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東大生の進路とベンチャー

さて、今回は、うって変わってレクチャー風で。今回の記事は、どちらかというとVCうんぬんについての話というより、学生の進路相談への回答に近くなるかと。

その背景についてなのですが、東京大学には、ドリームネットと呼ばれる卒業生と現役学生との交流会があるのですが(ここ最近は、ウェブで実施)。ここ2回程、卒業生として参加する機会をいただきました。

東大ドリームネット公式サイト (todai-dream-net.com)


WEB開催である利点を活かして、僕自身はスライドを見せながら情報共有もしており、それが中々に好評でして。そこで、僕なりの考えをあらかじめまとめておき、「必要に応じて覗いてみてください!」というのが良いかなと思い、この記事を執筆するに至りました。

過去最長の記事になるとは思いますが、それでは、はじまりはじまり。


Q. 学生の時にやっておくべきことは何ですか?

さて、この質問は鉄板ですよね。本当は、もう好きなようにしてください!としか言えないのですが。それでも、多くの社会人の方が言うであろうことを最大公約数的にまとめると次のようになるはずです。

学生の時に何をすれば良いか

全部実行できたら苦労はないので笑 自分のリソース(時間や金銭)と相談の上、どれか2つ実行できれば十分かと。学生の皆様におかれまして、上のスライドを頭に入れた上、社会人の方に質問をしてみてはいかがでしょうか?

ちなみに、僕の学生時代の後悔は、留学する機会がなかったということですね。今であれば、良いプログラムがたくさんあると思いますので。是非、挑戦してみてください!!


東大生が群がる進路は時代遅れ

僕が学部生だった頃、就職活動人気ランキングについていえば、現在とそんなに変わらない印象を持っておりました。外資金融・コンサルが人気で、商社や広告代理店やメーカーもそれなり。

それが、2020年代になって、どのような変化が起こったか。コンサルティングファームの人気が圧倒的だなーという印象はありますが、それ以上に、2000年代前半には絶対に出てこなかったような

・早めにビジネスを作って、M&Aで売却したい
・ベンチャーキャピタリストになりたい

という学生に、出会うようになったことに変化を覚えました。
これは、ベンチャーを中心とするエコシステムに関心が集まり、それなりの信頼を得つつあるということなのだろうと思います。これはこれでとても嬉しいこと。

ただ、後述しますように、これは1つのシグナルでして。
僕自身は、「あ、ベンチャーキャピタルという仕事ももう時代遅れになりつつあるな

そう認識しております。

その理由の1つとしまして。まことしやかに言われていることなのですが。東大生がこぞって、当該進路を目指すようになったらその企業・業界は危ないと言われてます。し、結構心理を突いているような気もします。

今までの歴史的経緯を図式化するとこんな感じでしょうか。

東大生が好きな企業は落ち目


ただ、最近の国際情勢というか、日本の情勢を見ていると、学生のこの動きは、過去の傾向とは違ったことに起因するのかとも感じてます。というのも、

「あ、なんか日本やばくね? 日本企業に入るの危険なのかしら??」
のように感じている学生がかなり多くいらっしゃるようで。

まあ、そりゃあそうで、これだけ、大企業のリストラが叫ばれていて。どんなに優秀でも、その会社専用のスキルしか身につけないで30代以降を迎えたら、肩書を取ったらただの人になってしまう。汎用性の高い能力を何も身につけられないまま市場に放たれてしまう。

昇進や人事は、時の運が大きいことも踏まえれば、「とりあえず外資で、最低限のリスクヘッジしないとまずい」と考えるのは当然なようにも映ります。

なので、本来、10年周期で訪れるはずの東大生就職人気職種に動きがなく、ずーっとコンサル人気が高い理由は、相対的に日本が貧しくなった証左であり、これはしばらく変わらないのかもなーとも思ったりも。

「日本大企業に行くのは危ないから、消去法で仕方なく外資系企業に行く」

という発想は、実は、僕が学部生だった2000年代前半でも周囲から良く聞かれていたことでした。いよいよ、この消去法的進路選択が日本の上位層に固定しつつあるのかなとも感じつつあります。


自分の特性を見極めよう!!

そういうわけで、まあ、みんなが群がるような集団が危ないよーってことは分かったと思うのですが。それでどうすりゃいいのよ?ってことですよね。

そこで、僕がお薦めしたいのは、次の、オペレーター、アドバイザー、インベスター、自分がどれに向いているのかを考え続けながら過ごしてみませんか?ということです。社会のバランスシートの中で、自分がどんな仕事をどんなスタイルでやりたくて、何が向いているのか。意識するだけでだいぶ違ってくると思います。

社会のバランスシートでの位置づけ

オペレーター、アドバイザー、インベスター


特に、アドバイザー業務は、一見カッコよく見えるが故、みなさん選びたがるのですが。

・時給の仕事(単価数万円で恵まれてますが、どうしても限界がある)
・クライアントワーク(やりがいもありますが、クライアントファーストなので職場はブラックになりがち。お医者さんも似た状況ですし、弁護士も全く同じです)

それに加えて、もう1つ、重要なことを。社会に出た際、自分の給料だったり、やりがいだったり、昇進だったりを決定付ける要素は、自分の能力や努力ではありません。単純に、「その瞬間にどこにいたか」ということが大きい要素を占めます。ビジネスの専門用語に換言すれば、ポジショニングで決まることになります。

分かりやすく説明するために、次のスライドを見ていただきましょう。

ポジショニングと進路


思い出してみてください。高校までの3大スポーツといえば、野球、サッカー、バスケだったでしょう。どの部活に所属していようが、運動神経でいえば、そんなに差はなかったのではないでしょうか。しかしながら、プロスポーツの世界に入ると、野球の世界だけが特別に注目を受け、給料も高ければ現役の期間も長い。一方で、バスケの給料は低く、Bリーグが出来るまで全く日の目を浴びておりませんでした。

