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SDGsに意味はある(3)経営者を応援しよう

 これまでは,SDGsに否定的な見解を書いてきました。しかし,SDGsにも意味はあります。そうでなければ,社会を指導する立場にある人たちが,こぞってSDGsをやろうとするわけがありません。

 とりわけ企業経営者がそうです。企業は利益を追求する組織ですから,無駄なことをするわけがありません。その利益責任を最も強く課せられているのが経営トップたちで,彼らがあえてSDGsを推進しようとするには,意味があるはずです。

 日本企業の団体で,経営トップの中のトップが集まる経団連は,Keidanren SDGs(https://www.keidanrensdgs.com/home-jp)というページまで作って,会員企業にSDGs活動を奨励しています。経団連は,SDGsに限らず,CSRやESGなど,企業の社会的責任に大変敏感です。これを企業イメージの向上のためだけと理解するのは困難です。

 実際,私も多くの会社の経営トップの方とお会いして,真剣にESG経営やSDGsを推進しなければならないと思っておられる方が多いことを理解しています。もちろん,横並びでやっている企業も多いのですが,経営トップがその意義を正しく理解して,全社に号令をかけている会社も最近では増えてきています。このような動向は,何も日本だけでなく,世界共通の現象でもあります。

 ここからは私の解釈ですが,これは経営者たちが経済偏重の社会の危機を一番実感しているからではないかと思っています。経済格差が現代社会の一番の課題の一つであることは世界の共通認識となっており,企業がその元凶と思っている方も多いと思いますが,実は経営者こそ,この極端な格差の問題を切実に感じています。

 なぜなら,1人に10億円払うよりも,100人に1千万円払う方が,経済が活性化して企業が潤うことを一番知っているのは彼らだからです。アメリカの経営者の団体である「ビジネスランドテーブル」は,2019年に,株主中心主義から,顧客や従業員を優先するステークホルダー中心主義に転換すべきと提言しています。

 つまり,経営者はもうこれ以上,株主利益のために動きたくないのです。考えてみれば,一時的に会社の株を保有しているだけで,経営に全く関与していない株主に報いるよりも,製品やサービスを利用してもらっている顧客や,何よりも会社のために懸命に努力している従業員に報いたいと思うのは,人間として当然の感情でしょう。

 ところが,そんなことを正面切って言うことはできません。従業員の給料をアップすることは,コストの上昇,利益の減少を意味しますから,株主から歓迎されません。逆に,不採算部門(それも株主からみての話です)のリストラを断行すれば株価が上がるのです。このようなことに不条理を感じている経営者は多くいるはずです。

 しかし,形式上,経営者は株主のエージェント(代理人)ですから,ご主人様に楯突くわけにはいきません。しかも,コーポレートガバナンスが強化され,ますます株主からのコントロールが強まっており,社長の首に鈴がつけられようとしています。

 このような状況でSDGsを見ればどうでしょうか?利益をたくさん出して,株主に報いるよりも,SDGsの名のもとに,社会や環境のためにお金を使うと言えば,株主も正面から文句を言いにくい状況になっています。最近は,従業員の給料アップもESG的に評価しようという動きもあります。しかも,環境や社会に配慮したESG投資という,実態があるのかないのか分からない投資がブームなので,株主も支援する構図まで出来上がっています。

 株主に払うくらいなら,社会や環境そして従業員のためにお金を使いたい。そのときに,SDGsは強力な口実を与えてくれます。そのことに気づいている経営者は少なくないと思います。しかし,絶対にその本音は言ってくれないので,想像するしかありません。けれども,そう考えないと,頭が切れて行動力もある彼らが,SDGsのような意味のない活動を奨励するわけがないと思うのです。

 実体のないものには,実体のないものでしか対抗できません。経済は貨幣という実体のないものから成立していますから,SDGsという実体のないもので抵抗すると意外に有効です。その点からみると,SDGsは完璧と言ってもいいほどよくできています。なぜなら,国連という世界の最高権威がお墨付きを与えた,中身のないただの入れ物だからです。

 こう考えればSDGsにも意味があります。SDGsのバッチを付けて歩いている人を見たら,勇気をもって声をかけ,応援してあげましょう。そうすれば,世界が変わります。

※タイトルは少し変更しましたが,連載番号は継続しました。

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