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#3 BLは様式美だ!

ステルス腐女子によるBL解説連載3回目です。
萌えは女を救います。推し作品があると肌ツヤ良くなって生活に彩りが増すんです。最近キラキラし始めたあの女性も、もしかしたら、脳内で推しをブチ犯してる腐女子かもしれませんよ。

様式美の共有がBL趣味の醍醐味

BL趣味の楽しさは、隠されたがゆえにハイコンテクスト化したというところにあります。
立場や人種、言語が違っても、共有された様式美への愛によって、創作を楽しむことができるのがBL趣味の良さです。
つまり、腐ったネタを楽しむのは、様式美やローカルルールへのリスペクトがあってこそ。

プロレスファンに「八百長じゃん」なんて言わないでしょう。
池田屋の柱に刻まれた刀傷に「当時の池田屋は鳥羽伏見の戦いで焼失してる」なんて言いません。
ロンドンのシャーロックホームズ博物館に飾られている事件の証拠品たち、あれにツッコミを入れるほうが間違っています。

これらは全て、様式美へのリスペクトがあれば決して行わない行為です。敬意を欠いた状態で「オタクいじってやろ」という程度の意図でフォーカスされるのは、腐女子とか関係なく「ハァ?お前らなに?」って言いたくなるものです。ほんとオタクって面倒くさいですね。

最低限の用語と様式美解説

ひとまず最低限の用語と様式美だけ、いくつか紹介します。
先に逃げ道をつくっておくと、ここからの解説はいち腐女子としての私の解釈であり、世界中のBL好きを代表する見解ではありませんので話半分に聞いてください。

(義務教育)カプ、CP

カップリング、とも言います。◯くんと△くんがいたとして、

◯×△
という表記だと、◯くんが攻(せめ)と呼ばれる棒役(ゲイ用語でいうところのタチ)、△くんが受(うけ)と呼ばれる穴役(ゲイ用語でいうところのネコ)。これはメチャクチャ厳密です。逆表記は役割が変わる(リバ・逆カプ)のでまるで違うものになります。要注意。
あとは、

◯←△:△くんが(ネコ役として)◯くんに片思い。
◯→←△:互いに片思い(恋人未満の両片思い)
◯△◯:リバ。柔軟にタチネコが入れ替わる
左◯:◯くんはタチ、という意味。
△右固定:相手が誰であれ△くんはネコ。総受け(そううけ)とも言う。

などなど。最近はCP表記で「×」を使わない場合も増えています。

(初級編)百合・NL・ホモ・薄い本・地雷

百合…あるいはGL。女性どうしの恋愛描写のこと。ゲイ雑誌「薔薇族」から男性同性愛が「薔薇」と表現されたのに対しての言葉です。女性同性愛的な表現は総じて「百合」と呼ばれます。
NL…男女間の恋愛描写のこと。先にBLとGLがあって、それに対して「異性愛カップリング」を表記するために生まれた言葉です。潜在的に、同性愛をアブノーマルとするニュアンスが含まれるため、言い換える言葉はきっと必要。ただ「ストレート」だと蒸気機関車みたいになっちゃうし「ヘテロ」はまだあまり知名度がないため、現時点では「NL」表記がスタンダードになっています。
ホモ…そのまんま、男性同性愛を意味する古い言葉、「ホモセクシャル」のこと。現在「ホモ・レズ」という言葉は差別用語で、当事者を尊重する呼称としては「ゲイ・ビアン」があります。それを知ったうえでBLに「ホモ」という言葉を使うのは…BL好きの自虐的ニュアンスを加味しても、あまり適切とは言えません。以前は無自覚な差別として私も使っていました。すごく反省してます。
薄い本…同人誌の意味。個人出版された書籍は概ね「薄い」ことから。A5サイズが多め。文庫やコミックサイズも「本っぽい」ため人気ですが印刷代が高くてなあ…。300頁を超えるような、とてもブ厚い「薄い本」もあります。
地雷…嫌いなCP、設定、シチュエーションなど。嫌いを超えて「見たくもない、認識したくもない」という激しい拒絶反応を伴う場合もあります。

このような言葉を使って、たとえばTwitterの140字以内で萌えを語ると、

◯△は左右反転すると百合み出るから固定過激派の気持ちもまあ分かるけど私は◯△◯から沼ったから△にも男の子であってほしいしスパダリ◯は解釈違いなのでヘタレ◯の同軸リバ布教のために今日も支部に種をまいています。

