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半沢直樹に学ぶ、カスタマーサクセスの極意

誰のための仕事なのか。

今更ですが、日曜劇場「半沢直樹」の記事を書いてみます。今回は2020年に放映された、いわゆる第2期の後半である帝国航空編を主題に取り上げます。

簡単にあらすじを紹介しておきます。

半沢直樹が務める東京中央銀行は、航空会社である帝国航空に融資を行い、その債権をもっています。債権とはお金を返してもらえる権利のことですね。東京中央銀行は帝国航空に700億円もの債権をもっていました。

しかし帝国航空は経営不振に陥り、東京中央銀行含め債権を保有する銀行への返済が困難な状態となりました。

そして、航空会社の経営不振は国家運営にも影響を及ぼしかねないことから、その事態に国土交通省が介入してきます。そして国家権力をある意味で濫用し、東京中央銀行を含む、帝国航空の債権をもつ銀行に債権の7割を放棄するように迫ってきます。約500億円を手放せというのは、いやはや小説だからこそ作り上げられる設定ですね。そう信じたい。

その状況で半沢直樹は、東京中央銀行の銀行員として帝国航空の担当になります。500億円を回収できるよう、つまり帝国航空が東京中央銀行に500億円を自力で返済できるようにするため、帝国航空の建て直しを任命されるのです。

今回僕が注目したのは、この帝国航空建て直しを課題とした半沢直樹の仕事ぶりです。あの様子を見ればみるほどまさにカスタマーサクセスを体現していると思えました。

もちろん半沢直樹自体はドラマや小説の登場人物であり、作中にはフィクションの部分があるでしょう。しかし、カスタマーサクセスという職種が注目を浴びている昨今、彼の存在やその仕事ぶりはカスタマーサクセスの極意とも言えるくらいにとても良い参考事例になると思っています。このnoteを読んで、半沢直樹をカスタマーサクセスの参考事例という視点で観返したくなる人が増えれば嬉しいです。


極意1.顧客を知り尽くす

帝国航空の建て直しを任命された半沢直樹は、帝国航空の現状を把握するためにさっそくそのオフィスや職場である空港に足を運びます。僕の感想としては、すでにこの時点でカスタマーサクセスの一歩であり、その歩幅がかなり広いように思います。

僕は一時期カスタマーサクセス職に従事していました。そして、顧客のオフィスを訪ねた経験は一度もありません。取り扱っていた商材がASPであり、web上で機能提供が完結する性質をもっていたため、顧客の現場を訪問するという発想自体がありませんでした。

そのため僕が知り得た顧客の情報は、電話やメール等の問い合わせとサービスの利用状況が全てでした。そして問い合わせ者の回答をもとに顧客像や理想運用をイメージし、運用提案や改善策の提示を行っていました。ちなみに、それはそれで顧客や部署内で一定の評価を得ていました。

しかし、半沢直樹は違います。

彼は顧客のことを知り尽くすための努力を惜しみません。実際に現場に足を運び、どんな社員がどんな仕事をどんな思いや職務態度で臨んでいるか丁寧に観察します。見ているだけでなく、現場の社員からヒアリングも行います。そして終いには、その顧客特有の力関係や内在する問題点を見つけ出し、なぜそのような企業体質になってしまったのかという根本原因まで突き止め、解決に最大限助力するのです。

顧客に成功を届けようにもその顧客のことを知らなければ、その顧客にとっての成功を描くことは出来ません。そして顧客を知り尽くす上で最も効果的な手段は、実際に現場でその顧客に会うことです。今も昔もそして恐らく未来においても、人間のコミュニケーションにおいて最も情報の伝達効率が良い手法は対面による対話なんですね。

それを当たり前のようにやってのける半沢直樹の仕事ぶりは、まさにカスタマーサクセスのあるべき姿だと思います。

カスタマーサクセスに関する著書はいくつか読みましたが、たいていの著者は顧客のことを知り尽くすことこそがカスタマーサクセスの基本だと述べていました。

つまり半沢直樹はカスタマーサクセスの基本に忠実なのです。彼と対比して自分のカスタマーサクセス時代を振り返ってみると、顧客を知ること自体は問題なくやり遂げていましたが、知り尽くしてはいなかったと反省しました。

