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災害医療志望の医学生への質問回答

最近、自分の中でブームになっている「マシュマロ返し」
匿名のメッセージを受けてコメントをするというサービスである。
https://marshmallow-qa.com/about
今回の記事は、そのマシュマロのQ&Aより引用したい。


Question
医学部四年生です。
今回の熊本豪雨による被災などをみて、
自分も災害医療に携わらないかと思いました。

初期研修から災害医療に関わるのは難しいと思うのですが、
三次施設や災害医療に強い病院で
初期から関わった方がいいのでしょうか?
また救急医が災害医療を行うと思うのですが、
サブスペシャリティは外傷外科の方が多いのでしょうか?


Answer
災害医療をしたいとしても初期研修では
さほど差が付かないように思えます。
東日本大震災のときには自院の研修医も応援に行き、
災害医療の経験を積むというケースもありましたが、
あくまでそれは例外的なのだと思います。

災害医療にも当然のことながら専門性があるので
後期研修以降のキャリア構想の方が重要のように思えます。

---

1) 災害医療に進むためのキャリア


災害の現場では出来ることはが限られているので
外傷外科が必須とは限りません。
(出来るに越したことはありませんが…)

外傷外科が最大限に能力を発揮できるのは
機器やスタッフが充実した施設の"院内"に限ります。

薬剤や医療機器、人的資源が
豊富な病院だからこそ役割を果たせるのです。

かたや、災害医療では、
「CSCAの確立なくしてTTTなし」
という原則があるように
治療や搬送のような具体的なアクションは
指揮・連携、安全、情報網の確立が前提です。

注)
CSCATTTとは
多数傷病者発生事故に医療機関が対応するための
戦術的アプローチを示したものである。

・C: Command & Control 指揮と連携(組織系統の確立)
・S : Safety 安全(自身、現場、傷病者の安全確保)
・C: Communication 情報伝達(通信手段/情報網の確立)
・A: Assessment アセスメント(方針を立てるための情報分析)
---
・T: Treatment 治療
・T: Transportation 輸送
・T: Triage トリアージ


したがって、
災害医療の前線で貢献したいのか
それとも
後方支援病院で治療に当たりたいのかで
話題が大きく変わってきます。

DMATのテキストに書かれているような
災害医療に特異的な実践がしたければ
特殊な講習会に参加することや
災害医療チームに属するのが望ましいと思います。
(DMAT: 災害派遣医療チーム)

これは初期研修が修了してからでも遅くはないので
冒頭の質問の回答としては
「災害医療のキャリアに対して
 特に初期研修には制約は存在しない」となります。

個人的には、
災害医療に関わっている医療チームとの人脈が
医学生や初期研修医の時点で存在していると
その道に進みたいときに構想が描きやすいと思います。


2) 大災害を経験した医学生や研修医が思うこと

大災害や感染症のパンデミックに晒されると
医学生は特に自身の無力感に苛まされるかもしれません。


しかし、
大地震を経験した医学部志望者や
医学生、初期研修医すべてが、
将来は災害医療の職に就いているかといえば
現実は異なるようです。
皆、それぞれの志望科に進んでいます。


災害時に災害医療の専門家が
日常診療から離れ被災地に赴くとき
その留守の穴を埋めるのは
災害医療の非専門家たちです。


災害医療の専門に進むしか
貢献の道は無いかといえば
決してそうではなくて
「自分の出来る範囲で社会貢献する」
ということが
実は一番大事だと思っています。


「災害医療に関わりたい」という強い思いが
芽生えてから十分に時間が経過したときに
もう一度、自身に問うてみると良いでしょう。

そのときに
初志と同じく災害医療そのものを熱望するときは
そこで初めて、その道を選べば良いと思います。


熱が冷めた状態で
志が続いているときは本物です。

かたや、
災害医療に対する熱量が冷めたとしても
それは不正解ではありませんし、
自分を責め立てるほどのことでもありません。
別の道で医療に関われれば
それで良いじゃないですか。

阪神淡路だったり、東日本だったり、
大震災を経験して当時、無力感を味わった若者たちは
今、各方面で活躍しています。

きっと彼らも一度は
災害医療を志すという時期があったはずです。


他方、
自身のスタイルというか
自分なりの社会貢献とは何かを
悩み、考え、試行錯誤をして
キャリアを形成した結果が
「各方面での活躍」に至ったのだと思います。

かくいう私も
東日本大震災のときには初期研修医でした。

テレビに映る悲惨な光景に
日々、胸を痛めながら
映像を眺めることしかできず
拭われることのない無力感に襲われたのです。


でも、ある日、テレビを消して
自分の仕事に専念しようと決心しました。

目の前のことに対して
自分のできる役割を果たすことが
間接的に微力ながら復興の支えになる
と思ったからです。
そう言い聞かせて過ごした日々でした。

直接的には震災の復興に関わったのは
被災して暫く経ってからの2週間の応援でしたが
その経験・機会が無かったとしても
自分の選択は間違いではなかったと
今なら言い切れそうです。

「災害医療に携わりたい」という志は
とても良いと思います。

ただ、その実現の仕方は一つとは限りません。

命を救うことができるのは
医師や医療スタッフだけに限定されないことと同様に
災害医療に「関わる」という視点では
方法や選択肢は多岐にわたると思うのです。

自分の特性や能力、志向を
うまく反映させることのできるキャリアが
将来、見つかると良いですね。

(2020/ 7/29記載)