こうなる。
これを翻訳すると、こうじゃ。

◯くんと△くんの関係を考えるにあたり、「どちらが挿入するか」の議論がある。
一部には、「◯くんが挿入する側で△くんがされる側でないと許せない」と強くこだわる人がいることは知っている。
確かに、△くんが挿入する側、◯くんがされる側という関係性を想定すると、△くんの無邪気で好奇心旺盛な性格と◯くんの根は繊細な部分から考えて、猛々しい行為は行われないと推測できる。どちらが抱かれているのかも判別がつかないような受動的な睦み合いになるであろう。それを嫌だと感じる気持ちにも一部は賛同したい。
しかし、私は△くんがただ◯くんにリードされるだけのBLには萌えない。△くんの男らしい無鉄砲さは行為の時にも発揮されてほしいし、一見頼りになる◯くんがそのまま「完璧な理想の彼氏」というだけのキャラクターになるのは納得がいかないのだ。
◯くんは根が繊細で、一方的な関係は是としないはずである。したがって役割を交換することだってあっていいと思う。
というか、私がそもそも彼らに萌え始めたのは、そんな関係性の2人を見たからなのだ。
したがって、かっこいいだけではない◯くんと、無邪気な△くんは互いにタチネコ入れ替わっていてほしいし、そんな2人の魅力を伝えるために、私は今もpixivに投稿を続けているのだ。

文字量5倍だ!(完全に捏造なのに翻訳しながら自分で「ちょっといいなこの二人」って萌えました)

(中級編)モブ、オメガバース、その他特殊性癖など

イェーイついてきてるー?

ここまでが初級編。ここからちょっとキツくなります。
今回はさらっと紹介するに留めますが、私の好みがおおいに入っているので次回以降詳しく語らせてください。

モブ…「その他大勢」を表す言葉から派生して、ストーリー展開の都合上適当に出てくるあて馬的キャラクターを意味します。「おじさん」として出て来ることが多い(モブおじさん)。
オメガバース…ここ1.2年の流行になっている特殊設定です。現実とは違うかたちでの性差別が社会システムに完全に組み込まれている世界。野生の狼の生態を参考にしており、派生系も複数。めっちゃシコい。
リョナ…猟奇的、グロテスクな描写のこと。虐待や殺害などの「痛み」をメインにした表現。
特殊性癖…年齢操作したり乱交させたり性別入れ替えたり妊娠させたり(男をね)と色々ありますが、いわゆる「人間の男二人が布団の上でキスしていちゃいちゃして服脱がせてドッコイショ」以外の要素が入ればだいたい特殊性癖にあたると思います(リョナも特殊性癖の一つ)。最近慣れてきちゃって何見てもあんまり引かないけど表現の限界に挑戦だ!みたいな作品もあって楽しい。ただし稚拙だとただ不快という劇薬。
メスお兄さん…次回詳しく解説します。私の大好物

なんでこんなに言葉に神経質なの?

上記「NL」や「ホモ」の解説にあるように、BL界隈は言葉のトレンドには非常に敏感です。これは性的娯楽特有のデリケートさが関係しています。

BLは荒れやすい

BLは娯楽として成熟と分化が進んでいます。二次創作であれば著作権や肖像権も絡みます。つまり、BLの話はどうあっても荒れやすいのです。政治と野球の話題と同じくらいに。

二次創作BLの界隈が荒れて騒ぎが大きくなると、ヘタすると著作者にも騒ぎが飛び火します。二次創作は隠れて楽しむべきものなので、隠れていられなくなった人たちは、去っていきます。箱庭に爆弾が落とされたような状況になってしまうのですね。
大切な箱庭を守るためには、自然と慎重に言葉を選ぶようになります。
この内省的な傾向は、男性向けの性娯楽にはあまり見られない特徴だと思います。

世間の常識の変化

もうひとつ、様式美やトレンドの移り変わりに腐女子が敏感な理由としては、「常識の変化」も挙げられます。

20年くらい前までは、同性愛といえば「禁断の関係」みたいな描かれ方をしていました。
同性愛をモチーフにした作品の多くで、受役が性虐待を受けていた時代の話。

(いま読むとホント誰とでもよう寝てるわジルベール…)

でも今は、少数派の性嗜好を「特殊なこと」「異常な事」と認識するほうが間違っているという認識が浸透しつつあります。
たとえば現在、化粧や美装を好む男性を「気持ち悪い」とか「オカマ」と揶揄して排斥したり、笑いの対象にするのはイジメや尊厳の否定とされるでしょう。性的少数派に対しても、似たようなムーブメントが存在しています。
そんな中で同性愛を「禁断」とするのは、もはや陳腐ですらある。

BLは娯楽です。そして、娯楽が陳腐なのは悪いことです。陳腐にしないためには、トレンドから外れた用語を使っていてはいけないんです。

次はこってり行かせて

キモくないように気をつけて書いていったら、だいぶ教科書的な解説になってしまいました。もっと腐女子の業の深さについても言及したかったのですが文字数がね…。

次回は業の深い腐女子としてのワシのこだわりについて語らせてください。
たぶん、次はだいぶねちっこくなります。

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投稿日 2017.07.20
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です

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