なお、僕は銀行員の仕事内容については半沢直樹を通してしか知りません。そのため、彼の仕事ぶりのどれがフィクションで、どれが実際の銀行員のものなのか判別できていません。実際の銀行員は顧客のもとに足を運ぶことはしないかもしれませんし、足を運んでもその社員にヒアリングまでしないことも考えられます。

確かに一人ひとりの顧客のもとに足を運ぶのは現実的ではなく、理想論なのかもしれません。抱える顧客の数が多かったりその所在地が遠かったりすると、どうしても顧客訪問は選択肢として成立しなくなってくると思います。故に、これは銀行員が主人公のドラマだからこその誇張した描写なのかもしれません。しかし、顧客を知り尽くすことがカスタマーサクセスの基本であることは決して否定できません。半沢直樹はまさにその理想を描いているのだと思います。

理想とはつまり最高品質のことであり、たとえ実現困難とわかっていても可能な限り目指すべきものです。

また、カスタマーサクセスという概念はたいていの仕事に当てはまるものだと思います。であればこれを機に自分の仕事における理想のカスタマーサクセスを描いてみるのはいかがですか。

あなたの顧客は誰ですか?
あなたはその顧客を知り尽くしていますか?
知り尽くすためにどんな手段で臨んでいますか?
あなたの顧客はどんなことに悩んでいますか?
その原因はなんですか?
その解決のためにどんな風に助力していますか?


極意2.顧客への介入

顧客を知り尽くした後、半沢直樹はいよいよ帝国航空再建案を構築します。赤字路線の廃止等、不要なコストを徹底的に排除していくんですね。そして、再建案の中には悲しいかな人員整理も含まれています。

帝国航空の従業員達は非常に強い誇りをもって仕事に取り組んでいます。特に整備職は専門学校を卒業してまで就いた仕事であり、人生をその会社と仕事に捧げてきたと言っても過言ではないでしょう。そんな現場社員の思いもあり、帝国航空の幹部が人員整理を発表したときに猛反発を受けることになります。

この時に半沢直樹がとった行動をみて僕は「そこまでやるのか!」と感心させられました。

外部の航空会社に対して、帝国航空の人員整理の対象になった人材が同じ業種で転職できるように営業をしていきました。もはや顧客である帝国航空に介入し、その一員として営業していたと言えるでしょう。

恐らく現実では「人員整理の対象となった人の反発を抑えてください」や「人員整理の対象となった人がスムーズに転職できるようにしてあげてください」というような案内を行い、顧客の責任範囲と定めて介入しないようにすると思います。

無意識のうちにステークホルダーという概念が働き、自分や自社の責任範囲を限定したり、時には矮小化したりするでしょう。そうすることで、いざ面倒な事件が起こっても自らに悪影響が及ばないようにしておくのが自然だと思います。

しかし、半沢直樹は違います。

帝国航空を建て直して500億円を回収するためなら何だってやるという意気込みで、臆することなく様々な問題を自らの責任下に置こうとするのです。半沢直樹から「うちが協力できるのはここまでです」なんて言葉は出てきません。

彼は顧客と一体となり、顧客の責任範囲を自らの責任範囲と捉えて顧客の問題解決に奮闘するのです。そのように、他人のことを自分のことにように親身になって考えられる半沢直樹だからこそ、多くの関係者は彼に全幅の信頼を置いたり味方になって助力したりするのだと思います。

僕がカスタマーサクセス職に従事していたころ、主に商材のオンボーディングを担当していました。オンボーディングとは、各顧客に対して自社商材の最適な活用方法を提案する仕事を指します。この業務内容では顧客の財政に話が及ぶことがなく、人員整理を提案する機会はありませんでした。そのため想像するしかないのですが、もし僕が半沢直樹と同じく顧客に人員整理の実施を提案せざるを得ない立場になった時、果たして半沢直樹と同じような営業が出来たでしょうか。

