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裁判所職員定員法の一部を改正する法律案


 第213回国会に閣法として法務省から「裁判所職員定員法の一部を改正する法律案」が提出されました。衆議院で審議され可決し、現在参議院法務委員会で審議中です。

改正概要は1カ所だけで、裁判所職員の定数を21,744人➡21,713人にしますという法律案です。

閣法 第213回国会 15 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案




1・法案内容

裁判所職員法」は、2つの条文からなり、下級裁判所の裁判官と裁判官以外の職員がいます。今回は、第二条の裁判官以外の裁判所の職員(執行官、非常勤職員、二箇月以内の期間を定めて雇用される者及び休職者を除く。)の定数が31人減ります。

 裁判所の職員の定員は法律で決められ毎年法律の見直しが行われます。2023年は、判事補を15人減少して842人に、裁判官以外の裁判所職員を31人減少して21,744人に見直ししています。今回この法律案は、裁判所の事務の合理化・効率化に伴い、裁判官以外の裁判所の職員の員数を31人減らして21,713人にしました。
 「裁判官以外の裁判所の職員」は、裁判所法第4編 「第二章 裁判官以外の裁判所の職員」で決められています。
第五十四条(最高裁判所の裁判官の秘書官)
第五十五条(司法研修所教官)
第五十六条(司法研修所長)
第五十六条の二(裁判所職員総合研修所教官)
第五十六条の三(裁判所職員総合研修所長)
第五十六条の四(最高裁判所図書館長)
第五十六条の五(高等裁判所長官秘書官)
第五十七条(裁判所調査官)
第五十八条(裁判所事務官)※44人増員
第五十九条(事務局長)
第六十条(裁判所書記官)
第六十条の二(裁判所速記官)※5名が事務官へ
第六十一条(裁判所技官)
第六十一条の二(家庭裁判所調査官)
第六十一条の三(家庭裁判所調査官補)
第六十二条(執行官)
第六十三条(廷吏)
第六十五条の二(裁判官以外の裁判所の職員に関する事項)

 
 裁判所で働く職員は司法職と言われ、裁判官は司法試験に合格した人ですが、裁判所事務官、裁判所書記官、家庭裁判所調査官などは特別職の国家公務員で、裁判官のサポートをし裁判に関する事務や人事、会計などを担当します。

 今回の法案提出理由は、裁判所の事務を合理化し、及び効率化することに伴い、裁判官以外の裁判所の職員の員数を減少する必要があるとしています。
 
また、2024年3月8日 衆議院の法務委員会では「裁判所の司法行政に関する件」の説明で、そめや刑事局長(42:23)から人数の増減について次の様に説明がありました。
「事件処理の支援のための体制強化及び国家公務員の子どもの共育て推進等を図るため、事務官を44人増員することとしております。
他方、政府の定員合理化計画への協力等として、(技能労務職員等)75人の減員をすることとしております。なお、この増員等のなかには、速記官から事務官への振り替え5人が含まれております。従いまして、裁判所全体で差し引き31人の純減となります。」

 技能労務職員とは、庁舎の清掃や警備、電話交換等といった庁舎管理等の業務や、自動車の運転等の業務を行っている職員です。

2・裁判所事務官と裁判所速記官

 裁判所事務官は、裁判所書記官の補佐する仕事です。裁判部門と司法行政部門に分かれていて、裁判部門では裁判所書記官の下で裁判関係文書の送付など裁判事務を担当し、司法行政部門は事務局(総務課、人事課、会計課など)で裁判が円滑に進行するよう、人材や設備などの面で裁判部門を支える業務に従事します。

