券を会場に持参することで目当ての乃木坂46のメンバーと握手・数秒間の会話が出来ます。

熱烈なファンであれば同じCDを何枚も購入して握手券を複数取得し、一人のメンバーと少し長めに握手したり、1日に複数のメンバーと握手したりしています。

この様子から考えれば、やはりCDそのものや曲を聴くためではなく、たいていは特典が目当てでCDが購入され、それが結果的にミリオンヒットに繋がっているということが容易に想像できます。なかでも、熱烈なファンのCD購入はミリオンヒットの支柱になっているはずです。

同じCDを何枚も購入する行為自体は本人が決めたお金の使い方なので、本人さえ了承しているのであれば問題はないでしょう。しかし、恐らくそんな本人でさえも、同じCDを何枚も購入していることには「本当にこのお金の使い方で良いのか」という小さな疑問を抱いているのではないでしょうか。

僕はこのような人ほど乃木坂46への愛が冷めやすいと予想しています。つまり、同じCDを何枚も購入していることへの疑問がだんだん大きくなっていき、いずれその行為に虚しさを感じ、その虚しさは乃木坂46への愛にも悪影響を及ぼしてしまうと思うのです。

もしこの仮説が正しい場合、乃木坂46への愛故にCDを何枚も購入していたのに、それが原因で乃木坂46への愛が冷めてしまうという、なんとも悲しい事態が起きることになります。

なぜ疑問が生じてしまうのでしょうか。それはCDを購入することで得られる価値と、ファンが求めている価値に相違があるからだと思います。

CDを購入することで得られる価値、それは究極的に言えば楽曲を随時聴ける状態になれることです。しかし新品のCDを買う人が求めている価値は、メンバーと握手することが主になっています。握手さえできればCDは不要、もしくは1枚で充分なのです。にもかかわらず、購入しているのはあくまでCDであり、不要なものをたくさん購入している状態と相違ありません。

このようにCDを購入することで得られる価値が蔑ろにされているからこそ、「消費的な音楽」というレッテルが貼られてしまうのでしょう。人によってはもはや乃木坂46がどんな新曲を歌っているのかは関係なくなっています。しかし特典付CDを購入してもらうための口実として、どうしても新曲というものが必要なのです。
 
一つの曲が世に放たれるまでどれだけのクリエイターの時間と労力が注がれているのかと思うと、この構図は幸せになる人が少ないと言わざるを得ません。

乃木坂46には色々な人が聴くべき良曲がたくさんあります。しかも、乃木坂46のメンバーは「大好きな卒業生の最後のセンター曲」というように一曲一曲へ強い思い入れを抱いていると思います。そういう大切な曲達が「消費的な音楽」と一括りにまとめられてしまうのはあまりに悲しすぎる。

このような複数の悲劇は、握手券が未だにCDの特典であるということに起因しています。この商法を続けていれば、いずれCDを購入していた人の乃木坂愛が冷め、乃木坂46のファン離れが発生し、いよいよ誰も幸せにならない未来が訪れてしまいます。

であれば、乃木坂46のCDに握手券を特典とするのはそろそろやめませんか。単純に握手券そのものを商品化すれば良いではないですか。僕が思うに、現状よりはよほど健全な状態になると思います。

複数人のメンバーと握手したいファン、一人のメンバーと長めに握手したいファン、どちらもCDの購入は必要なくなります。曲が聞きたいなら電子上で購入すれば良い。乃木坂46の曲をコレクションのように目に見える形で保有したいならCDを1枚購入すれば済み、いずれも必要なものを必要な分だけ購入している最適な状態になります。

メンバーと握手したいのなら、オンラインや会場で販売される握手券を必要な分購入して握手すれば良いのです。

また、「消費的な音楽」というレッテルが貼られなくなる以上、新曲で利益を出すためには今以上に楽曲の質で勝負することが必要になります。一曲一曲をじっくり精魂込めて作り上げていくことになり、これまで以上の良曲が世に放たれることになると思います。これも消費者によって良いことです。

確かにCDの売上は現在よりはるかに低下するでしょう。握手券が付属していないCDを発売して、今と同等のミリオンヒットを生み出せるとは思えません。

しかし、全体の利益においてはどうでしょうか。

握手券を売ることによって得られる売上は、単価次第でその金額は相当なものになるでしょう。また、CDの生産量が少なくなるということ、つまりそれはCD生産のコストを今よりも低減させることが出来るということでもあります。

であれば、CD販売時の総利益と握手券販売時の総利益は、少なくとも同等くらいには出来るのではないでしょうか。何よりファンに負担のない構図が出来上がり、今の人気は持続する、もしくはより向上すると思います。

これくらいのことは、乃木坂46の運営陣は既にアイディアとしてもっているでしょう。しかし、諸々の事情や音楽業界のしがらみが強すぎて決行出来ないのだと思います。

音楽業界のことなんて全然知らない僕の予想ですが、CD生産をしている企業へのお付き合い発注や、CDの販売枚数が計測対象になっているランキングへランクインして注目してもらったり、テレビ番組へ出演したりするためにはCDを売り続けなければならないのでしょう。他にも僕の考えが及んでいない潜在的な問題がきっとあるはずです。
 
