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連続短編小説                作・瑚心すくい

其の二 杜屋弥生の修行の果てに

「うーむ、出てこんな。
流石に朽ち果てたかな?」鞍馬天狗

「ん?」
「ぎっ、ぎぎっ、」骨のようになった手が見えた。
「出てきおった。」
杜屋弥生は蔵の扉に持たれかけながら、「ずりずりっ、」とその場で倒れ込んだ。
一瞬、鞍馬天狗は驚いた。それは唯事じゃないのであった。
「弁慶、このおなごを鞍馬寺へ運べ、そして手当と水と薬膳鍋じゃ。それにしても、わっはっはっがっ、何ということじゃ、まさかこんな運びになるとわな。

牛若よ、「はい」、あのおなご、おなごはおなごでも天汝神(てんじょかみ)かもしれん。「天汝神?、それは何でござるか?」

「天を支配する六天汝の神じゃ。」
「そっ、それって、鞍馬様より位の高い天の姫のことじゃないんですか!?」
「その通り、お主もわかっておるじゃないか?」
「はっ、長年鞍馬様のもとで・・」
「ガンッ」
「隙あり!」
「つつつっ、こんな時に。」
「こんな時だからじゃ、これから500里歩いて地獄へ行くのじゃぞ。」
「えっ、雷神でひとっ飛ではござらぬのか?」
「烏丸一族8人衆が間もなく着く。一緒に行くのじゃ。薬膳で三晩休めば、弥生もその頃には元気になる。牛若、雛の着物、用意しとけ。」
「それはまるで姫扱いじゃありませぬか?」
「ゴンッ」
「まっ、つー。」
「先ほど、天汝神というたろ。旅支度用の着物でよい。」
「牛若、お主も着たいか?」
「いや、着たいと言えば!あっ」
「ブーン!!」
「あーーーー!」
「今度は遠慮して琵琶湖に飛ばした。すぐに戻るじゃろ。」

「弁慶、どうじゃ様子は。」
「そうとう弱っとります故、が朝になれば薬膳も欲しがると思われます。」
「そうか、辛かったろうに、見事全うしよったな。」

「こりゃ、出雲の国に神が集まって来よるな。」
「と、いうと?」
「伝説があってな、地獄の閻魔が神々に罪を乞うとき、世におる神々の裁きが行われるであろう。つまり、地獄に落ちていく罪深きものはそれでも良いが、そうでないものを地獄の窯に陥れる時には天罰が与えられる。それはペンチに舌を抜かれるであろう。とな。」
「これは世では考えられぬこと。恐ろしや。神々の怒りに触れるということ何であろう。鞍馬様、京都は、」
「四神相応(しじんそうおう)様、北の玄武、東の青龍、南の朱雀、西の白虎の四神が出雲に向かわれるじゃろう。ワシは高みの見物よ。」

朝を迎えた。「おー。よく寝たみたいだ。おお、薬膳ではござらぬか。鞍馬殿、鞍馬殿!」杜屋弥生が目覚めた。
「おー目が覚めたか。弁慶が夜明け前から作っておった薬膳じゃ、不思議と力が漲るぞ、さあ、食べよ。」
「弁慶殿、忝い、早速賞味させてもらうぞ。ガツガツガツ、うー上手い。」
「ワッハッハッハ、見事な食べっぷり、おなごにしとくのはちと勿体ないな。ワッハッハッハ」

不思議なことに薬膳を食べる弥生は、徐々におなごの姿に戻り、また綺麗な肌のつやと優しくもあり、また鋭い目つきに変貌していった。

三日目の朝、牛若丸が烏丸一族8人衆を引き連れ杜屋弥生のもとを訪ねた。

「おーこれは美しい。」それもその筈、雛の着物に身を包まれ、賛賛とふりそそぐ朝陽を浴びた姿は、姫そのものじゃった。

牛若丸も「私と出会った時とは別人じゃな。後は腕前を確かめねばならぬ。」と刀を構え、弥生に剣先を向けた。

「阿弥陀らさん没材年払い。はー!」
弥生は右手の手のひらから掌底を放った!」
なんと牛若丸は後ろにそびえる木々をなぎ倒し大木に打ち付けられた。
「参った、弥生殿。」
「ワッハッハッハ、見事な掌底じゃ。エネルギーを念じたままに操ることが出来るようになったのじゃな、凄いものよ。ワッハッハッハ、」

烏丸一族8人衆もその力には驚きを隠せぬ様子で、「姫殿、何卒、この烏丸一族8人衆を存分につこうてござれい。」

「いやいや、姫とは言い過ぎじゃ、それより地獄への旅の道は険しいぞ。準備怠らぬよう一事が万事じゃ。」

流石の鞍馬天狗も今までの偉そうな態度を改め、「いや姫殿、事情があるとはいえ地獄の底には魔物が多数潜んでおる。この剣を持っていくが良い。思いのままに伸び縮みし、相手を翻弄するじゃろう。」

その真直ぐに伸びた剣は朝日を浴び煌々と輝く、これからの戦いを暗示するかのごとくキラリと光る。

鞍馬天狗「呪い払いの書はもったか。」
「しかと、」

私から一言言って置く、私でさえ、地獄の底を知らぬ。先ほども言った通り、地獄の門前で魔物が餌を食らおうと襲い掛かってくるが、そこで怯んでは元も子もない。門前を抜けると、地獄の窯の上にお主の許婚がつられておろう。黄泉の国は、神々が立ち入れぬところ故、地獄の閻魔も好き勝手にしておる。
 よいか、『気』がすべてじゃ、地獄の閻魔は魔術でお前たちをきっと翻弄し地獄の窯に掘り込もうとする筈じゃ。呪い払いの書を持ったお前たちはなんとか切り抜けようが、人間である許婚はひとたまりもない。己が助かるか、許婚を助けるか、選択を迫って来る。そこで焦って許婚を助けようとしても、あっという間に窯の中じゃ、落ち着いて呪い払いの書を念仏と唱え地獄の閻魔が、唯一神の怒りに触れる時を待て。摩れば時期に閻魔にも天罰が下る。
 良いか杜屋弥生、もうここへ来ることはない。ここで別れじゃ、初診を見事全うされたし。鞍馬最後の言葉じゃ。」

「わかりました。皆の思いを背負い、必ず目的を達する。」
「プォオオ――!」
弁慶がほら貝を天高く鳴り響かせる

「では出かける。」

(瑚心すくい)杜の天汝神 其の二 杜屋弥生の修行の果てに(つづく)


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