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現代文(評論文)を分解して、整理する

 高校の現代文の授業で何度も繰り返してしまう話をまとめました。

 要するに、パッキングされた「現代文」という概念を分解して、整理しましょうという話です。現代文を「分解」というと、「神聖なる国語という科目に分解なんてけしからん!」とお叱りを受けそうですが、全体を全体のまま教えることが難しい教育現場も実際にあるということは、否定できないはずです。

 今回は、「現代文(国語)」を漠然と捉えて、「何を勉強すればいいかわからない」状態になってしまいがちな生徒に対して、科目で身につけてほしいことを整理して伝えるという提案です。

 国語科で身につけて欲しい力は、文部科学大臣が告示する学習指導要領に定められています。それは、平成21年度告示学習指導要領で「話すこと・聞くこと」、「書くこと」、「読むこと」の3つの領域と、「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」でした。ちなみにこれは、平成30年公示新学習指導要領において「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」に構成し直されています。

 ところが、この「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」という文言をそのまま使って生徒に教えようとしても、伝わりません(生徒を眠らせたいときには有効です)。同様に「『書くこと』を身に着けよう」などと指導しても、おそらく無意味です。

 そこで、学習指導要領に書いてある指導事項を、教室レベルに噛み砕いて指導しなさいということになります。この丸投げ方式は、数学といった他教科と比べるとかなり顕著です。このことについては、別の記事で触れたいと思います。

 さて、その噛み砕く作業を、「現代文」という科目を対象にしてみようというのが今回の記事の目的です。授業では、以下のように伝えます。

 「科目を漠然と『現代文(国語)』と捉えると、何を勉強して良いか、授業から何を得ようとしているのか意識しづらい。そこでパッキングされた『現代文』を分解し、『何を』にあたる要素の部分を明確にすると、学習内容が意識しやすくなる。」

 もちろん、現代文(評論文)を本気で分解してしまうと、精密機械をばらしたようにバラッバラになって収集がつかなくなります。初学者が整理できるように、大きく切り分けるのが大事です。私は、まず「語彙」、「読み解き方」「テーマ論背景」の3つに分けて示すことにしています。

 下のファイルは、授業で配布するプリントです。真ん中の見出しに書いてある内容について説明していきます。

語彙

 語彙とは、単純に言葉を沢山知っておけという意味ではなく、評論文で頻出する用語を知っておこうという意味です。150語程度あるとだいぶ読めるようになります。キーワード集などでインプットし、実際の文脈の中で定着させます。高校生からすれば、英語でいうところの単語みたいな位置づけでしょうか。

 私は評論文での語彙を説明するときに、必ず「神話」の例を用いて使います。

えにぐま「『神話』って言葉あるでしょう。例えばどんなものがある?」
生徒「ギリシャ神話」
えに「そうだね。他には?」
生徒「日本神話」
えに「そうそう、日本神話。」(机間を歩きながら他の生徒を指名する)
生徒「北欧神話」
えに「すごい、よく知っている。最近は神話を知っている高校生が増えたね、なんでだろうね。でも、この『神話』って言葉が評論文で出てきたとき、どういう意味になると思う?例えば、こんな登場の仕方をする……

板書〈日本の安全神話が崩壊した〉

こういった文です。この文、どういう意味だろう?」

生徒「……」
えに「うん、これが評論文語彙って意味なんだ。要するに、見たことがある語句なんだけど、意味を知らなくて文意を取ることができない。評論文は大人の書いた文章。大人たちと互角に渡り合おうと思ったら、日本語だから読めると慢心しないで、それなりの知識を準備して立ち向かわなくちゃいけない。」

えに「さて、この『神話』はね、ここでは『根拠もなくみんながそうだと思い込んでいる事柄』って意味で使われるんだ。」
生徒「ええーっ」
えに「嘘だと思うでしょう。僕も最初は信じられなかった。一緒に国語辞書引いてみようか。じゃあみんなiPad出して」
…………

という具合で展開します。わかっているようで実はわかっていない語彙として、「神話」は格好の具体例です。

読み解き方

 「読み解き方」というのは、具体的には「論と例」、「二項対立(対比)」といった文章の組み立て方や、「比喩」「言い換え」といった表現の方法を知ることです。人によっては「解法」とか「読解法」、「コツ」、「ツボ」、「ロジック」、「メソッド」などと様々に呼称しています。

 なんだか予備校や参考書で教わる内容のように思われそうですが、実は平成30年公示の新学習指導要領では、こうした「知識及び技能」を身につけるよう指導することが明記されています。当然、今の高校生にこうした指導を実践してならない理由はありません。むしろ、学校が教材中心の授業に甘んじていられるのは、あと2年ほどかもしれません。

 この「読み解き方」は、授業で解説を聞き、演習で技法を磨くという反復が有効です。よって教員は、授業を組み立てる際に

①教材を通して指導できる「読み解き方」を予め確認し(教材研究)

②その指導に合った演習用教材を準備する(教材研究)

のが理想です。5コマの授業時間があるとして、5コマ全てを一つの教材についての講義で終わってしまうと、力が付きません。できれば3~4コマで一度解説を終えて、残ったコマで演習をする時間を設けてあげると良いでしょう。

 ※ちなみに、「テスト(定期考査)に出ない教材を授業で扱うなんて」という声が聞こえてきそうですが、4コマで話せる内容を5コマで話したところで考査の結果は変わりません。むしろ、適切な教材で反復演習してあげれば、そうでないクラスに比べてテストの平均点は上がるはずですし、そうなるように力を身につけることが高校国語の役割のはずです。

テーマ論背景

 実はこのネーミングは自分でも気にらないのですが、他に思い当たらないので現状このようにしています。簡単に言えば、環境論、言語論、生命論といった文章が持つテーマの背景(大きな意味での文脈)、話題の焦点や展開の傾向を知っておこうというものです。

 私の場合、環境論を挙げて説明します。

えにぐま「環境がテーマになってる文章って中学校でよく読んだでしょう。それって結局どういうことを伝えてた?」
生徒「えーっと、自然を守ろうとか、そういう系」
えに「そうだよね。自然を守ろう。人間の自分勝手な都合で環境を破壊してはいけない。他の生き物のためにも、未来のためにも今こそ考えるときだ。」

えに「でね、幾つかの文章を読んでも、これとは反対の結論になる文章って、あまり見たこと無いよね。『地球は大きなみんなのゴミ箱だ!』とか『どんどん森林伐採して便利な社会を作ろう!』とか、『他の国より先にたくさん魚を獲りまくろう!』とか、書いてないでしょう。」

えに「考えてみれば当然なんだけど、テーマには展開や話題の焦点に傾向があって、それは環境の話題意外にも言えることなんだ。」
…………

といった具合です。同じテーマを持つ複数の文章を読み、話題の焦点や展開の傾向を知っておく。これは端的に言ってしまえば「教養」ということになるのですが、その説明だと漠然として可哀想なので、テーマ論背景という言葉にしてあります。

 以上、「語彙」「読み解き方」「テーマ論背景」の3つを提示して、漠然とした「現代文」の学習イメージに具体性をもたせるという提案でした。この記事をお読みになった方なら、どのように分解するでしょうか?ご自分でパッキングされた現代文を分解・整理してみると、新たな発見があるかもしれません。

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