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WHOから始めるコーポレートデザイン

この度、僕が代表を務めるVUILD株式会社のCIを大幅にアップデートしました。


1_船出を祝すリブランディングー価値の創出から価値の普及へ


このリブランディングの目的を端的に言うならば、新たな船出を祝うためです。心機一転、晴れやかな心持ちで次の航海に出ようという、壮大な気分転換であると同時に、新たなフェーズに突入していくという社内外への決意表明でもあります。ではどんな風に変わっていくかというと、「0−1」の開発フェーズから「1−10」の拡張フェーズへとギアチェンジすることです。

創業から約5年かけてやってきたことを要約するならば、社会を変えうる新たな「価値の創出」だったかなと思います。具体的には、テクノロジーを駆使することで誰もが作り手になれる世界を実現するための、システム(EMARF)やプラットフォーム(NESTING)を開発してきました。その上で、心から熱狂してくれるイノベーター層に価値訴求することで、しぶとく収益化を計ってきました。この地道な成果の積み上げによって、創業以来初の「単年度黒字化」が目前に迫っています。つまり、投資をして深く潜った船が再び水面に浮上したことで、次の航海に出る準備が整ったのです。

次の5年では、僕たちが蒔いた未来の種を咲かせ、社会の当たり前にしていくことに注力していきます。つまり、これからは本腰を入れて社会を変えていくフェーズに突入し「価値の普及」に向けて取り組んでいきます。言葉を換えれば、技術開発から事業開発に重きを置くという、今までとは異なる航海に取り組んでいきます。

2_海賊船の船長としてーブレない芯を築く


この険しい挑戦をやり遂げるには、新たな仲間を迎え入れる必要があるでしょう。ただ、仲間が増えて組織が大きくなったとしても、ブレずに目的地に辿り着きたい。そのためには、なぜ船を出すのか、どこを目指すのか、どのような航路を進もうとしているのか、だれを船に乗せるべきなのか。今一度、ブレない芯を掘り起こす必要があると感じました。

ベンチャー企業とはその名の通り、冒険に繰り出す海賊船のようなものです。そして企業の創業者とは航海を企てる張本人であり、どんなお宝を見つけにいくのかという目的地を示し、手に入れた先にどんな希望があるのかという大義を説く役目があります。当然その理念に共感する人を募り、航海資金を投資家から集めることも同時に求められます。またCEOとは海賊船の船長であり、その目的地に到達するまでの航路(ロードマップ)を示し、実際に舵を取る役目があります。

最終到達地をビジョン、羅針盤をパーパス、次の目的地をミッションと置きかえるならば、これら3種の神器をきちんと言語化し手元に揃えることが、この先迷わずに航海を進めるために必要なのではないか。そしてこれらの定義を自分の言葉で定めることが、創業者兼CEOであるの自分の責務ではないか。逆にこれさえ策定できていれば、他者に舵を委ねられるのではないか。そんなことを考えてこのリブランディングに取り組んできました。

3_遠い未来から日々の業務を逆照射する


ビジョン・ミッション・パーパスの定義は様々ですが、ここでは「ビジョン=最終的に実現したい未来像」、「パーパス=ビジョンの達成のために我々が為すべきこと」、「ミッション=パーパスという山頂にむけて目下登るべき中継地点」という風に関係付け、定義しました。最終的に策定したものが下記です。

Vision:「いきる」と「つくる」がめぐる社会へ
生きるためにつくり、つくることで生きる。そんな好循環が持続する、いきいきとした暮らしを実現したい。そんな風に誰もが皆、自分たちの力で、身近な資源を用いて、理想の環境を作れるようになれば、持続可能で幸福な社会が築けると信じています。

VUILDのVision

Purpose:人々の創造性を解放する
思い描いたアイデアが実現する喜びは、人々をより自由にする。そんな喜びを誰もが体験できるようなプラットフォームやツールを提供することを通じて、デザインとテクノロジーの力で人々をエンパワーメントすることが私たちの存在意義です。

VUILDのPurpose

Mission:つくる伴走者をつくる
テクノロジーを駆使すれば、やろうと思えば誰でも家や家具をつくれる。そんな新しい価値を5年で生み出せた。次の5年はそれを伝播させ、世の中の当たり前にしていくフェーズだ。そのためには仲間をつくり、庶民のものづくりを支援する伴走者を増やさなければならない。そんな新しい運動体を支援するインキュベーターとして、2027年までに1万人の伴奏者集団と100社の提携企業による、ものづくりの生態系を構築します。

VUILDのMission

創業期から「いきること(vi-)」と「つくること(-build)」の一体化を謳い屋号(VUILD)を決めたため、ビジョンは創業期から策定できていたものの、パーパスとミッションに関しては今回新たに言語化することにしました。ビジョンを実現するために僕たちがやらなきゃいけないことは何だろうかと問うた時、誰もが作り手になることが必要であり、そのためには人々の創造性を発露させることが重要だろうと。むしろそれこそが我々の存在意義ではないかと考えました。

