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気候変動の罠(4)地球温暖化説は打ち出の小槌

 気候変動政策の中心は「脱炭素」ですから,CO2を出さないエネルギー源への転換が求められます。しかし,それには発電設備から製造設備まで,大幅な変更が必要になるので,多額の費用が掛かります。これを企業だけでやろうとしては本当に大変です。

 この側面を捉えて,脱炭素のための活動は費用が掛かりすぎるので,経済を破壊するという論調がありますが,これは物事の一面しか見ていない見解です。むしろ,実態は逆で,地球温暖化説はうまく使うと、次々と小判を出してくれる打ち出の小槌なのです。

 このことは、財政の仕組みの本質が分かっていたら,すぐに理解できます。多くの人は,国家は国民から税金を集めて、それを配分していると考えていると思います。ですから,脱炭素についても,国家の税金がそちらに使われるので,経済が破壊されてしまうと考えてしまうのです。

 しかし,これも本当は逆で,国家がまず貨幣を発行して,国民に支給し,後から税金で回収しているのです。国家がまず貨幣を発行しなければ,国民は税金を貨幣では納められないので,どちらが先はすぐわかると思います。つまり、国家は国民の財産の再配分機構ではなく、財産支給の機構なのです。

 そのときの貨幣の本質は国家の借金です。つまり、国は将来の国民の労働から返してもらえることを担保に,お金を国民に支給し、年末に税金として返済してもらっているわけです。ですから、明文化された 規則としての財政規律がなければ、構造上はいくらでも支給できるのです。

 もちろん,支給しすぎるとお金の価値が暴落するリスクが出てくるのですが,それがどのくらいの額なのか,あてにならない理論的な仮説はあっても,実際には誰にも分からないというのが現実です。だからどの政治家も隙さえ見れば,お金をばらまこうとしているわけです。今は選挙なのでこのことが良く分かりますよね。

 このあたりの詳しい説明は,現代貨幣理論(MMT)を参照していただけると幸いです。MMTは,財政赤字がいくらになっても構わないとする暴論とみなす人たちもいますが,丁寧に読んでいけば,貨幣が暴落する危険水位の理論のところ以外は,ほとんど批判することができません。なぜなら,それは理論ではなく,事実だからです。

 したがって,問題は政府がどこに配分するかです。配分するわけですから,理由が必要です。その時に,地球温暖化説はきわめて有力で,温暖化を防止するために予算が必要と言えば,相当巨額の予算でも通ってしまう現実が出来上がっています。実際,新エネルギーの開発やエネルギー源の移行には膨大な費用が掛かるわけですから、予算がなければ何もできません。

 これは支給を受ける側だけにとってだけではなく、政府にとっても同じで、炭素税の導入など、政府の税収を増加させるための手段としても使えるわけです。先日もニュースで流れたように、EUのように120億の環境債を発行することもできます。

 そう考えると,地球温暖化説がどんどん過激になって,目標もどんどん厳しくなっていく理由が分かります。想定される被害が大きければ大きいほど,達成すべき目標が厳しければ厳しいほど,多額の予算や政府の収入を獲得できる可能性が広がるのです。まさに,打ち出の小槌ですね。

 しかし,そんなことをして目標が達成できなければどうするのか,と尋ねられるかもしれませんが,そんな超長期の目標に対する責任なんて,誰も何も感じていません。どうせそのころは社会の第一線からはいなくなっているのですから,後世の誰かが何とかしてくれるはずです。

 そんな無責任なと言われるかもしれませんが,人間社会はこのようなことをずっと繰り返してきたので,今に始まったわけではありません。たとえば,原子力発電などは,核燃料廃棄物の処理が決まっていないのにも関わらず,将来の技術革新や政治的決着で何とかなるだろうと,見切り発車し,現在も処理方法の決まっていない核燃料廃棄物を増やし続けているのです。

 しかし,そんな無責任な原子力発電が,核燃料廃棄物の処理問題が表面化する前に,人災や天災によって,停止もしくは縮小を余儀なくされているのは,いかに人間の将来への予測が甘いかを示していると思います。したがって、巨額の財政赤字も同じような意味で実は重大な問題ではあるのです。

 もちろん,国家財政を脱炭素にだけ使用するわけにはいきませんし,お金の回らない産業から批判も出るでしょう。また,本当に脱炭素だけを目標にして,将来役に立たなくなるかもしれない技術に多大なお金を突っ込むようなことがあれば,それは確かに大きな財政上の損失を出す可能性もあります。

 したがって,気候変動をめぐる財政政策は,政府だけで完結することはできません。政府が支出する多額の予算をうまく循環させて国民全体が潤うようにしなければなりません。そのためには民間経済も活用しないといけません。その仕組みができているかどうかで、打ち出の小槌が小判を出すか、ガラクタを出してしまうか決まるのです。

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