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【読書メモ】脳を鍛えるには運動しかない

運動が脳機能を向上させることについて,神経科学を元に解説している本です.この記事では主に,うつ病からの回復に役立ちそうな内容をまとめました.


ストレスという概念を再定義する

ストレスは身体の均衡を脅かすものだ.脳でいえば,ニューロンの活動を引き起こすものはなんでもストレスとなる.ニューロンが発火するにはエネルギーが必要で,燃料を燃やす過程でニューロンは摩耗し,傷ついていく.ストレスという感覚は,基本的には脳細胞が受けているこのストレスが感情に反響したものなのだ.

ストレスとは「緊張」のことだと思っていましたが,以前お医者さんに「悪いことだけではなく,良いこともストレスになるので注意してください」とアドバイスを受けたことがあります.当時は意味がよく理解できませんでしたが,上の文章のように,「ストレスは身体の均衡を脅かすもの」と定義すれば,良いことでも悪いことでも脳内のニューロンが発火することには変わりなく,違いとしてはその強度だけなんだなぁと理解できます.身体の自然な状態から逸れれば逸れるほどストレスの影響が強くなるので,自然な状態に戻すよう身体の状態をコントロールする必要がありそうです.本書によると,ストレスの作用を調節するには運動が役立つそうです.

脳由来神経栄養因子(BDNF)

神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)が信号を伝えるのに対して,BDNFのような神経栄養因子は,ニューロンの回路,つまり脳のインフラを構築し,維持している.

うつ病や注意欠陥障害などでは,神経伝達物質のはたらきに注目して投薬による治療が行われています.この本では,それらに加え,「因子」と呼ばれるたんぱく質のグループにも注目しています.因子の一種であるBDNFは,ニューロンの回路を構築する役割を担っており,非常に重要なものだと感じました.

うつ病の「神経伝達物質仮説」から「結合理論」への移行

今では,うつは,脳の感情回路が物理的に変化した結果だと考えられている.セロトニンや載るアドレナリンといった神経伝達物質は,そこがしっかりつながっていなければ,役目を十分に果たせない.そもそも脳の仕事は,つねに回路を接続し直しながら情報を伝達し,それによって人間を環境に適応させ,生き延びさせることである.ところが,うつになると,特定の部位でその適応機能がはたらかなくなる.つまり,細胞レベルで学習が遮断されるのだ.そうなると脳は,自己嫌悪の否定的な堂々巡りに陥り,その穴から抜け出すのに必要な柔軟性も失われる.
「神経伝達物質仮説」からこの「結合理論」への移行は,研究の視点がニューロンの外側から内側へと移ったことを意味する.BDNFはセロトニンのようにシナプスで作用するのに加え,遺伝子のスイッチを入れて神経伝達物質と神経栄養因子を生成させ,細胞の自己破壊的な活動にブレーキをかけ,抗酸化物質を放出し,軸索と樹状突起の材料になるたんぱく質を提供している.抗うつ剤が効くまで時間がかかるのは,このようにBDNFが遺伝子経由で脳を調節しているせいかもしれない.

脳内のニューロン回路にはたらきかける治療で,一番わかりやすいのは電気ショック療法(ECT)です.十分役目を果たせない脳の部位を激しく刺激して,回路系の力学を変えようとします.

ECTのように物理的にニューロン回路にはたらきかけるものだけでなく,心理療法にも似たような考えがあります.EMDRというもので,臨床心理士の指示に従って目を左右に動かしながら,過去の出来事について考えます.視線の方向と,脳のはたらく部位には関係があって,視線を動かしながら何かを考えることで普段は使わない脳の部位を使って考えることができるという仕組みです.EMDRでのトラウマ治療では,ある出来事について考える時は脳の一部しか使っていないので,他の部位も使えるようにして,思考の柔軟性を増やして治療を進めます.これも,本書でいう脳内のニューロン回路にはたらきかける治療の一種なのではないかと思いました.

ニューロン回路を構築するにはやはりBDNFが大事で,これを増やす有酸素運動は脳機能向上のために非常に強力な手段であるとわかります.

まとめ

・ストレスを「身体の均衡を脅かすもの」と定義すると,ストレスを受けた後,身体を自然な状態に戻すよう身体の状態をコントロールする必要があるとわかります.

・脳由来神経栄養因子(BDNF)は脳内ニューロン回路を構築します.有酸素運動によって増加します.

・うつ病の課題を「神経伝達物質の不足」から「脳内ニューロン回路のつながりの減少」と考えると,電気けいれん療法やEMDRなどの療法の効果にも説明がつきます.また,BDNFを増やすために有酸素運動を行うことも回復に繋がることがわかります.


追記(神経伝達物質について)

運動によってドーパミンとノルアドレナリンが増える.この二つの神経伝達物質は,前頭前野の「信号対雑音比」も向上させている.ノルアドレナリンがシナプスを通る信号の質を高め,一方ドーパミンは,細胞が不要な信号を受け取らないようにして,雑音,すなわち行き場のないニューロンのおしゃべりを抑えている.
神経伝達物質の量と注意力の関係をグラフに表すと,釣り鐘型になる.つまり,一定の値までは神経伝達物質が増えるほどプラスの効果をもたらすが,増えすぎるとそこから先はマイナスの影響を与え始めるのだ.

上の文から,ドーパミンとノルアドレナリンは反すう思考を抑えるのに役立つのではないかと考えました.

また,神経伝達物質は増えすぎると注意力に対してマイナスの影響を与えるのも大事な性質で,うつ病からの回復に良い行動も,やりすぎるとマイナスの影響に変わってしまうことがわかりました.

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