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[前半] 国慶節の"リベンジ旅行"で注目を浴びた『海南省』

こんにちは。
中国大好きな竹内 雄登です。

記念すべき第1回目は、『海南省』の都市情報を記録・発信します。
海南省は国慶節の"リベンジ旅行"の目的地としてかなりの旅行客が訪れたことで注目を浴びており、気になりましたので調べてみました。

結構ボリュームが多いので、前半と後半に分けることにしました。

[前半]
・海南省の概要(地理, 人口, GDP, 自由貿易)
・コロナ前の旅行業・飲食業


[後半]
・コロナ後の復興政策
・コロナ後の観光業
・免税

ところで、みなさんは海南省がどんな場所なのかご存知でしょうか?

今回は以下の疑問にお答えできるようにまとめてみました。
少しでも気になった方は、ぜひこの記事を読んでいただけると嬉しいです。
お時間がない方は6. 前半のまとめだけでもご覧ください。

・海南省ってどこ?どんな街?
・中国のハワイって言うけど、本当にそうなの?
・自由貿易試験区に指定されたらしいけど、詳細はどんな感じ?

かく言う私も、恥ずかしながらまだ行ったことがなく、「中国のハワイ」として親しまれていることくらいしか知りませんでしたので、この記事を通してとても学びになりました。
調べる中で、海南省に魅了されたので、来年は行こうと心に決めました!笑

それでは、海南省の概要をまとめます。

1. 海南省の地理

海南省は中国の最南部にある省(以下画像の赤い箇所)で、海南島と南シナ海の西沙諸島、南沙諸島、中沙諸島からなります。
海南省の緯度は北緯18~20度で、ハワイとほとんど同じであるため、確かに「中国のハワイ」と言えるようです。

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画像出所:Wikipedia「海南省

省都は海口市で、海南省の北部に位置しています。
第二の都市は三亜市で、海南省の最南部に位置しています。
なお、都市のグレードで言うと、海口市は2級都市、三亜市は3級都市です。

海南省地図

ちなみに、過去にビル・ゲイツ氏、イーロン・マスク氏、ジャック・マー氏などが参加したことで話題になった、ボアオ・アジア・フォーラム(ダボス会議のアジア版)の開催地であるボアオも実は海南省にあります。ボアオ(博鰲)は海南省東海岸の瓊海市にあります。

なぜアジア・フォーラムの開催地を海南省のボアオにしたのでしょうか?

理由はいろいろあると思いますが、一帯一路の政策と関係があると言われています。私は海南省が地理的に東南アジアと海路で繋がっている、かつ経済特区だから、ということが理由の一つだと考えています。

2. 経済特区と自由貿易

1988年、海南省は経済特区に指定され、経済特区設立30周年の2018年4月には、習近平国家主席により、同省に自由貿易試験区と自由貿易港を設立すると発表されました。その発表翌日には、「海南における改革開放の全面的な深化についての指導意見」が公開されました。

そして、2020年6月には「海南省自由貿易港建設全体方案」を公開し、以下を目指すことを発表しました。

「海南省自由貿易港建設全体方案」
・2025年までに貿易・投資の自由化・円滑化を進め、自由貿易港としての初歩的な体制を構築する
・2035年までにさらなる開放政策を展開し、高水準の自由貿易港を実現する

当該方案による税への影響について、JETROさんが上手にまとめられていたので、以下引用します。

海南自由貿易港では、島内全域で「関税ゼロ」とするなど、貿易の自由化を実現する計画だ。島内全域での運用開始に先駆け、一部の輸入商品に対しては先行的に輸入関税と輸入増値税、消費税を免除する。全面的運用開始後には簡易税制を実施し、輸入課税商品リスト以外の商品に対しても輸入関税を免除する。また、海南島居住者は免税商品の購入が可能となるほか、非居住者は海南島で年間上限額10万元(約150万円、1元=約15円)以内の免税商品の購入が可能となる。
また、域内企業に対する優遇税制も導入する。海南自由貿易港に登録し、実際に運営を行う奨励類に該当する企業に対し、企業所得税を軽減して15%とする(通常25%)。海南自由貿易港に設立された観光業、現代サービス業、ハイテク産業の企業が2025年までに新規の対外直接投資で得た所得については、企業所得税を免除する。企業の設備投資については、支出が発生した当期に一時的な税引き前控除または加速償却が可能となった。

引用元:JETRO「海南省自由貿易港建設計画を発表、島内全域で「関税ゼロ」に」

方案の優遇税制による企業誘致効果は大きいようで、株式会社クララオンラインさんによると、

海南自由貿易港建設計画が発表されてから 50 日間で、法人を含む事業体の登記件数は、海口市だけで 1.5 万件あまりに達した。

引用元:株式会社クララオンライン

とのことです。

また、ローソンさんは海南省へ出店する計画を今年の7月末に発表し、1号店は今秋に海口市へ出店するそうで、2023年までに海南省内で300店舗の出店を目指すとのことです。

