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「俺、実は付き合ってた」〜初めて出来た同性パートナーについて〜

数年前、初めてまともに付き合ったと言える同性の恋人と別れた。
交際期間、4年。

一緒に色んなところへ行き、海外旅行だってしたが、週の半分以上はどちらかの家で過ごしていたこともあってか日常の些細な風景の方が懐かしく感じられる。

晩飯を豪勢にする為に横並びで打ったパチンコ。
言い合いになりながらも二人でどうにかクリアまで漕ぎつけたバイオハザード。
毎年の恒例行事みたくなっていたフェス。

夜中に目を覚ますと、神経質な僕を気遣って彼が一人、音量8くらいでひっそりと映画を見ながら号泣している姿を見た時は笑ってしまった。

本当に、沢山の思い出がある。
だけど、僕がそんな濃い時間を過ごしていたことを知る人は誰もいない。

それどころか、「付き合っていたなんてお前の作り話だろ!」と誰かに言われてしまっても反論する術すら僕は持っていないのだ。

当時付き合っていた彼も僕も、二人ともゲイでありながら、どこかゲイに嫌悪感を抱いていた。
なんなら、ゲイに違いないはずなのに、「俺達は違う」くらい思っていたかもしれない。
セクシャリティに関する話をすることもなかったし、周囲にカミングアウトをするという概念が頭に浮かんだこともなかった。
そんな感じだったから、僕達はものの見事に4年という歳月を二人の間だけで完結させてしまったのだ。

そのせいで、当時の僕は周りから「一人旅が好きな何故かずっと忙しい人」と思われていた。
同性と付き合ってるなんてことは勿論、「今彼女がいるんですよ」なんてその存在を女性に置き換えて話すこともなく、完全に「いない」存在として振舞っていた。

そして、別れがやってきて、本当にいない存在となった。

別れてから1ヶ月と経たない内に、コロナ禍が深刻さを増して初めて緊急事態宣言が出された。
そして、気が付くとラインを送っても、既読がつかないようになっていた。

「緊急事態宣言延びそうだし、ウチにある荷物どうしようか?」
既読がつかないメッセージを見つめながら、僕は悩んでいた。

別れる時には、「捨てていいよ」と言っていた。
けれどそれはなんか気持ち悪いので、また返しにいくわ、と伝えていた。
だが連絡が取れないのではどうしたら良いのか……。

結局、それから半年くらい経ってAmazonの送付先一覧に彼の住所があったことを思い出し、荷物一式を宅配便に託すことにした。

部屋着や、たこ焼き機、二人でする為に買ってくれたゲーム達を段ボールに詰める。
むしろ今返されても邪魔にしかならないだろうと分かりながらも、毎日仕事で使っていた水筒やブルーライトカット眼鏡なども返却することにした。

箱に荷物を詰めている時、初めて悲しくなった。
未練があってとか、そういうことではない。

最後に残ったこの4年間の思い出の残骸達を手放し切ったら、この4年間は名実ともに無かったものになるのだろうか。
今後、誰かから「あの時、お前長いこと付き合ってたよな」なんてその存在を思い出させてくれる人はいない。
出会いがあって、色んな経験をして、終わりを迎えたけれど、周りからするとその間もずっと僕は「一人旅が好きな何故かずっと忙しい人」でしかなかったのだから。

4年間も付き合っておきながら、その事実をこの世界の誰も知らないだなんて、世間的には無かったと同じだなんて、虚しすぎる。

そんなことを考えながら段ボールにガムテープをして、わずかに残っていた思い出とおさらばした。

それから4年程たった。
その間、彼とは一度も会っていない。
そして、これからも会うことは無い。

そんな中、彼のことを思いだしたのは昨日のこと。
「ココナラで出品でもしてみようかな。プロフィール画像はどうしよう」とカメラロールを遡っていると、当時の動画が出てきたのだ。

ちなみに、普段あまり動画や写真を撮る方ではない。

「うわ~懐かし!」
と、再生してみたら、ただただ必死に二人で指相撲をしているだけの動画だった。
なかなか勝負がつかない指相撲をしながら、撮影者である彼が大爆笑している。
「こんな声だったっけ」
と、思ったけれど、その笑い声につられて動画を見ている僕も笑ってしまった。
そして、こんな平和な時間を過ごしていたのかと嬉しくなった。

同性愛カップルの恋愛は、カミングアウトをしていたり、こっちの世界に友人がいたりする人同士じゃないと、ひっそりと生まれてひっそりと消えていく。
ちょっぴり悲しいけれど、そういうものだ。

そして、だんだん思い出すこともなくなって、いつか本当になかったことになってしまうのだろう。
当事者以外この事実を知らないのだから時間の問題だ。
だからこそ、思い出せるうちに一度書いておきたいと思ったのである。

そんな、備忘録。

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