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認識のズレを回避するには

Question

医師が伝えたいと思っている内容と
患者さんや家族、病院内の医療従事者の受け止め方とが
ズレてしまうこともあります。

そのような状況を回避するためには
どのようなことに留意して
学習を進めていけばよいでしょうか。
(医学生)


Answer

質問ありがとうございます。
すばらしい着眼点ですね。

① 存在を覚知することが第一歩

まず質問に答える前に
ご指摘された「認識のズレ」は
現場でも気づかずに見逃されることも多く、
モヤモヤした感じを残してしまうことも
しばしば起こり得ます。

つまり認識のズレを「覚知」できないと
回避することも修正することもできません。

① 認識のズレの存在を知る
② 認識のズレに気づく
③ 認識のズレを回避する

これらの①②③の段階をイメージすると
対応策が見つけやすいかもしれません。

そのような意味で
質問者の方は既に①のステップは
クリアできていると思うので、
②以降のプロセスにフォーカスを当てます。


② 認識のズレに気づく

気づくタイミングは、
・情報を伝達している最中
・何らかのエラーや不具合が起こり判明したとき
これらの2つに大きく分けられると思います。

まず、情報を伝達している最中についてです。
相手の表情やリアクションを見ながら
自分が伝えた情報が正しく伝わっているかを
察せるかどうかが問われます。

ここで重要なのは
「言えば分かってくれるはず」
「書けば内容を理解してくれるはず」
という思い込みをいかに避けられるかです。

ご存知かもしれませんが、
私たちの日常におけるコミュニケーションは
言語的コミュニケーションより
非言語的コミュニケーションに大きく依存しています。
したがって、
非言語的な要素が削がれれば削がれるほど
情報伝達のエラーが生じやすくなります。

②の段階で、トレーニングを積めるとすれば
○ スピーチ/プレゼンテーションのスキル
○ ライティングのスキル
○ 表情やリアクション等から情報を察するスキル
といったノンテクニカルスキルの部分でしょう。

あとは時間を要しますが
共通言語を活用するという方法も有効です。
話し手(書き手)と聞き手(読み手)との間で
用語のレベルを揃えようとする配慮も大事ですね。


③ 認識のズレを回避する

次に、情報伝達において認識のズレが生じたときに
何らかのエラーや不具合が生じるので
起きてしまったものは仕方ないとして、
事例から学びを抽出するという発想です。

医療安全の発想に近いので、
「医療安全」の領域にも興味・関心をもつと
現場でも役に立ちオススメです。

エラーが生じやすい言い回しやパターンを
事前に知っておき、
その対応策を事前に準備します。

医療現場の例ではありませんが、
アルファベット小文字「b」は
数字の6と見間違える筆跡になりがちなので
bを筆記体で表記して明確に区別する
という発想は、エラー回避に有用ですね。

対数で登場する「log」の文字も
「10」と間違えやすいので
「l」ではなく「ℓ」で表記をすることで
認識のズレ(=エラー)を未然に予防します。

医療ネタでいうと
「右」と「左」の文字は
見た目が結構近くで
雑に書いてしまうと
エラーの温床になりがちなので、
アルファベットで「R」「L」と書くか
敢えて平仮名で「みぎ」「ひだり」と書く
というような工夫がなされるのも有名な話です。


まとめ

認識のズレについてのエラーは
今も昔も、あちらこちらでも、
時代や場所を問わず
重要視されるべきテーマだと思います。

直接的な回答にはなっていないと思いますが、
「医療安全」や「診断エラー」の理論が
考え方が近く、将来にも有用になるでしょうから
アンテナを張ってみるのも良いかもしれません。


推薦図書の例

診断エラー学のすすめ /日経メディカル
志水太郎(監修)、綿貫聡(監修)、和足孝之(監修)

重要なテーマであるにもかかわらず
日本ではさほど注目・脚光を長らく浴びていなかった
診断エラー学という領域の名著です。

医療安全という観点でもオススメの一冊です。
表紙を見て、何のメタファーかが分からない方には
特に推奨したい書籍です。