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【ピュリツァー賞&全世界200万部突破】米カルト文学史上の伝説的傑作『愚か者同盟』刊行!!!

編集部(昂)です。
このたび国書刊行会から、アメリカカルト文学史上の伝説的傑作『愚か者同盟』を刊行します。

作者は、アメリカの作家ジョン・ケネディ・トゥール(John Kennedy Toole)。原題は "A Confederacy of Dunces"、1980年にLSU Pressより刊行されました。
 
訳者は、日本翻訳大賞・日本翻訳出版文化賞をW受賞したウィリアム・ギャディス『JR』や、一昨年大きな話題になったデイヴィッド・マークソン『ウィトゲンシュタインの愛人』をはじめ、パワーズ、ピンチョン、ウィンターソン、アリ・スミスなどの、数々の英米文芸作品の名訳で知られる木原善彦さんです。
 
シニカルで、いかにもカルト・ノヴェル感満載なタイトルの本作について、これよりご紹介します。

・傑作カルト文学『愚か者同盟』とは?

本書『愚か者同盟』については、聞いたことがない、という方もいらっしゃるかもしれません。それはその通りで、これまで日本では、なぜかあまり大々的な紹介の機会に恵まれず、一部で細々と語られてきた、「知る人ぞ知る作品」でした。
 
しかしこの『愚か者同盟』、実はなんと世界20か国以上で翻訳され、現在に至るまでに200万部超も売れている超絶ド級のミリオンヒットベストセラー&ロングセラーなのです。
 
しかも、アメリカでもっとも著名な文学賞の一つであるピュリツァー賞を受賞しています(1981年)。同賞の受賞作には、『老人と海』『アラバマ物語』『ザ・ロード』『地下鉄道』などの錚々たる名作がずらりと並びます。『愚か者同盟』はこれらの作品と同様、アメリカで長く愛されている定番の名作で、2022年現在でも、何度も版を重ねています。
 
また、2013年にデヴィッド・ボウイが発表した自身の愛読書100冊にも選定(亜紀書房刊『デヴィッド・ボウイの人生を変えた100冊』)。
一部ではすでに有名なブックリストなので、ご存じの方もいるのではと思いますが、ボウイは相当な読書家でした。その彼が愛読書として、『午後の曳航』『巨匠とマルガリータ』『冷血』などの、恐るべき名作たちと並べているのです。
 
その他にも、イギリスの放送局BBCが選ぶ重要小説100冊(2019年)、アメリカの放送局PBSが選ぶアメリカ文学の傑作100選にも選出。最近では、ニューヨークタイムズ紙が選ぶ過去125年間のベスト本25冊にもなりました。
 
訳者の木原さんいわく、
「この作品は、数々の傑作リストの上位にいつも挙がっている。今の日本での紹介状況から言えば“カルト的傑作”かもしれないが、アメリカでは定番と認められているお笑い作品だと言っていい。なので、当たり外れを心配することなく、安心してお読みいただきたい」
とのことで、いわば、「海外文学ならばこれを読めば間違いない」と言える、折り紙付きの一冊です。
 
これまで翻訳されてこなかったことがなんとも不思議な一冊ですが、実は訳者の木原さんも、かねてより注目しておられました。
二年ほど前、本書の存在を知った担当が、
「A Confederacy of Duncesという本をご存じでしょうか?」
と木原さんへ翻訳企画のご提案のメールを差し上げたのですが、
「実は僕も注目していました」
というお返事をいただいたのです。
これまで翻訳されなかった理由は、タイミングを逃して古い作品となってしまったためか何なのか、結局はっきりはしませんでしたが、改めて原書をご検討いただいたのち、木原さんから、
「面白かったです。ぜひ、これ、やりましょう!」
というお返事をいただきました。
こうして本企画は動き出し、1年半後、原書にして400頁超分の、『愚か者同盟』の翻訳原稿が届いたのです。

・気になる内容は……「爆笑労働ブラックコメディ」!!

