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#258 尻水戸(しりみと)

 台風7号が紀伊半島を縦断した。上陸する前日に、私は尻水戸を開けた。台風時の大雨で、田の中に降った雨を排水するための溝(尻水戸)をあらかじめ開けておいた。

 稲が順調に成長し、最近、稲穂がたれ始めた9月上旬に収穫予定の稲が、暴風で稲が倒れ、大雨で稲の穂が水につかり新芽を出すことのないように、台風が来る前に準備をした。

 先日、私は娘の家に行くことになっていた。娘から『ジップロックに入れたお米をください。』とのラインがきた。

 お米をもって娘の家に行くと、しょうへいだけが家にいた。夏休みの学習をしたあと、高校野球を見ながら、将棋やオセロをした。しょうへいは、「おじいちゃんの家のお米はうまいな。」と言った。

 その後、『お米ありがとう。お米なくなったので、スーパーでお米を買いました。しょうへいは、すぐにいつものお米と違うと言いました。』とラインで送信されてきた。いつも、私の家のお米を食べているしょうへいには、スーパーで買ったお米には違和感があったのだろう。

 家族を養うだけのお米しか作っていない私の家では、田植えや稲刈りは近くの大きな農家の人にしてもらう。そのため、高い作業代金を支払うことになる。
 しかし、戦後の食糧難の話を伝え聞く私たちのところでは、自分の家で食べるお米は確保するという考えは強い。しかも、子どもや親戚や知人は、私の家の『お米がおいしい』と言う。

 だから、私は田んぼを手放すことができないでいる。
 
#ふるさとを語ろう


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