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次のアニメを観て、後の問いに答えなさい。(アニメを例にした小説(文学)読解の講義録・後篇)

次のアニメを観て、後の問いに答えなさい。(アニメを例にした小説(文学)読解の講義録・前篇)」の続きです。

象徴性

えに「象徴性とは、『ある具体的な事物に、抽象的なメッセージが隠されていること』だ。例えば、『四つ葉のクローバー』といえば、『幸運』の象徴だ。じゃあ、『鶴』とか『亀』はなにの象徴でしょうか?」

生徒「長生き」

えに「正解。じゃあ『白い鳩』は何を象徴しているかわかる?」

生徒「平和?」

えに「すばらしい。その通り。このように、『亀』とか『白い鳩』とか、目に見えるもの、具体的な事物に、目には見えない『長生き』とか『平和』とか、抽象的なメッセージを込める。これが象徴性だ。当然、ある事物が何を象徴しているかは、作品や文脈によって異なる。小説の中で何度も出てくるアイテムがあれば、もしかして何かメッセージが込められているのでは?とアンテナを張ってみると、読むのが楽しくなってくる。

さてさて、今回はお味噌汁のCM。でた、『お味噌汁』っていう具体的な事物。これを象徴性を使って読み解けば、動画のメッセージの深みがぐっと増します。では、『味噌汁』に込められたメッセージって何だろう?隣同士ペアになって話し合ってみよう。2,3分とるので、答えを決めてみてね。」

(数分後)

えに「難しく考えなくていいです。まずは一般に『お味噌汁』ってどんなイメージがあるか、そこを手がかりにしてみよう。」

(さらに数分後)

えに「そろそろ聞いてみよう。どうだろう?このペア」

生徒「なんか『おふくろの味』ってイメージ

えに「いいですね。家によってお味噌汁の味って違いますからね。それはおふくろの味。『母ちゃんの作った味噌汁が飲みたいなあ』ってセリフよくありますね。もうひとり聞いてみよう」

生徒「『家庭の味』

えに「それもいいですね。私もたまに実家に帰って母の作るお味噌汁を飲むと安心します。それは自分が育った家庭の味だからだと思います。

その『家庭の味』っていうのは、料理を作った人のどんなメッセージ、気持ちが込められているのでしょうか。料理はまごころと言いますが、端的に言えば、『愛情』です。料理には、作った人の『まごころ』『愛情』が込められている『お味噌汁』という具体的な事物には、『家族のまごころ・愛情』というメッセージが読み取れるわけです。そしてそれはずっと『変わらないもの』です。

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それを、動画の中で当てはめる。象徴性は、代入して読み換えてみましょう。例えば、お母さんが我が子に作るお味噌汁。それは、『お母さんが愛情を我が子に作った=与えた』と読める。今回は、『息子が母に味噌汁を作った=愛情を与えた』と読めるわけです。象徴性は、代入する

その味は『変わらない』ことが大きな特徴。息子の『かあちゃん、朝はいつもご飯じゃろ。』の一言からは、息子が小さい頃ご飯で朝食をとっていて、かあちゃんである『私』にお味噌汁を作ってもらっていたことが伺えます。これを先の象徴性(愛情)で読めば、『息子が母から与えてもらっていた愛情』。その『変わらぬ愛情を今度は息子が母に与えた』というところに、この動画のミソがあるわけです。ここでおばあちゃんは、おばあちゃんが息子にしてあげていたのと同じように、息子も自分の家族に愛情を注いでいることを、味噌汁を通じて知るわけです。涙もでるわけですね。

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ちょっと踏み込みましたが、スライドの(象徴)の部分まではいかずとも、(具体)の箇所はわかりますね。息子が作ってくれたお味噌汁は、おばあちゃんである私が作っていたものと同じ味だった。それを象徴性で読み解くことができれば、味噌汁をトリガーとしておばあちゃんが泣いた理由が、こうして明らかになるわけです。」

えに「それでは、解答例を示してみよう。数字の番号は、解答要素だから、自分がどの点を踏まえて書けていたか、あるいは抜けていたかは確認して欲しい。」

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えに「小説読解のお話はここまで。あとはおまけを少し。これは何と言ってもCMなので、これを見た人が『お味噌買おうかな』と思ってくれないと成功とは言えない。そのメッセージはどこにあるか?

それは、液みそであることです。」

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共働きで忙しい現代家庭の朝食。1分1秒も無駄にできない時間に、固形のお味噌をゆっくり溶かしてお味噌汁をつくる余裕は、無いですよね。そこで液みそ。パッケージには『そそぐだけで本格おみそ汁』と書いてある。これを使えば、息子夫婦も朝の時間にちゃんとしたお味噌汁を作って飲むことができますよ、というCMメッセージがあるわけです。実は、冷蔵庫にはちゃっかり固形のものもストックしてあるけどね。笑

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おそらく母が昔に作ってくれたあのお味噌汁は固形のものから作っていたのだろう。でも、それと変わらぬ味を作るのに手軽に使える『液みそ』が役立ってくれる・・・というわけです。上手なCMだと思いませんか?」

まとめ

えに「この映像に限らず、ある文学作品――学校で扱う小説教材――を読んで、『いい話だなあ(泣)』ってなって終わるのではもったいない。受け身になって鑑賞するのももちろん楽しいけれど、せっかく学校の国語の時間で学ぶのだから、積極的・能動的な読み取り方も覚えて欲しいと思う。

簡単に言えば、自分が探偵になったつもりで作品に向き合うと良いと思います。このCM、私が出題した箇所以外にも面白い目の付け所はたくさんある。

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例えば、息子夫婦の住まいは「団地」ですね。それから、妻も仕事に出ている「共働き」である。ここからは何が推測できるだろう?

他にも、孫が着替えている衣服から、幼稚園児だとわかりますね。おばあちゃんが孫の顔を見たとき、「大きゅうなったねえ」と話し掛けているのに、孫は「おばあちゃん・・・?」と語尾を上げていた。そこからは、最後に孫と会ったのが、孫の記憶に残るより以前だということが読み取れますね。

あと、おばあちゃんの方言、どの地方だかわかるかな?

・・・いったように、作品の読解をするときは、能動的(積極的・主体的)に情報を拾っていくよう意識することがとても大切です。自分が探偵や研究者になったつもりで注意深く観察しよう。これ、授業で習わなくても無意識にやっている人もいるんです。そういう人は普段からなんとなく国語が出来る」という自覚があるのではないでしょうか。

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最後に一つ。アニメのような映像コンテンツは、視覚や音声情報で私たちに伝わってくるから比較的観察しやすいんだ。幼い頃から映像コンテンツに親しんできた君たちは日常的に訓練しているようなものだから、なおさら得意なはずだ。その世代の強みは、自信を持っていていい。もっと上の世代だと、今日みたいにスラスラと授業できないからね。

でも小説は文字だから。景色も音も人物描写も、文字情報から「イメージ」しなきゃいけない。書かれてあることを受け手側で映像出力する努力が必要なんです。このことを意識しておいて欲しい。そのためには当然、語彙力が必要だということも加えて

次回からは××ページの○○という小説を読んでいこう。

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