3. 海南省の人口

そんな海南省にはどれくらいの人口がいるのでしょうか。

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海南省の人口は2019年末時点で、945万人です。
うち、海口市は233万人で省全体の24.6%を、三亜市は63万人で省全体の6.7%を占めています。

イメージしやすい数字と比較すると、
2020年4月時点の東京23区の人口が約968万人なので、海南省全体の人口はそれよりちょっと少ない感じです。
渋谷区の人口が約23.6万人なので、ざっくり言うと
『東京23区 - 渋谷区 = 海南省』という感じです。

また、中国全体と比較すると、2019年末時点の中国の総人口は14億人ですので、海南省の人口は中国全体の0.7%ほどしかいないということになります。
『東京23区 - 渋谷区 』の規模を誇る海南省の人口でも1%に満たないことから、中国の人口の多さを改めて実感しました。

4. 海南省のGDP

では、GDPはどれくらいなのでしょうか?

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2019年の海南省の名目GDPは5,309億元(約8兆円, 1元=15円で換算)です。うち、海口市は1,672億元で省全体の31.5%を、三亜市は678億元で省全体の12.8%を占めています。
2012年から2019年にかけてのCAGRはそれぞれ以下の通りです。
・海南省:9.3%
・海口市:10.7%
・三亜市:10.8%

2019年のGDP成長率を前年比で見てみると、それぞれ以下の通りです。
・海南省:9.9%
・海口市:10.7%
・三亜市:13.8%

2019年の中国全体のGDP成長率6.1%と比較すると、海南省は国全体よりも高い成長率でGDPを増加させていることが伺えます。
ただ、前述の通り、海口市は2級都市、三亜市は3級都市なので、伸び代が大きいことは留意するべきです。

また、中国全体と絶対値で比較してみると、2019年の中国全体の名目GDPは99兆元(約1,486兆円, 15円/元で換算)ですので、海南省の名目GDPは中国全体の0.5%ほどしかいないということになります。

ちなみに、2019年の海南省の名目GDP約8兆円がどれくらいの規模かと言うと、2018年のスリランカの名目GDPが約9.3兆円(889億ドルを105円/ドルで換算)で、同年のミャンマーの名目GDPが約7.2兆円(686億ドルを105円/ドルで換算)なので、2018年のスリランカとミャンマーの名目GDPの中間くらいの規模です。
年間の名目GDPが約8兆円もあるのに中国全体の1%にも満たないなんて、中国凄まじいです。

5. コロナ前の海南省における旅行業・飲食業

上記1.にて海南省が「中国のハワイ」であることを確認しましたが、中国随一のリゾート地として名を馳せている海南省の旅行業・飲食業はどうなのか確認してみましょう。

5-1. コロナ前の旅行業

まず、海南省への旅行の魅力は何でしょうか?
旅行代理店やホテルの売り文句を見ていると、以下が主要な魅力みたいです。
・ビーチ
・マリンスポーツ/アクティビティ
・スパ
・豊かな自然と多様な生態
・海南料理
・免税でのショッピング

「免税」は海南省の重要なキーワードの1つなので、後半にまとめます。

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画像出所:文芸春秋「CREA Traveller

さて、写真からでもその魅力が伝わってくる海南省にはどれくらいの宿泊客がいるのでしょうか?

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海南省における宿泊客数は2015年から2019年にかけてCAGR11.0%で成長し、2019年には6,825万人に達しました。
うち、海口市は2,820万人で省全体の41.3%を、三亜市は2,396万人で省全体の35.1%を占めており、両市だけで省全体の76%以上を占めています。
なお、海口市における宿泊客数については、同市の統計公開ポリシー変更により、2017年以降のデータは宿泊客数ではなく、旅行客数を指していますので、ご留意ください。


次に、旅行業における売上を見てみます。

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宿泊客数の増加に伴い、旅行業における売上も成長基調にあります。
2019年の海南省の旅行業売上は1,058億元(約1.6兆円, 15円/元で換算)です。うち、海口市は321億元で省全体の30.3%を、三亜市は633億元で省全体の59.9%を占めており、両市合わせて90.2%を占めています。
また、2015年から2019年にかけてのCAGRはそれぞれ以下の通りです。
・海南省:16.6%
・海口市:19.0%
・三亜市:20.3%

注目すべきは、三亜市の宿泊客数は海口市よりも少ないのに、旅行業の売上では三亜市の方が大きいことです。
これは、商業目的で宿泊する比率が三亜市よりも海口市の方が高く、観光目的で宿泊する比率が海口市よりも三亜市の方が高いからだと考えています。
また、商業目的で宿泊する比率が高い場合、観光目的の宿泊客よりも滞在日数が少なくなるだろうことも理由の1つだと考えています。事実、海口市の旅行客の1人あたり平均滞在日数は例年1.45日前後です。三亜市の旅行客の1人あたり平均滞在日数を知りたかったのですが、残念ながら開示されていませんでした。

旅行業における売上を中国全体と比較すると、2019年の中国全体の旅行業売上は約6.6兆元(約99兆円, 15円/元・6.72元/ドルで換算)なので、海南省は中国全体の1.6%ほどを占めるということになります。

5-2. コロナ前の飲食業

海南省にはどんな料理があるのでしょうか?

