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【SF】山奥の景色(2)

 ゾロイ国は政府を持っている。国の最高指導者が内閣総理大臣、今はアルフェルド・クーンという人。4年前からクーン内閣で、我が国の状態は徐々によくなってきている。クーン総理は自由進歩党の総裁で、今は自進党政権。自進党は今、単独で6割の議席を保有している。
 政府のNo.2はカターラ・ケン副総理。経済安全保障大臣も兼務している。議員になって34年目のベテランである。ちなみに、総理は47歳。若手である。若い総理をベテランの副総理が支える、という具合である。
 総理官邸はゾロイの首都サン・ロンド・ラミンの中心部キャロに位置している。私が住んでいるのはそこから南東に遠く離れたホース・テリーの北東部、バノナ。乗り込むと言っても当然すぐ行けるわけではない。エレクトリック・カーを走らせ続けても4日はかかる。そして私もラッフェルも運転免許を持っていない。リニアで行くしかない。
 と考えていると、ラッフェルが口を開く。
「まさか官邸まで電車で行くなんて思ってないだろうな」
「そのまさかだよ。だって免許持ってないだろ?無免許で捕まるなんてごめんだよ」
ほんとだよ。しかしラッフェルが言いたかったのはそういうことではなかった。
「歩いていくんだよ」
「は?」
「うん」
「急を要するこんなときに?歩いて行くの?一月はかかるよ」
「それがいいんだよ」
…。まったく理解できない。時速500kmで爆走するリニアがあるのに。歩いていくだと。理解不能すぎる。別に旅要素など求めていない。ただ、ここで言い合いをしていても乗り込むのが遅くなるだけである。とにかく出発することにする。
 北西方向に一直線に行くことはできない。そんな道はないからである。北に進んで西に進むしかないのだが、その道のりは非常に険しい。「ゾロイの最難所」と呼ばれるエリアである。バノナを抜けることは容易だし、ホース・テリーを出るのにも1日かからない。しかし、隣県トリッピーン以北、以西が半端なく危ない。
 我々2人はバックパックいっぱいにものを詰め込み、公園に再集合し、北へ向かう。時刻は11時36分。
 歩き出したと思ったらラッフェルが「おなかすいた。昼ごはん食べよう」と言った。たしかにもう昼ではあるが歩き始めたばかりだぞ、おい。1時くらいにしないか。


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