 
 
さて、ここまでは握手会を開催することを前提に話を進めて来ました。ここからは、そもそも乃木坂46は握手会を開催する必要があるのかということを考えていきます。

結論から言うと、その疑問に対する答えはNOです。

乃木坂46は「会いに行けるアイドル」ではないので、AKB48のようにコンセプトに則った握手会を開催する義務・必要はないのです。

では、乃木坂46は何のために握手会を開催しているのでしょうか。義務・必要がない上で握手会を開催している理由、それはCDの販促はもちろんですが、なによりも乃木坂46のメンバーとファンの交流を行うことでお互いに対するモチベーションを向上・維持することが挙げられると思います。

ファンは乃木坂46のメンバーと握手することで、その瞬間だけ「たくさんいるファンの中の一人」から「かけがえのない一人」になれます。この時の高揚感は凄まじいものがあり、握手をしたメンバーに対する愛は飛躍的に強くなります。

僕は数年前に一度だけAKB48の握手会に参加したことがあり「 握手をしたメンバーに対する愛は飛躍的に強くなる」というのは実体験に基づく見解です。

また、乃木坂46のメンバーにとって握手会は「誰が自分を応援してくれているのか」ということを認識できる機会であり、日々の活動のモチベーションに繋がります。自分と握手するために遠方から足を運んでくれる、何枚もCDを買ってくれるというような、ファンが見せる献身的な姿は彼女達にとって最高の励みになっていることでしょう。

乃木坂46のラジオ番組である【乃木坂の「の」】を視聴していると、コロナ禍で握手会が開催出来なくなったことがたまに話題になります。その話題は最終的に「握手会がしたい」ということに帰結します。

メンバーにとっても一人一人のファンと触れ合う機会は貴重なものであり、感謝を伝えられる場として重宝されているのでしょう。

であれば、握手会自体はファンと乃木坂46メンバーの両者が幸せになる効果があり、間違いなく存続させるべき行事です。しかし、ファンの負担が大きすぎる今のやり方は変えていかなければならないと思います。

乃木坂46がデビューした当初、握手会はシングルCDの売上や人気を獲得するための施策だったのかもしれません。「AKB48の公式ライバル」である乃木坂46が、本来はAKB48との差別化を行わなければならないにも関わらず同じ商法を取り入れたのは、そうでもしないと売上や人気を獲得できない状況があったからでしょう。

しかし、今や乃木坂46は国民的アイドルグループと称されるまでに成長しました。この状況に驕ることなく成長を続けていく必要はありますが、そろそろ握手会を「売上や人気を獲得するための施策」から「売上や人気を獲得して、なおかつ保持するための施策」にシフトチェンジしていくべき時期にあると思います。

人気者になるよりも、人気者であり続けることの方が難しい。人気者であり続けるためにはオーディエンスに衝撃を与えて興味を惹く必要があります。オーディエンスに衝撃を与えるためには変化が必要であり、その変化が先駆的であるほどオーディエンスの興味は強くなります。

であれば、先駆的な変化として握手会のやり方を変えてみることを僕は提案します。

現在のように人気を得るため色合いが強い方法を続けて行けば、それが原因でいずれファン離れが発生して人気が低迷してしまうでしょう。これでは本末転倒です。

握手券を単品化することで、これまでのファンがより気軽に握手会に参加できます。なおかつ、「握手会に行ってみたいけどCDはいらない」という人にとっては、CDを買うことよりも握手券を買うことの方が遥かにハードルは低いため、新たなファンを獲得することにも有効的であると思います。

音楽業界のしがらみは途轍もなく強いものがあるでしょう。しかし、それは消費者に負担を強いてまで関わらなければならないものなのでしょうか。ビジネスにおいて最も考慮されるべき存在が消費者であるならば、消費者がより気持ちよく消費できるような状態を目指すべきであり、誰かがその一石を投じなければなりません。

であれば、国民的アイドルグループとまで言われるまでに影響力を有している乃木坂46がその役を担う意義は大いにあると思います。現在の地位をより不動のものとするため、AKB48との差別化をより強くするため、ファンの負担が大きすぎる現状を改善していくため、乃木坂46には変革をもたらすことを期待します。

兆しはあります。乃木坂46はコロナ禍にいち早く適応し、白石麻衣さんの卒業LIVEをオンラインで開催したり、最新シングルの握手会をオンラインミート&グリート(個別トーク会)に置き換えたりしている様子をみると、やはり乃木坂46は変化に順応なのです。

であればCDが売れない現代において、時代の潮流に抗ってCDを売るのではなく、CD以外の方法で売上と人気を獲得していく変化を自らが起こし、自らが順応していくことが出来るはずです。

コロナ禍の影響で今まで通りの活動出来ない乃木坂46がこれからも国民的アイドルグループであり続けられるように、ファンが一日も長くファンで在り続けられるように、今こそ彼女らの交流の場である握手会の在り方を変えていくべきだと思います。

実は乃木坂46の握手会には一度も参加したことがない僕の取るに足らない浅はかな提案ですが、乃木坂46の運営陣に微かにでも届くことを願っています。

以上、「価値の再考 ~乃木坂46とファンの未来のために~」でした!!

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