いいえ、恐らく責任を負うことへの恐怖が生じて「人員整理が必要です、社員の説得をお願いします」という軽々しい説得で終わっていたと思います。これではいけません。顧客から全幅の信頼を勝ち取ることは難しいでしょう。

きっと、必要最低限ではなく最高の仕事をしようという意識があれば、半沢直樹のように臆することなく理想に向かって進んでいけるのだと思います。

では、その意識はどうすれば芽生えるのか。

自らの仕事に強い誇りをもつのが効果的でしょう。金銭だけが目的では、人は彼のように果敢になにかに立ち向かうことは出来ないと思います。

自らの仕事に強い誇りをもつ半沢直樹だからこそ、同じような思想をもつ人員整理対象者に寄り添い、彼らの成功も実現することが出来たのだと思います。

あなたは顧客のためになにをどこまで出来ますか?
顧客と一心同体となる覚悟はありますか?


極意3.人と人を繋げる

「半沢直樹」を視聴したことがある人であれば理解してもらえると思いますが、このドラマはある意味で推理ドラマです。敵対者がひた隠しにしている都合の悪い事実を徐々に解明していき、最終的に切り札として突きつけて倍返しする展開で構成されています。

その解明の過程において、半沢直樹は多くの人の協力を仰ぎます。その中にはかつて倍返しした相手も含まれる場合もあります。素直に「力を貸していただけませんか?」と謙ることもあれば、利害関係の一致を前面に押し出して「やるんですか!?やらないんですか!?」と詰め寄ることもあります。

強引なやり方には若干の抵抗を覚えますが、多くの人を巻き込んで問題解決に取り組む姿勢はカスタマーサクセスの大事な要素だと思います。そしてその多くの人というのは大抵が社外、つまり東京中央銀行の人間ではないということも注目すべきポイントです。

成功にたどり着くために解決すべき問題が大きくかつ複雑であればあるほど、1人で解決するのは困難です。故に、誰しもが多くの人の手を借りようとするでしょう。しかし、協力を仰ぐのは自社内の人間に限定されているのではないでしょうか。意識したわけでもなく、社外の人間の手を借りることは選択肢として存在していないと思います。

しかし、半沢直樹は違います。

たとえ社外の人間であっても、問題解決のために最も力を発揮できる人間であれば素直に協力を仰ぎます。それが出来るのはフィクション故ということは否定できませんが、なによりも半沢直樹が「大事なのは感謝と恩返し」というモットーを貫き、多くの人間と良好な信頼関係を築いているからです。

その信頼関係は、半沢直樹が見返りを求めることなく自らの仕事にひたむきに取り組んでお客様のために働いてきたが故の功績です。多くの人が「半沢直樹のためならば」という気持ちで率先して協力するのです。

最終的に、半沢直樹を通じて全く関係がなかった登場人物達が繋がっていき、ひとつのステークホルダーを形成します。そして半沢直樹を中心として多くの登場人物が一丸となり、巨悪を打ち倒すのです。

巨悪を打ち倒すのはともかく、僕が注目しているのは多くの人が半沢直樹を中心にして繋がったということです。この繋がりは、半沢直樹を中心としたステークホルダーのその後に非常に有意義な効果を生み出すことでしょう。

例えば、Aさんと半沢直樹が強い信頼関係で繋がっています。次に半沢直樹はBさんとも強い信頼関係で繋がっています。そして半沢直樹は帝国航空の問題解決のためにAさん・Bさんにそれぞれ助力を求めます。これにより、AさんとBさん、Aさん・Bさんと帝国航空が関係をもつことになります。

AさんとBさん、そしてAさん・Bさんと帝国航空は、全幅の信頼を置く半沢直樹を通じて得た人脈故に、強い信頼関係を比較的簡単に築き上げられると思います。特にAさん・Bさんと帝国航空の関係は、帝国航空がAさん・Bさんに恩を抱くことになるため、より強固な関係を得られるかもしれません。