そんな本書の内容。
一言で言えば、「爆笑労働ブラックコメディ」です。
すなわち、ブラックな労働環境を舞台にしたブラックなコメディであり、大いに爆笑できる小説作品である、ということです。
 
あらすじを簡単にご紹介。
 
舞台は、1960年代のニューオーリンズ
さまざまな人種と階層の人間が行き交う混沌の街。
 
主人公は、30歳になる青年イグネイシャス・J・ライリー
無職だった彼が事情により働かざるを得なくなり、職を求めて東奔西走する、というところから物語は始まるのですが、このイグネイシャスというヤツが、おそらくアメリカ文学史上屈指のクセモノなのです。
 
そのキャラクターとは……
 
無職、肥満、哲学マニア、口だけは達者ながらも、途方もない怠け者の、崖っぷちの30歳。
 
好物のドーナツとホットドッグを、ニューオーリンズの名物ドリンク「ドクター・ナット」で胃袋に流し込みながら、慇懃な調子で詭弁を弄して母親や出会った人々を言いくるめ、映画館に出かけては作品に登場する俳優たちを大声で罵倒し、支配人に要注意人物としてマークされていました。
 
子どもの頃は優秀で、大学では哲学を専攻していたため、哲学的論文を子供向けのレポート用紙に書き散らすのが日々の自発的課業になっている
資本主義社会から逃れ、高踏的世界で生きる現代の高等遊民、とでも言いたいところですが、書いている論文の中身は、大仰な文章のわりに存外しょうもないものばかり。
 
出かけた先で母親と共に場末のバーに入っては、こんな駄々をこねる子どものような会話で店の雰囲気をぶち壊す。

「コーヒーをもらおう」イグネイシャスは偉そうに言った。「チコリー・コーヒー。温めたミルクと一緒に」
「コーヒーはインスタントしかありません」バーテンは言った。
「じゃあ飲めない」イグネイシャスは母に向かって言った。「あれは飲み物じゃない」
「ならビールにしなさい、イグネイシャス。死にやしないから」
「腹部膨張を起こすかも」

社会的な「まっとうさ」をよしとする観点から見れば、まさに数え役満級の社会不適合者
街を歩けば、あまりに悪目立ちするヴィジュアルと行動による不審者っぷりに、警察官から、「体が超でかい変態」(a great big pervert)が出没したとまで言われる始末。
やることなすこと全てが滅茶苦茶で傍迷惑な、超絶クセ強キャラクターですが、傍から見る分には、どこか憎めないところがあります。
 
あまりにもあんまりなキャラですが、人によっては自分を重ねて、
「あらやだ、他人事とは思えないわ……」「イグネイシャスは俺だ……」
と、危機感や親近感を抱く方もいるかもしれません。
 
そして、イグネイシャスがそんな怠惰な日々を過ごしていたある時。
母親とふたりで街に出かけた帰りのこと。
母が自動車で他人の家に突っ込み破壊してしまい、多額の借金を背負ってしまう。
イグネイシャスは母の借金返済のため、しぶしぶ就活を始めざるを得なくなり、物語もまたしぶしぶと動き出すのです。
 
彼は潰れかけのアパレル工場「リーヴィ・パンツ社」、次いで零細ホットドッグ移動販売業者「パラダイス街頭販売社」で職を得るが、職場では仕事を放り出して遊んでばかり
事務所をリボンで飾り付けたり黒人たちの労働デモを扇動したりホットドッグをつまみ食いした挙句に、声を掛けてきた怪しい男に屋台を押し付けて映画に出かけたりするなど、好き勝手やり放題。
 
