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レミゼとラーメン二郎に共通する「もうやめてお腹いっぱい」感

「みんなーどこで遭難したー?私はワーテルロー!」

とにかく長いことで知られるレ・ミゼラブル。読み終わってみると京極夏彦のレンガ本が可愛く見えてくるレベルです。直訳が「哀れな人々」で訳題は「ああ無情」。
タイトルの通り、ひたすらに愚かで可哀想な人が出てくるだけの話です。面白いけど長い。脱線が多い。そして脱線も長い。私はところどころ遭難しながら三ヶ月かかりました。
レミゼ読破のカギは、遭難ポイントを知ってやり過ごすことです。修道院とかマリウスの貧乏生活とか、ななめ読みでいいですホント。
読み慣れてくると「サブタイトル「隠語」…ここはユゴーさんのお説教パートだ我慢して受け流そう」とか「あっこれはボルドー屋敷!よし来たぞご褒美ドラマパートだ!」みたいに思えてくるから!(失礼)。ドラマパートはほんっとに面白いから!

基本は「パン一個盗んだおっさんが生涯を通じて可哀想な扱いをされる話」でいい

パン一個盗んだおっさんの名はジャン・バルジャン。実は盗んだというか盗んだと思われたというか開き直ったというか…投獄されて、脱獄して捕まって…を繰り返して19年間も鎖に繋がれていましたという話から始まります(まあ始まるまで2週間くらい知らない神父の話読まされたけどね)で、「銀の燭台」で有名な、神父とのエピソードで神の愛を知ったことが彼を変えます。色々あって辛かったけど彼は聖人であり続けようとした。でも最後の最後まで可哀想な扱いをされ続けた。だいたいそんな感じ。
ミュージカルや映画では割と救いがありますが、原作を読んでいると、ジャンが可哀想過ぎてお腹が痛くなってくるレベル。私は読み終わった時には、コゼットとマリウスのコンビが大っ嫌いになっていました。幼女の頃のコゼットはあんなに哀れで愛くるしかったのに女ってやつはよー…

盛り込みすぎでしょユゴーさん

ご冗談でしょう、と言いたくなる盛り込みっぷりが、レミゼを長くしている要因です。
さっきの「パン一個盗んだ男」の話が始まるまで2週間くらいかかります。なんか立派な神父の話が延々と続き、浦沢直樹のコミカライズならこれだけで2年はかかるレベルです。このレベルの脱線が作中たびたび起こります。ワーテルローなんか途中で自分が何を読んでいるのか判らなくなりましたよ。
ヒロイズムの物語で見たジャンは、「苦悩する不殺のヒーロー」。るろうに剣心とか鋼の錬金術師とかで有名な主人公像ですね。
あと、ヒロインのコゼットと、恋人のマリウス。恋に魂を救われる物乞い少女エポニーヌに、大人より大人びた浮浪少年のガヴローシュ。美しき革命の先導者アンジョーラ(なんか唐突に棒術の秘技をつかうw)と、キャラクターも結構な盛りようです。多いし濃い。いわゆるファンタジーノベルの脱トールキンが不可能なのと同じで、ドラマの脱ユゴーはたぶん不可能です。全部入ってるから。

哀れさに定評のあるフォンティーヌ

出てくる人出てくる人みんな哀れで正直目も当てられない勢いなのに、他の追随を許さない哀れさなのが序盤に死ぬコゼットの母フォンティーヌ。
田舎の小金持ちが見栄はるために都会に出した育ちがいいだけの大学生に遊ばれ、産み落としたコゼットを(よりによって)道で会ったキングオブダメ人間・テナルディエに任せます。
現在の日本円で換算して、お針子で稼ぐ月15万くらいの給料から、毎週2万円や3万円…といった額をコゼットの薬代として払い続ける(もちろん嘘、コゼットは虐待されている)。そして20万円の借金が払えずに、売春婦になる…。このやたら現実味のある金額がもうやめてさしあげろ感を引き立てます。
次に哀れなのは、マブーフじいさんかなあ…倹しく貧しく正直に生きながら、ゆるゆるとジリ貧に陥り、ついには生涯を捧げると誓った大切な研究資料も食いつぶされていく展開は、これまた涙と胃痛を誘います。アンジョーラの敬意とか何の救いにもなりゃーしません。映画や舞台では完全に無視されているあたりも泣けます。あんなに可哀想なのにムダ扱い。

ラーメン二郎の既視感

30過ぎて初めてラーメン二郎に行き、
「多いよ…美味しいけど…多いよ…もういいよ…いや食べるけど…」というあの独特の感情とともに食料と格闘しながら脳裏に浮かんだのが「ああ…この感じレミゼ読んでた時に感じるのと同じやつだ…」
読書中の「長いよ…面白いんだけど長いよ…」という思いと、読み終わった後のムダな達成感。同じく読破した人と語り合いたい感じ。

身も蓋もない事ですが、映画やミュージカルが本当に上手にまとめてるので、原作は読まなくてもいいかもしれない。
それでもこの長さと濃さ、そして面白さ。読んだ人と語り合いたい感。
歴史の記念碑的な作品だと思います。ラーメン二郎とか名古屋が世界に誇る喫茶マウンテンのマゾ感が好きな人には強くおすすめしたいです。


書名:レ・ミゼラブル
著者:ヴィクトル・ユゴー
投稿日 2015.12.01
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です



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