四囲を海に囲まれており、中南部に山岳地帯があることから、山海の幸に恵まれているようです。
海南4大料理として、文昌鶏・加積鴨(アヒル)・東山羊(ヤギ)・和楽蟹が有名です。 

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画像出所:海南省政府観光局公式サイト

また、南方に位置するため米文化であることから、米を使ったご飯もの・麺類などが多彩で、竹の節にモチ米を入れて炊き上げた「竹筒飯」、少数民族である苗(ミャオ)族の伝統料理の「苗族五色飯」、ココナッツの実にモチ米を入れて炊き上げるココナッツご飯「椰子船」、多彩な具材と米粉の麺を混ぜて食べる「海南粉」のほか、原生米から作る「山蘭酒」などの酒類もあるようです。

海南料理(瓊式)は他にも、 万寧・大洲島産の「燕の巣」、ダン州・臨高・澄万周辺の「焙乳豚(子豚の丸焼き)」などが有名みたいです。 

人気スイーツも多く、新鮮なココナッツたっぷりの薬膳「清補涼」や、搾りたてのフルーツジュースを急速冷却して作るフルーツ・シャーベット 「炒冰」などは地元の方だけではなく、観光客にも人気とのことで、一刻も早く食べたいです。

さて、こんなにも美味しそうなご飯のある海南省の飲食業における売上はどうなっているのでしょうか?

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2019年の海南省の飲食業売上は312億元(約0.5兆円, 15円/元で換算)です。うち、海口市は66億元で省全体の21.0%を占めています。
また、CAGRはそれぞれ以下の通りです。
・海南省:13.5%(2012年から2019年)
・海口市:8.1%(2012年から2017年)
・三亜市:17.3%(2012年から2019年)

統計データについて、以下事情がありますが、一旦気にせずに分析してみます。

・海口市の2019年の数値は明らかに前年比で減少しているのに、
 統計データでは「前年比7.3%」と記載されている
三亜市は2018年以降、飲食業売上が開示されていない

注目すべきは、海南省全体に占める海口市と三亜市の比率です。旅行業における売上は三亜市の方が大きいのに、なぜ飲食業になると三亜市の比率が小さくなるのでしょうか?

それは、三亜市の人口が海口市の約4分の1だからだと考えています。
以下は先出の人口推移と飲食業売上の推移グラフを並べたものです。
2017年の数値を見てみると、
三亜市の
・人口は海口市の約26%
・飲食業売上は海口市の約35%
です。
三亜市は旅行業はもちろんのこと、飲食業も旅行客による貢献が大きいようです。
さすが、中国のハワイ(三亜市の緯度がハワイとほぼ同値)です。

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ちなみに、フードデリバリー市場でも三亜市が注目されています。

餓了么(Ele.me)が発表した「海南外卖年度数据报告2019」では、三亜市にある亜龍湾(ヤーロン・ベイ)の事例を取り上げています。

・2019年の注文件数は前年比223%増の173万件
・2019年の注文単価は4件のうち1件が100元を超えている
・2019年の注文1件あたりの最高額は4,164元(約6.2万円,
15円/元で換算
出所:餓了么(Ele.me)「海南外卖年度数据报告2019」

また、三亜市だけではなく、海南省全体としてフードデリバリーの注文時間に変化があるようで、

2019年の海南省における24時以降の注文は、2017年から33%増加した
出所:餓了么(Ele.me)「海南外卖年度数据报告2019」

とのことです。

6. 前半まとめ

今回のnoteをざっくりまとめます。

・海南省は中国最南部にある「中国のハワイ」

・海南省は2018年に自由貿易試験区に指定
・2035年までに高水準の自由貿易港を目指している

2019年末時点の海南省の人口は945万人
・『東京23区 - 渋谷区 = 海南省』だけど、中国全体の0.7%

・2019年の海南省の名目GDPは5,309億元(約8兆円)
・『スリランカとミャンマーの間』
だけど、中国全体の0.5%

・2019年の海南省の旅行業売上は1,058億元(約1.6兆円)
・省都と第二の都市で90.2%を占める

・2019年の海南省の飲食業売上は312億元(約0.5兆円)
・海南省のフードデリバリーユーザーは深夜注文が多い
・フードデリバリー1回の注文で6万円超の強者もいる


最後までご覧いただき、ありがとうございました。

ぜひ、「後半」もご覧ください。

[後半]
・コロナ後の復興政策
・コロナ後の観光業
・免税

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