そして、本書に登場する主人公以外のサブキャラもまた、実に多士済々の変人奇人クセモノ揃い。
 
場末の怪しげなストリップ・バー「喜びの夜」の女性店主ラナ、「喜びの夜」で客に薄い酒を飲ませる仕事をするダーリーン、浮浪罪で逮捕されないよう「喜びの夜」でやむなく安月給で働く皮肉屋な黒人のバーマ、成績不良でクビになりかけ、覆面捜査の一環としてコスプレで見回りをさせられる冴えない警官マンクーソ、あまり会社に顔を出さないで競馬に熱中するリーヴィ・パンツ社の二代目社長リーヴィ氏、リーヴィ・パンツ社で働くが実際はほぼ仕事をしていない高齢女性トリクシー女史、働かないトリクシーをクビにしようとする夫から彼女を強硬に守ろうとするリーヴィ夫人、同社の真面目な会計責任者のゴンザレス氏、ホットドッグ売りの屋台を仕切る「パラダイス街頭販売社」の社長で面倒見の良いクライド氏、社交場に顔が利く謎の多い男性同性愛者のドリアン、NYで政治的活動に没頭するイグネイシャスの元恋人マーナ、息子の横暴に悩まされる一方で極めて子煩悩なイグネイシャスの母アイリーン……
などなど、イグネイシャスに負けず劣らずフリーダムで濃いキャラばかり。
 
そんな、一癖も二癖もある奇人変人たちを巻き込んだり巻き込まれたりしながら、イグネイシャスが各地で騒動を起こし散らしていると、職場からも放り出されることになり、さらには警察やら何やらに追われるようになる。
追い込まれたイグネイシャスは、逃亡劇を繰り広げる羽目に……
 
以上が本作のだいたいの内容ですが、初読時の素直な感想としては、端的に「面白い!」と言えるものでした。
気軽に読めて、ゲラゲラ笑えて、しかも感動(!)までさせられてしまいます。
 
そして同時に、日本人が現代的な視点から真面目に読んでも、興味深く感じられる読みどころがかなり多くあります。
 
たとえば本作では、白人男性ではあるものの、社会的には爪弾き同然の立場であったイグネイシャスが、当時のアメリカ社会では強く排斥される立場にあった黒人に対して、「親しみのようなものを感じてきた」と共感を示す場面があります。
 
イグネイシャスのはた迷惑なほど身勝手で、それゆえ同時に何事にも囚われない自由なふるまいからは、社会の課す呪縛や偏見に強烈なしっぺ返しを食らわせる、痛快なユーモアに満ちた、アンチ・ヒーロー的魅力が感じられるのです。
 
ただ単に超笑える小説が読みたい人。
海外小説の「間違いない」名作が読みたい人。
とびきり突飛な設定の傑作カルト小説が読みたい人。

 そんな方々に、本書を大いにおすすめします。

・作者ジョン・ケネディ・トゥールとは?

そんな『愚か者同盟』の作者、トゥールについて簡単にご紹介します。
 
ジョン・ケネディ・トゥール(John Kennedy Toole)は、1937年、メキシコ湾に面した港湾都市で「文化のるつぼ」として知られるルイジアナ州ニューオーリンズに、自動車販売員の父と教育者だった母親の子として誕生します。
 
母親の熱心な教育を受けて幼いころから勉学に優れ、地元の名門テュレーン大学、コロンビア大学大学院で哲学を学んだ後、教職につきます。のち1961年に軍隊に入隊し、そこで、スペイン語話者に英語を教える傍ら、本書『愚か者同盟』を執筆し始めました。
 
そして除隊後、故郷に戻り作品を完成させ、いくつもの出版社に原稿を持ち込むものの出版に至らず、1969年、失望の中で出た旅の途中で自死してしまいます。
 
頭はかなり良かったものの、同時に神経質なところがあって、周りになじめないこともある人物だったようです。
『愚か者同盟』の主人公イグネイシャスは、彼自身が辿ってきた経歴と重なるところが大いにあり、もしかしたら、自身をモデルの一部にしているのかもしれません。
 
その後、母テルマが作家ウォーカー・パーシーのもとに原稿を持ち込んだことがきっかけとなり、1980年に『愚か者同盟』刊行。
初版わずか2000部だった同書は、刊行後瞬く間に話題になり、翌年にピュリツァー賞を受賞。やがて全世界で200万部超のベストセラーとなりました。
 