そしてこのパーパスを実現するためには、創造性を解放する技術だけでなく、その技術や価値観を一緒に普及させてくれる「仲間」が必要だろうと考えました。さらにこのミッションの達成のために、各四半期において最優先で取り組むべき事柄をオブジェクトとして策定していく。

そんな形で、ビジョンから順繰りに目先の現実にブレイクダウンしていけば、日々の業務と未来の目標を地続きに繋げることができる。そうすれば、目的を見失わずに前に進むことができる。そんな「なぜ」の連鎖によって、一筋の軸線を通すことができたように思います。

4_「なぜ/WHY」よりも大切な「だれ/WHO」


そんな「なぜ」の策定の間に直面したのが、「だれ」とその夢を追いかけるかという問いでした。というのも、CIを策定したこの1年間で色々あって、船に乗せる人を間違えると目的地に辿り着けないことを身をもって痛感したからです。船の目的地を定めることは創業時から意識してきたものの、その船に誰を乗せるかということまで深く考えてこなかったのです。

ビジョンへの共感も一定あり、スキルも十分にあるのに、なんだかバイブスが合わない。頭ではわかり合えても、心では理解し合えない。理想の目的地を掲げていても、気づいたら異なる目的地に着地しようとしている。そんなすれ違いとコンフリクトをこれまで何度も経験していましたが、この問題の根幹にマインドセットのズレがある事に今回ようやく気づいたのでした。ビジョンフィットしていても、カルチャーフィットしていなければ意味がない。つまりはWHY以上にWHOが大事だと。

実際、人について悩む中で手にした様々な本の中で、「人が全て」という主張が多く散見されました。中でもジム・コリンズとビル・ラジアーの名著『ビジョナリー・カンパニーZERO』にいたっては

あらゆる事業活動の中で正しい人材をバスに乗せること以上に重要なものはない

『ビジョナリー・カンパニーZERO』

とさえ言い切ります。続けて、正しい人材を選ぶには企業の文化・信条・価値観・哲学を明文化した「コアバリュー」が何より重要であると言います。つまりどんな船でどんな航海にでるのかを示したビジョンやパーパス以上に、なにをもって乗船を許可するかというバリューの方が重要だということです。

5_簡潔性/具体性/関係性を兼ね備えた3つのコアバリュー


これまで僕たちはバリューとして「自律・分散・協調」という理念を置いていました。ある程度のことは自分で全てやれる自律した個の集団が、それぞれの地域や専門性に分散して根差し、その上で強みを活かしながら支え合い協調する姿。そんな組織の理想像に言葉を与えたものでしたが、やや抽象的すぎたため、社内に浸透しているとは言い難い状況でした。バリューというと硬くなるが、カルチャーと言い換えると理解しやすくなる。そこでVUILDカルチャーなるものの言語化に着手することにしました。

その際、参考にすべく様々な企業のカルチャー調査を行い、その中で大きく2つの方向性があることがわかりました。一方はAMAZONに代表される海外のスタートアップの系譜で、10以上の項目で事細かく書き、長文で徹底的に明文化する方針。もう一方はメルカリに代表される日本のスタートアップの系譜で、皆が自然に口に出せるように3つ以下に絞り、かつ短文で書く方針。比較すると、前者は後者に比べ覚えにくいが、後者は前者に比べ解釈に幅があり、一長一短あると感じました。

そこで両者の良い点を取り入れることとし、覚えやすく短い標語に具体的な説明文を添えることにしました。具体的に策定した文言は下記の通りですが、これは全社参加型のワークショップを1年かけて数回重ねることで言語化していきました。「無垢で・粘り強く・柔軟な心をもちながら、創造し・探求し・協働する人」。これこそが我々は何者なのかという問いに対して、僕たちが出した答えです。

PLAY:むじゃきに作ろう
口より先に、手を動かすこと。自分の身体で感じ、自分の頭で語ること。分けて考えることを避け、全体像を掴むこと。直感に従い、心から楽しむこと。

VENTURE:しぶとく挑もう
よりよいものを目指し、諦めないこと。言い訳を考える前に、前進する方法を探ること。失敗を歓迎し、失敗から学ぶこと。じっくり深堀りし、考え抜くこと。

FESTA:やらかく繋がろう
互いの声に耳を傾け、支え合うこと。互いの能力を引き出しあい、高め合うこと。互いを思いやり、感謝すること。互いに祝福し、分かち合うこと。

VUILDのCoreValue

ここで注意すべきは、単に遊び・挑み・祝えばいい訳ではなく、どのようにして遊び・挑み・祝うのか、そのディテールが重要だと考えています。頭でっかちにならず無心で遊ぶこと。単発で終わらせずに挑戦し続けること。押し売りではなく共感によって繋がること。そのニュアンスが間違って伝わらないように、「こうではなくこう」といった形で説明文を添えました。

加えて参考にしたのは株式会社ほぼ日のコアバリューです。ほぼ日の定める「やさしく、つよく、おもしろく」という行動指針には、往復運動のように螺旋状にぐるぐる回るという「3の価値の関係性」が描かれているのが素敵だなと思いました。そこで僕たちも、当初策定していた「自律・分散・協調」をアップデートする形で「遊び・挑み・祝う」ことの関係性を導き出しました。