裁判所事務官


 裁判所速記官は、法廷で証言や発言内容を速記し、速記録を作成する職務を担っています。証言を逐語的に記録する必要がある刑事や民事事件の法廷で活動し、被告人や証人の質問や尋問などの発言内容や身振りなどを記録します。
  一方裁判所速記官の新規養成が廃止された理由は、 2023年1月30日 東京新聞によると、最近は速記官の志願者が減るとともに、国内産タイプライターの製造台数も少ないことから、最高裁は98年に新規養成を停止しましたとあります。
 さらに、弁護士会サイドからは、速記官減少反対意見がいくつも出ていました。
2024年(令和6年)3月11日札幌弁護士会
「裁判所速記官制度の維持と裁判における審理の充実を求める会長声明」
最高裁判所は速記制度に代わるものとして録音反訳による方法で記録化することを進めてきた。その録音反訳は外部の反訳業者に委ねられている。
 録音反訳の問題点としては、訴訟当事者のプライバシーに関わるものが法律上の守秘義務のない業者に委託されることになること、法廷で証言を直接見聞きしない者による文字化のため証人の動作等、証人の証言態度までは補足できないこと、録音ミス、消失のリスクが常につきまとっていること、調書完成までに時間を要すること等があげられる。
2020(令和2)年2月3日千葉県弁護士会
速記官の作成する速記録は、裁判所速記官があらかじめ記録を読み込んで法廷に臨み、聞き取りにくい時にはその場で直ちに聞き返すこともできる。書記官作成の要領調書と比べて、臨場感や迫真性に優れ、反対尋問に対する応答のニュアンスがよく伝わるなどと評価されている。


3・裁判件数推移とデジタル化

 日本の裁判は時間がかかると言われています。
民事事件では、双方が主張や証拠を出し合い、裁判所が争点整理を行います。裁判は月1回程度のペースで進められ、判決までには長期間を要します。
 Winny事件を覚えている人は多くないかも知れませんが、2004年5月31日、開発・配布者である金子勇氏が、地方検察庁によって京都地方裁判所に著作権法違反で起訴された事件がありました。未来の開発者の為に闘い、最高裁判所で上告棄却で無罪が確定したのは2011年12月19日です。無罪確定まで7年間かかり、世界に通用するソフト開発者の能力と人材を棄損したとも言われた大事件でした。そして、専門性のない司法の現場の限界を世間に知らしめ、早急な司法改革が叫ばれた事件でもありました。
 さらに、調査捕鯨で国際司法裁判所で敗訴し調査捕鯨を中止に追い込まれたり、知的財産権関係事件の国際裁判管轄に関し権利の登録国の裁判所が専属管轄を有するなどの不利な条件によって裁判が行われたなど、この方面での対応も急務となりました。我が国としては、こうした越境紛争において他国ではなく我が国の民事司法制度が利用されるよう、我が国の民事司法制度全般の国際競争力の強化を図るとともに、国際化社会の進展を踏まえ、国民や国内企業のみならず外国人からも利用しやすい民事司法制度を構築する必要がありました。
 毎年1500人ほどの司法試験合格者がいても裁判官のなり手不足が深刻で、任官して10年未満の「判事補」は長らく定員から100人以上不足しています。事件処理に時間がかかることや、被告の人命に係わる判決をしなくてはならない為裁判官1人にかかる身体的負担が大きく、裁判所のイメージも暗く優秀な人材は総合法律事務所との取り合いになり、裁判官の人員補充は容易なものではありませんでした。
 家事事件が増える中、民事訴訟の長期化、知財訴訟の悪条件、働き方改革を含む司法の人的配分の改善にむけデジタルによる事務の効率化は必須で、裁判記録の保存と活用から最高裁は裁判記録のクラウド化のシステム整備にも着手しており、裁判官などの人的存在を凶悪犯罪などの刑事事件に傾ける姿勢が見て取れます。

裁判所データブック2023裁判所データブック2023

 我が国における民事裁判手続のIT化については、1996年平成8年争点整理の手続に電話会議システムが導入され、遠隔地に居住する証人についてテレビ会議システムを利用した証人尋問が認められ、世界的にみても早期に通信技術を利用した取組が行われてきました。また、平成16年の民事訴訟法改正によりオンライン申立て等を可能とする規定が設けられ、平成18年には支払督促手続オンラインシステムが導入されました。(民事裁判手続等IT化研究会報告書より)

