ガードレールの女
これは、Aさんが20代の頃経験した話である。
青森に住んでいたAさんは、若い頃いわゆる走り屋であり、近くの山へよく車やバイクで走りに行っていた。
ある夏の日、友人たちと、いつものように山道を走ろうということになった。
Aさんたちは車3台に何人かずつ別れて乗り、山道を走ることにした。Aさんが運転をする車には友人が2、3人乗っていた。時刻は夜。人気もない山道を、スピードを出して走っていく。
走り出してしばらくした時、Aさんは、前方のガードレールの向こう側に、女の人が立っているのを見つけた。違和感を覚えながらも、スピードを出していたため、すぐに通り過ぎてしまった。車内の友人達もその女を見かけていたため、走っている間話題になった。
山の頂上付近の待ち合わせ場所に集まると、Aさん達は先ほど見かけた女のことを話し出した。すると他の車も、同じような女を見たと言い出したのである。
しかし、どうにも話すにつれて、各車両が見かけた場所が違うらしいことがわかった。
もしもこの各車が見た女が同一人物であれば、場所を移動しながら出没したことになるが、それこそスピードを出しながら走る車でもなければ不可能である。しかしこの山の中の道はAさん達が通ってきた山道のみであり、つまりはその女が生きている人間ではないということを示していた。
しかし念のため、それぞれがどの場所で見たのかを確認してみようということになり、来た道を戻りながらその女がいた場所を覗いて見ることにした。
それぞれが見た3ヶ所とも、ガードレールの向こうは崖だったという。
私がこの話をAさんに聞いたとき、一番初めに頭に浮かんだことは、
「一体どこの山を走っていたのだろう」ということでした。
というのもこの話は、今から20数年も前のことです。
ガードレールの向こうには崖しかなかったということも、遠いと思われていた女の目撃場所三箇所も、別の見方をすれば何か現実的な落とし所が見つかるかもしれません。
私は早速Aさんのお話をもとに、県内の当時の走り屋コースを探し始めました。
Google map で私が、地図帳でAさんが怪しいところを探していきました。そしてその努力の甲斐もあって、おそらくここだろうという場所が見つかりったのです。
そこはA県の馬ノ神山というところでした。当時は走り屋の人たちがこぞって峠道を走っていたそうです。
実際に道を走ってみると、確かにいくつかカーブがあります。が、そこにあるガードレールは当時のものであるかはわかりません。(向こう側は変わらず崖のようでしたが。)
怪談には時効というものはあるのでしょうか。
私はその時効が切れるまで、この山で女の姿を追っていきたいと思います。
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