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【SF】山奥の景色(1)

 空が赤く染まっている。
 カーキー暦5632年(西暦12646年)。我々ゾロイ国民のみならずこの惑星に住む全人類が経験したことのない事態にさらされている。空で何が起こっているのか、我々一般人には知る由もない。すべてを知っているのは各国政府、王族のみである。
 映像受信機をつけても、欲しい情報はまったく手に入らない。新しい炊飯器やら掃除機やら、どうでもいいようなものばかり流れてくる。生きるか死ぬかという具合なのに、そんなことを気にして何になるのか。
「ナスク、ごはんよー!」
母が呼ぶ。おなかが空いていたから、とりあえずリビングに行き、夕食を摂る。食欲は、何にも勝てない。ピーマンの肉詰め。おいしいに決まっている。そして米。そういえば、噂によると、ピーマンの肉詰めやら米やらが食べられるのは我々サジャーン人だけではなく、地球という遥か遠い星の人も食べているらしい。おいしいものを遠くの人と分かち合えるなんて、素晴らしいことではないか。この星に生まれて17年間、いろんなものを食べてきたが、ピーマンの肉詰めと米のセットに勝るものはない。その他にも野菜のサラダや麦茶などを食べ飲みして、食器を片付けて、部屋に戻る。
 我々ハムニャーン家は5人家族。父、母、私、弟、そしてナッテのロージュ。両親は5614年に結婚し、次の年に母は私を産んだ。弟とは7つ違う。ロージュを飼い始めたのは3年前。私が「ナッテを飼いたい」といい始めたのがきっかけだった。
 空はやはり赤い。もうこの状態が3日続いている。どこからも情報を仕入れることができない、ということが恐怖をより一層かきたてる。
 こんな事態でも、行動制限はかけられていなかった。私は外に出て散歩することにした。身の危険を感じたら近くの建物に逃げ込めばいい。目的地を特に定めず、思うがままに歩く。これが好きなのだ。10分歩くと喉が渇く。目の前にあるコンビニでコーラを買う。物価に変動はないようだ。コーラは相変わらずうまい。この街、というかこの国は碁盤の目のように道路が構成されている。だから、歩いていて迷うことはない。くねくねした複雑な道だったらすぐ迷うんだろうけど。サジャーンの他の国にもそういうところはあるし、地球にもそういうところがあるらしい。
 そろそろ家に帰ろうとしていると、どこからか私を呼ぶ声が聞こえる。
「おーい、ナスクー!」
声の主はラッフェルだ。エレメンタリースクール時代からの盟友。
「やあラッフェル、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも、最近見かけなくて心配したよ」
「ああ、外出制限かけられていないとはいえこんな中外に出るのは気が引けててな」
「その気持ちわからなくはないけど、俺はこの赤い空が気になって気になって夜も眠れなくて、毎日何か手がかりをつかもうとそこらじゅう歩き回ってたんだ」
「で、何かわかったの?」
「何にも」
「だよなー」
歩き回るだけで手がかりが見つかったら今頃空は青に戻っているはずだ。
「お前も知りたいと思わないのか、赤い空のこと」
「そりゃあ知りたいに決まってる。でも、どこからも情報を仕入れられないんじゃどうしようもないよ」
「俺にいい考えがある」
「何だよ」
「官邸に乗り込む」
「まじかよ」

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