見出し画像

【話題書】川端裕人さん『ドードー鳥と孤独鳥』装幀制作小話

新刊の川端裕人さん著『ドードー鳥と孤独鳥』は、科学記者「タマキ」とゲノム研究者「ケイナ」の幼馴染ふたりが、かつて江戸時代の日本に来ていた絶滅鳥「ドードー鳥」の足跡と謎を追う長編小説。
ノンフィクションのような味わいの科学小説でもあり、謎を追った先に驚きの結末が待つミステリでもあり、ジュブナイル、あるいはお仕事小説のような主人公たちの成長物語でもある、多面的で豊かな味わいをもつ本作は、おかげさまで話題を呼び、さまざまな雑誌・webメディア・動画サイトで取り上げられ、多くの読者のみなさまにご高覧いただいております。

そんな本書の特徴は、多面的でユニークな内容にとどまらず、日本作家の文芸作品には珍しい、美麗な函入装幀にもあります。
このたびはその装幀制作にあたってのあれこれについての小話を、お届けいたします。

文:国書刊行会(昂)

本書『ドードー鳥と孤独鳥』の装幀と本文デザインは、山田英春さんにご担当いただきました。

さらに本書は、企画を立ち上げた前任編集者と川端さんとの間で、「函入装幀にする」ということが決まっていました。

「かっこいい本にしたいんです」
「じゃあ函入にしますか」

……とはいえ、川端裕人さんといえば、『川の名前』『エピデミック』『ドードーをめぐる堂々めぐり』などなど、数々の話題作を手掛けられてきた作家。
これまでの川端さんの読者の方にも、なるべく手に取ってもらいやすいようにするため、川端さんがおっしゃっていた「持つことのよろこびがある本」に仕上げることを前提としつつも、「なんとか税込3000円以内にしよう」と、頭を悩ませたのでした。

そしてデザイナーの山田さん、装丁資材の発注を担当する制作部の担当に相談。

まずは山田さんに、「頁数を圧縮するためにきっちりと文字を詰め込みながらも、読みやすく、図版をかっこよく見せられるレイアウトを制作して下さい」というお願いをしました。
「紙の値段が上がった」というニュースがしばしば話題になっていますが、まさに死活問題。特に、本文用紙はまさに「本の本体」ですので、頁数が増えるほど、ダイレクトに値段に響いてきます。
ここを、読みやすさに影響を与えないように圧縮する、というのは、ひとつ工夫のしどころでした。

本書は、物語の中に図版や引用が多数挿入されたユニークな特徴をもつ作品です。
原稿見本をお送りして、しばらくして山田さんから届いたのが、どこか博物書のような雰囲気を感じさせてくれる素敵な本文デザインのフォーマットでした。

本文の校正やブラッシュアップを川端さんと進める傍らで、装幀の資材について、小社制作部および山田さんと相談を続けました。
そうして、コストを意識しつつも、絶妙に博物書的な雰囲気がある用紙の組み合わせを選んでいただきました。

紙(竹尾)、しおり・花布(伊藤信男商店)の見本帖。

見返し、扉の用紙には、瑪瑙のような色合いの青緑の紙「ファーストヴィンテージ」の「ターコイズ」と「イエローオーカー」をそれぞれチョイス。スピンや花布も、全体の設計と合った色合いのものを選んでいただきました。

函にはドードー鳥と孤独鳥が遠近感のある配置でデザインされている。
函の裏側のドードー鳥と孤独鳥のマーク。主人公タマキとケイナのふたりの関係性のよう。
カバーと帯を同じ紙に印刷する「付け合わせ印刷」を行い、印刷費を節約。
函のドードー鳥の脚部分。繊細な図版が細部まで表現されている。印刷は中央精版印刷さん。
表紙の用紙は「クロコGA」。ドードー鳥の脚のような質感。
美しい姿に仕上げる製函・製本作業はブックアートさん。

なお本文用紙には、孤独鳥の名前「ソリテア」とひっかけつつ、コストと質感のよさから、「ソリスト」(ミルキー)という用紙を使用しています。
付け合わせ印刷の他にも、ボール紙や見返しの紙の厚さなどなど、細かい部分を微調整するなどの工夫を山田さんと制作部に施していただき、なんとかコスト面での折り合いをつけて、「税込3000円以内に収める」「持つことのよろこびがある本に仕上げる」というねらいを達成できました。

もちろん中身も、外側の素晴らしさにたがわない堂々たる傑作「ドードー小説」ですので、ぜひ、お手に取ってご覧いただけましたら幸いです。

『ドードー鳥と孤独鳥』
川端裕人 著

四六変型判・372 頁
ISBN978-4-336-07519-2
定価 2,970円 (本体価格2,700円)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?