さて、AさんとBさんと帝国航空がそれぞれ違う業界だった場合、半沢直樹を通じて得られた関係はシナジーを生み出すきっかけになるかもしれません。そのシナジーから新しいビジネスが生まれる可能性もあります。それらが実を結んでいけばAさん・Bさん・帝国航空の関係はより強固となり、なおかつ各々が会社や事業の拡大を図れるようになると思います。そこに引き続き半沢直樹が関わり続ければ各々の信頼関係と事業成長は加速度的に進んでいくでしょう。

半沢直樹は問題解決するだけでなく、その過程で作り出した人と人の繋がりで各々に新たなチャンスをもたらしたと考えられます。問題解決以上の価値を提供した。これはカスタマーサクセス、つまり顧客の成功の一つの形と言えるのではないでしょうか。

問題解決=成功という式は必ずしも成り立つわけではないことを思い知らされます。毎日にように多くの顧客対応をしていると、いつの間にか流れ作業のように問題解決だけを繰り返してしまっているかもしれません。

しかし、問題解決の先にある成功を届けようとするならば、問題を解決した上でより有意義な何かを付け加えるのが理想的だと思います。半沢直樹が付け加えたのは会社同士の協力し合える関係でした。これはビジネスにおいてかけがえのない財産になるはずです。

僕がカスタマーサクセス職に従事していた当時、果たしてどれだけ問題解決以上の価値を提供できたのでしょうか。振り返ってみると、残念ながら問題解決だけを重視していたように思えてなりません。反省です。

もちろん、僕の問題解決で溌剌と満足してくれた顧客は多かったです。顧客から自社に対する信頼を獲得することにも助力出来たでしょう。しかし、その満足は一過性で成功を届けたとは言えないと思います。

なお、現在の職種においては問題解決以上の価値を届けている自信があります。この記事を書くにあたってカスタマーサクセスに対する思考整理が出来たこともあり、引き続きその姿勢で業務に取り組んでいきたいと思います。

この記事を読んだ方にも是非自らの仕事ぶりを振り返ってほしいと思います。

あなたは顧客に対して問題解決以上にどんな価値を提供していますか?


まとめ

実に単純で恥ずかしいのですが、僕は「半沢直樹」を観ると仕事の意欲が沸々と湧いてきます。ドラマ、つまりフィクションと分かっていても、半沢直樹という一人の男が仕事を通じて命を燃やしている姿に感化されているのです。

このように誰かのエネルギーを引き出すこともカスタマーサクセスの極意なのかもしれません。

ビジネスにおいて「誰とやるか」ということは非常に重要な要素です。その選定基準の一つは、同じ目標に向かってどれだけ力強く並走してくれるかということがあると思います。その上で自分や周りの人間のエネルギーを引き出してくれればより成功は早く訪れるでしょう。このような観点で考えれば、もはや会社に入社することでさえも、被雇用者がその企業に提供するカスタマーサクセスなのかもしれません。

昨今は「AIに取って代わられる仕事」なんて話題が注目されています。しかし、この記事を書くに当たって整理された思考観点から見ると、仕事は人間にしか出来ないと思わざるを得ません。AIが多くの人間に取って代わる時代なんて僕が生きている間に本当に到来するのかどうか疑わしくなります。

「AIに取って代わられる仕事」はつまり作業としての仕事だと思います。やるべきことが決まりきっていて、創造をほとんど必要としない仕事です。

自分のためだけに働こうと思えば、成果を追求することになるでしょう。成果を生み出す工程はたいていが作業です。そして作業をより正確かつ迅速に進めようと思えば、なるほどこれはAIの出番というわけです。

しかし、お客様のために働くことを意識すれば、仕事はより創造的になります。追求すべきは成果を一部とした成功です。そして、何がその顧客にとっての成功なのかということを親身になって考えて実現のために行動していく。これは人間だからこそ実行できる仕事であり、それであればAIを道具に留めることが出来るはずです。

AIに取って代わられるのが怖いのであれば、お客様のために働き、創造的な仕事をしましょう。それは非常に疲れるものですが、同時に非常に楽しく、生きていることを強く実感できる行いです。人生を充実させる上で実に効果的な方法だと思います。ロボットのような仕事をしてはいけません。

以上、「半沢直樹に学ぶカスタマーサクセスの極意」でした!!

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