エッセイ【「老い」とはいったい……】
数年前、用事があって4歳近くまで住んでいた懐かしい街に行った。
ふと思いつき、幼いころ近所のおばあちゃんが連れて行ってくれた公園を探してみた。もうなくなってるかもと思っていたけれど、当時のままそこにあった。あのころ怖くて乗れなかったブランコに揺られながら、蘇ってくる記憶。
大きな汽車の遊具がある。当時、いつも公園に来るとあの汽車の上がどうなっているのかが気になった。おばあちゃんに抱っこしてもらい上がってみると、特になにがあるわけでもない。だからすぐに飽きて、降ろして欲しいとせがむ。だけど降りてから、上がどうなっているのかまた気になりだす。何度も何度も上がらせてくれ降ろしてくれを繰り返した幼い自分。あの日のままに、汽車は公園の真ん中に今でもあった。
私が20歳のころ、昔ご近所さんだったおばあちゃんのお嫁さんであるKさんが、母に会いにやってきた。聞こえてきたのは「おばあちゃんがボケた」という話。ボケるってなに?どうなっちゃうの?なんだかとっても怖い話をしている気がした。それから少しして、母と一緒におばあちゃんに会いにKさんちに行くことになった時、私は少し怖かった。だけど、おばあちゃんはまったく普通に見えた。そして、あのおちびちゃんが大きくなって会いに来てくれたと、とても喜んでくれた。何度も、何度も……。
母を見て「どなたですか?」と聞く。母が「昔近所に住んでいた○○ですよ」と言うと「ああ、そうだった!」私を見て「こんなに大きくなって会いに来てくれて嬉しいねえ」。そしてまた、母を見て「どなたですか?」と。何度も繰り返される同じ会話を聞きながら、公園の遊具に上って降りてを繰り返しせがんだ幼い自分を思い出した。
人がボケると知ってから「老いる」ことが、怖くなった。
でも「老い」が近づいてきた今、怖いかと言えば……どうなんだろう?
そういえば、最近またブランコに乗るのがちょっと怖い自分がいる。
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