その後16歳のときに書いた、トゥールの全2冊の著書のもう1つである『ネオン・バイブル』が1989年に刊行。こちらは同題で映画化もされています。
 
文学史的に、トゥールは、ウィリアム・ギャディス(『JR』『カーペンターズ・ゴシック』)、ジョーゼフ・ヘラー(『キャッチ=22』)、デヴィッド・フォスター・ウォレス(『Inifinite jest』)などに連なる、「ポストモダンの傍流」「ブラックユーモアの系譜」の作家として、やや独立した立ち位置にいる作家です。
ギャディスは遺作『アガペー、アゲイプ』で本作について言及し、また、今年1月の弊社好評既刊ジョン・ウォーターズ『ジョン・ウォーターズの地獄のアメリカ横断ヒッチハイク』でも言及されていて(p.149)、カルト映画監督である彼が試みたという、幻の映画化企画も存在しました。
 
のちに『愚か者同盟』は、トニー賞を受賞したこともある劇団ハンティントン・シアター・カンパニーにより舞台演劇として上演され、成功を収めました。

・強烈なインパクトの装画に注目!!

そして、ぜひご注目頂きたいのはこちら。

本書のカバーにでかでかと描かれたこの男こそが、本作の主人公イグネイシャス・J・ライリーです。

肉付きのいい風船のような頭が緑のハンティング帽を無理やりかぶっていた。大きな耳、ボサボサの髪、そして耳そのものから生えた剛毛に押された緑の耳当ては、右と左に同時に出された方向指示器のようだった。ぽってりとした唇は黒く濃い口髭の下で丸く突き出て、両端の小さなしわには不満げな態度とポテトチップのかけらが詰まっていた。

一度見たら忘れられないこの強烈なインパクトの装画は、雑誌『ミュージック・マガジン』の表紙イラストをはじめ、印象的な似顔絵の仕事が数多くある、イラストレーター塩井浩平さんにご担当いただきました。
 
主人公イグネイシャスのキャラがあまりにも個性的で強烈だからか、原書各版や、他言語の翻訳版も、日本版と同様に、彼の顔をでかでかと描いたデザインのものが大半を占めていて、どれも原作通りの描写を、そっくりそのまま再現しています。
 
そんな強烈な装画を、さらに強烈に際立たせるショッキングピンクの装幀は、弊社の海外文学の装幀を数多く手掛けていただいている、山田英春さんにご担当いただきました。
 
カバーの装画とタイトル部分には、二度刷りの特色黒インキの上に厚盛UVニスを乗せ、強烈に目を惹くようにしました。

四六変型判552ページ、厚さ3.8cm・重さ0.66kgの、ちょっとした重量感のある本ですが、ユーモラスな内容に合わせて、頁をめくるときには取り回しが軽快になるよう、柔らかく手になじみやすい質感の表紙が特徴の、上製仮フランス装に仕上げました。

発売日は、2022年7月26日(火)です。
週末には全国の大きな書店に並び始めますが、地方ではなかなか弊社の本を見かけない、という方もおられるかもしれません。ぜひ、お近くの書店、ネット書店などで、ご予約・ご注文下さい。
(書店員の方は、この機会に、ぜひ本書をはじめ弊社書籍の拡売をご検討下さいませ)
 
細部にこだわった紙版をぜひお手に取っていただきたく思いますが、軽快な電子版もおすすめ。
紙版よりほんの少しだけお待たせいたしますが、Kindle、honto、楽天Kobo、Kinoppyなどの各ストアで、刊行後すぐ、7月末頃の配信開始をめざして現在鋭意準備中です。
 
世界で200万部超の超絶ベストセラーにして、アメリカカルト文学史上の伝説的傑作である本作『愚か者同盟』。
 
笑える要素満載、そして感動ありの超個性派ノヴェルの痛快な結末を、ぜひお手に取ってご笑覧下さい。

愚か者同盟
ジョン・ケネディ・トゥール 著
木原善彦 訳
四六変型判・552 頁
ISBN978-4-336-07364-8
定価4,180円 (本体価格3,800円)


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