 しかし訴えの提起や準備書面の提出を認める最高裁規則が整備されておらずオンラインでの提出ができない状況にありました。 他方アメリカ、中国、シンガポール、韓国等では、民事裁判手続のIT化が急速に進められ、オンラインによる訴え提起はもちろんのこと、手数料の電子納付、準備書面のオンライン提出、争点整理期日のオンライン参加、さらには全てインターネット上で裁判の手続をすることができるインターネット裁判所の設立など、ITを利用した本格的な取組が進展していました。

裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(概要)
令和3年7月最高裁判所事務総局


  世界のデジタル化から大きく遅れた状況下で、安倍政権下の「未来投資戦略2017」において「迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため、…裁判に係る手続等のIT化を推進する方策について速やかに検討」するとされ、これを受け平成29年10月に「裁判手続等のIT化検討会」が内閣官房に設置されました。そして、「未来投資戦略2018」(平成30年6月閣議決定)においても,上記報告書を踏まえ,民事裁判手続等の全面IT化の実現を目指し、2019年度中の法制審議会への諮問を視野に入れて速やかに検討・準備を行うこととされました。(民事裁判手続等IT化研究会報告書より

 2022年5月、民事裁判の手続きをIT化する改正民事訴訟法が成立しました。2025年度に向けて、「訴状のオンライン提出」「Web会議の活用」「判決文や訴状など記録の電子化」などを段階的に進めます。
  
民事訴訟手続は、個人の間の法的な紛争、主として財産権に関する紛争を、裁判官が当事者双方の言い分を聞いたり,証拠を調べたりした後に,判決をすることによって紛争の解決を図る手続です。例えば、貸金の返還、不動産の明渡し、交通事故等に基づく損害に対する賠償を求める訴えなどがあります。

民事訴訟


 民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年5月成立)と民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年6月成立)が、令和10年6月までの間に段階的に施行されます。 民事訴訟、民事執行、倒産手続、家事事件といった民事裁判手続の全面的なデジタル化が実現することになります。

民事裁判手続ののデジタル化デジタル化



4・衆議院での議論

 2024年3月15日 総務委員会日下正喜(公明党)の質問で、裁判所職員の増減とその役割について質問されていました。
本村伸子(日本共産党)議員による質問は移行期による所内の混乱に対し人員削減を反対を訴えていました。この意見にも一理あり、労働のサポートを十分に行い新しい環境での人材の活用を十分に効果的に行えるよう願います。それが国民が裁判利用にあたって十分に利益の確保が可能となると思っています。

共産党機関紙しんぶん赤旗


5・質 問

①デジタル化ともなればサイバーセキュリティや情報の盗用が問題になってきます。個人の情報にアクセスできる裁判所職員に、裁判のセキュリティ・クリアランス制度は導入しますか?

②まず法律とその専門用語が難しく、単独でも訴訟に対応できる様、法律の言葉を簡単にシンプルに書き直して頂きたいです。さらに、民事訴訟では話し合いや取り下げる案件も多く、訴訟を起こす前にそれらの内容を入力して前例や似た事例へのアクセスが出来たり、訴訟のシュミレーションが出来る様な模擬訴訟のシステムを作って頂くなどして、裁判所の件数と事務負担を削減し、さらに効率化し歳出削減を不断の努力で行うよう制度化すべきですが如何ですか?

③デジタルに精通した者が裁判屋となって訴訟を商売にするものが現れないかと心配しています。AI活用により証拠のねつ造や証言のねつ造なども想定されます。よって、AIを使って常に裁判の事後評価をし職員のスキルアップとインセンティブに活用して頂きたいですが如何ですか?

④有事が起こった場合、対象者は物証をどの様に保持をすべきでしょうか?自撮りの記録は裁判で有効でしょうか?
AI事務官による相談窓口の開設の予定はありますか?


以上です。
この法案は、MHK党から国民を守る党 参議院浜田聡議員からの依頼で調査いたしました。

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※おまけ



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