まず無邪気に遊ぶ過程で創造し(①クリエイション)、創造したものをしぶとく改良することに挑み(②イノベーション)、そして最終的にできあがったものを他者と分かち合い(③コラボレーション)、更にそこから得た発見を通してまた遊ぶ。そんな好循環が生まれるようなVUILDらしい3つの価値観を策定することに成功しました。

6_若きアウトローから成熟したケアテイカーへ


さてこれでMI(ビジョン・パーパス・ミッション)とBI(コアバリュー)の再定義ができた訳ですが、最後にお化粧ということでVI(視覚面)のアップデートの話に移っていきたいと思います。MIとBIは恥ずかしながら自前でやりましたが、VIの部分は今村さん率いるB&Hさんに依頼しました。これまでのVUILDは「反逆的なアウトロー」感をぷんぷん漂わせていましたが、これからは3つのバリューに相応しい形で「博愛的で親密感のある存在」に変貌を遂げることをVIのゴールに設定しました。つまりヤンチャな若者から、成熟した大人になりたいと。

ただその際気をつけたのが、あるべき人格と実際の人格のギャップを極力なくすことでした。虚像を装っても嘘くさいし、背伸びしすぎてもしっくりこない。だから自分達らしさは失わないようにしたい。そこで、博愛的な柔らかい要素を新規に獲得しつつも、VUILDが本来持つ未来感・テクノロジー感・尖ってる感は失いたくない。そんなワガママをデザインチームにお願いしました。

ロゴのデザインに際しては、まずもって可読性のあるものの変えることでした。以前のロゴはだいぶ気に入っていたものの、何て読むの?から始まることが多かったためです。最終的に出来上がったのは、クラフト感とテック感が入り混じったようなビジュアルで、まさに博愛的なイノベーターであるVUILDに相応しいロゴになりました。WEBのデザインに関しては、動きでテック感を背景色で親密さを表現してもらいました。

その他僕の方でこだわったのが、各事業部の関連性を1つの絵に起こすことでした。具体的には『VUILD TREE』という絵を、グラフィックデザイナーの深地さんに依頼しました。この絵は「自由な意思を持った存在が集まって、1本の樹を形成し、根っこにも枝にも伸びていく」というコアバリューを体現すると同時に、「デジタルファブリケーションの加工拠点を全国を張り巡らせ、それらを繋ぐツールを開発し、そこから内装・住宅・建築領域へと枝葉を伸ばしていく」という事業全体の関係性も表しています。

これから益々人が増え事業が増えていけば、会社の全体像を見失うこともあるでしょう。そんな時に「いやいや僕たちは1本の樹だったじゃないか」と皆が立ち戻ってこれる原点として、いわば海賊旗の意味合いをこの絵に込めました。

7_起業家を導くのもまた起業家


最後に。ここまで来るのに1年かかったが、VUILDに関わっているメンバーの協力がなかったらここまで言語化できなかったと思う。改めてみんなに感謝したい。みんな本当にありがとう。

またこの場を借りて感謝の気持ちを伝えたいのが、僕を起業の道へと誘ってくれた起業家・投資家の孫泰蔵さんだ。約1年前、自分の不甲斐なさでチームが崩壊しそうになった時、どうしたら良いかと真っ先に相談したのが泰蔵さんだ。その時に「魂が弱い」と僕を喝破ししてくれたお陰で、会社のCIを刷新し自分も生まれ変わろうと決意できた。改めて、あの時の愛ある叱咤激励に感謝したい。

注】冒頭に新しい門出を祝うためにリブランディングをしたという感じでカッコ良く書いているがそれは表向きで、実情はチームビルディングに失敗した挫折を克服するためにリブランディングに着手したことを正直に告白しておこう。

最後にこのCI刷新に際して出会い、勇気づけられ、一生傍に抱えておきたいと思った本が3冊あるので紹介したい。この本が僕と同じ課題を抱える起業家の役に立つことを願って、下記に紹介してこのNOTEを締めたい。

『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』ジム・コリンズ+ビル・ラジアー
『ピクサー流 創造するちから』エド・キャットムル
『Becoming Steve Jobs : 無謀な男が真のリーダーになるまで』上下巻 ブレント シュレンダー +リック テッツェリ

CI刷新に際して影響を受けた3冊

ここまで読んでくださって方へ。どうもありがとうございます。これからのVUILDを宜しくお願いします!

Corporate design
Executive Producer:Koki Akiyoshi(VUILD)
WEB design

Brand Director:Genki Imamura(B&H
Art Director, Designer:Ryosuke Tomita(B&H)
Director:Chika Takahashi(B&H)
Developer:Mitsugu Takahashi(B&H)
Graphic design
VUILD Tree:Hiromasa Fukaji(DIGRAPH
Logo&Others:Ryosuke Tomita(B&H)

クリエイティブ・クレジット

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