時間の使い方、あるいは忘れ方

100歳まで生きると5,200週間

科学・技術・哲学に関する解説アニメを制作しているドイツの有志団体Kurzgesagtが出した動画に、時間の使い方に関するものがある。(歯車アイコン→字幕→日本語を選択で日本語訳が見れます)

100歳まで生きるとすると、人生は5,200週間で、1,000週間以上を教育に2,000週間以上を労働に費やすことになる。65歳を定年とすると、残りの自由時間は3分の1程度しかなく、その頃には高齢者として体の衰えを始めとする様々な制約を受けることになる。自分よりも短命な人の死に立ち会うかもしれず、年の離れた両親であれば、なおさら一緒に過ごす時間は限られてくる。
この動画はコロナ禍により社交が途絶えたことを受けて作成されたもので、最終的には「会える時に会える人にあっておけ」ということが一つのメッセージになっている。

そして、個人的に好きなのは、次の部分だ。自分が今、働くことのできる時期にいるからかもしれない。

気分のいい、感謝される、世界をよくする仕事でありますように
(hopefully in a job that makes you feel good and appreciated or that makes the world better.)

2:47付近

休み方の最適解がよく分からない

その仕事に関して言うと、フルタイムの場合は8時間労働が標準的である。そして、7~8時間程度は寝床で過ごさないと、翌朝がつらくなる。
残りは7~8時間だが、通勤、家事、健康管理、雑事に必要な時間を考えると、自由な時間はもっと少なくなる。
その限られた時間を有効に使うためにはエネルギーが必要で、でも仕事の後は何をするのにも決断力が鈍っている。例えば、仕事帰りにどのスーパーや飲食店に寄るか、蒸し暑い雨上がりにウォーキングするかどうか、オンラインの講座の動画を見る気力があるか。仕事終わりの過ごし方を考えるのが、最近はけっこうなストレスになっている。寝支度するのにも、ゲームで遊ぶのにも、洗濯をするのにも、勉強をするのにも、ウォーキングをするのにも、優柔不断で時間がかかる。
余暇であっても、時間に追われているような感覚がぬぐえず、日付が変わる瞬間に追い付かされそうになる。
冒頭の動画のように、「間に合わなくなってしまうかもしれないこと」や「生き急がなければと感じてしまうような不安」は付きまとう。それは1日という小さな単位で見ても同じで「寝るまでに済ませないといけないこと」「明日でもよいけど今日の方がよいこと」を考えると憂鬱になる。

そういうわけで、最近は「時間を忘れることができるもの」を欲している。
でも、本当に時間を忘れてしまうと、生活に支障が出るから、適度にセーブする必要がある。
例えば、ストーリーのあるゲームは続きが気になると止め時を見失ってしまうから、「ペーパーマリオRPG」「アナザーコード」「In His Time」「Eastward」「コーヒートーク2」と積んでいて、「フォーエバーブルー ルミナス」も1回遊ぶとけっこうな時間が溶けて無くなるからあんまり触っていない。
土日で一気にやろうと思っているが、いざ土日になるとゲームだけで1日を終わらせる気分になれず、ずっと踏ん切りがつかないのである。作品の雰囲気と自分の気分の相性の問題もあって、休日に緊張するものに触れたくないという理由もある。

結局積読になっているけど、「暇と退屈の倫理学」に惹かれたのも、時間の感覚の問題や余暇に対する不満があるからなような気がする。

ゆる言語学ラジオを聴いている

その点で、今のところ自分にとってちょうどよい娯楽が「ゆる言語学ラジオ」だ。
ひたすらうんちくを言い合う回があったり、真面目な文化人類学言語学の話があったりするので、気分に合わせて刺激を調整しやすい。

もともと言語学を勉強していた時期があったから、サピアの回は感心しきりだった。サピア=ウォーフの仮説しか知らないにわかだったと気づかされたのもあり。ドリフトの話は確かにチョムスキーのパラメーターの話につながっていきそうだったし、生成文法には興味があったから、今後も聴くのが楽しみ。
読んだ本の感想を言い合う回も好きで、紹介された本を実際に読む他くなってきたりもした。『火星の人』と『ゾミア』は買おうと思っている。

ポッドキャストとして聴きながらの作業もできるので、音声コンテンツは柔軟に生活に取り入れやすいと気づいた。

それで思い出したのが、先の動画を作ったKurzgesagtのコミュニティで、複数の動画に日本語字幕を投稿している有志の一人、残留思念さんのオーディブル読書感想文のnoteだ。
オーディブルはオーディオブックの配信サービスで、つまり音声コンテンツだ。そして、この方の読書感想文も個人的に面白く読んでいた。
音声コンテンツつながり、読書感想文つながり、かつエデュテインメント(教養を目的としたエンタメ)つながり、間接的ではあるけれど、自分の関心のあるものがつながった感じがあった。

知る楽しみのあるコンテンツ

エデュテインメントは好きみたいで、NHK Eテレ(オイコノミアが好きだった)を始め、TED-ED、Kurzgesagt、QuizKnockと来て、ゆる言語学ラジオと断続的に触れてきた。これからも、サイエンスコミュニケーションやエデュテインメントを軸とした、教養と娯楽を両立したコンテンツが増えることを願っている。

こうしたコンテンツは時に適度に悩みに寄り添ってくれたり、時に私生活や実益から離れたところでトリビアを提供してくれたりする。現実に起こっていることに対する洞察であるがゆえに、一歩引いた視点や自分には経験しえないものがあって、それが心地よく感じられることがある。

動画を再生したところで、可処分時間が増えるわけでも、何か生産的なことがあるわけでもない。
それでも、少しの間だけ目先のことを離れて、視点を変えたり、価値観をずらしたりできる。ものさしが変わると、別の評価軸が加わり、及第点の在り方が変わる。そういうのも大事なのかもしれない。

結局、時間の使い方はあんまり解決していないけれど、気に入ったものについて語りたくなったので書いてみた次第。