つまり、みなさんがどれだけ優れた能力を持っていようが、どの進路を選ぶかによって自分の可能性や活躍の場は限定されてしまう。その前提条件を知った上で進路を選ぶべきだということです。

例えば、官僚の進路を選んだ場合、今の日本においては、多くの外資系企業のような高い給料は望めません。加えて、深夜残業当たり前のブラックな働き方も変わりません(ある政治家によれば、官僚の待遇のひどさや働き方のひどさは、「必要悪」だそうです)。

なぜなら、そういう職業だからです。 このポジショニングに関する現実は、しっかりと受け入れた上で進路を選ぶべきだと思います。

昨今のベンチャーブームの背景への考察

 起業することが、そんなに珍しくなってきた背景は、日本人がリスクに寛容になったうんぬんよりも、当該進路を選ぶ絶対数が増えたので、起業すること自体が、「エリートの進路」と認知されてきたことの方が大きいのかな。と、僕は分析しております。

例えば、書籍であれ、NOTEであれ、ツイッターであれ、「何故、リスクを取って、有名企業を辞めてベンチャーに?」的なものが世に溢れておりますが。殊、東京大学の学生に限っていえば、そのモチベーションの源泉は、情熱要因を除くと

① 大企業の人事部や上司に自分の人生を握られたくないし、やりたいことをやりたい
② サラリーパーソン勤務だと、報酬の限界は早い

という点にあり、僕の観点からすると、主観的にも客観的にもリスクを取らずに起業されている方が多いです(最悪、自分が所属していた組織に戻ればいいやーという思考過程)。今も昔も、いわゆるエリートとされる高学歴の方がリスクを取りたがらない傾向には変わりはないと思います。「リスクじゃないな」と認知されたから、選ばれ始めた進路ということになります。いわゆるエリート層の人間がリスクを嫌うのは今も昔もこれからも変わらないでしょう。

まとめますと、

・いわゆるエリート層が起業することが珍しくなくなり、心理的ハードルが下がった(むしろ、起業することがエリート層のやるべきことだという刷り込みと同調圧力)

という背景が大きいかなと感じております。ただ、とてもいいことですよね。


ちなみにですが、たまに「大企業に行くべきでしょうか?ベンチャーに行くべきでしょうか?」と後輩学生に聞かれることがありますが。よほどのことが無い限り、「最初は、大企業行った方がいいです」と伝えております。

大企業の教育体制、大企業の意思決定構造、大企業の組織の論理、大企業を通して知り合う人々。どれも財産になり、その後につながると思いますので。いきなり起業した方がいいのは、例えば、大学博士課程などでアカデミアにいながら、大発見をしてしまい、ベンチャー化したいなどのケースでしょうか(実際、そういう学生の相談に乗りました)。

今の時代、大企業にいながら空いた時間でベンチャー理解を深めることもできるでしょうし。迷ったら、大企業です。というか、そもそも、迷っている時点でベンチャーに行くことは向いていないと思います。

さて、少し脇道にそれますが、①②についてやや細かく見て行きましょう。


① 大企業の人事部や上司に自分の人生を握られたくない


まず、①についてですが、年齢が、30、40と上がってくると、自分が社内昇進トラックに乗っているかどうかうっすらと分かってきてしまうわけです。

さらに、まだ自分が上に行けるかどうか判断がつかなかったとしても、自分の上の世代の人たちが実力とはあまり関係なく、上司の好き嫌いで人生が決められてしまうのを複数目撃してしまう。

つまり、

「自分の努力とは無関係の部分で自分の人生が決まってしまう」

ということが、30代以降、骨身に沁みて分かってきてしまうわけです。
優秀で人格者でという人間が、社内政治で次々と左遷されて微妙な人がどんどん昇進していく。「努力していれば、誰かが見てくれている」そんな言葉は嘘っぱちだと気付いてしまうのですね。

所属している企業のビジネスが、時流に乗って伸びているのであれば良いですが、もしもそうでなかったとすると。。。。中々に悲劇ですよね。

この組織の論理に気付き、大企業を辞めるのは、筋が通っている考え方ではないでしょうか。

② サラリーパーソン勤務だと、報酬の限界は早い


次に、②についてです。有名企業に勤めている人の給料は、もちろん一般の人よりは高いのですけれども。ベンチャーで成功した人のそれと比べれば、どうしても低くなってしまいます。

ベンチャーを起業して、そこそこの生株を持った上でIPOやM&AでEXITをすれば、数億~数十億円(場合によっては数百億円)の資産を若くして持つことになります。サラリーパーソンでこのレベルの資産を築くことは、社長になっても困難であり、これだけの資産を持つ手段として、起業はほぼ唯一の合法的なギャンブルとも言えます。

また、創業者でなかったとしても、ベンチャー経営者の方針できちんと十分量のストックオプションを従業員に発行する会社であれば、10年いかないくらいベンチャーで勤めることで、数千万円~1億円くらいの報酬を市場経由で受け取ることができます。その額は、有名企業に勤めあげたサラリーマンの退職金より多い額になるでしょう。
ベンチャーによっては、ストックオプションを発行せず、従業員のやりがい搾取をするので要注意です。ストックオプションに関わる議論はまた別の機会に)

もちろん、成功しても、大金で感覚がおかしくなり堕ちていく人も多いですし、燃え尽き症候群になってしまう元経営者の方も少なくありません。ただ、それでも

「お金を持つ最大のメリットは、お金に困らないことである」

という格言にあるように、築いた資産でエンジェル投資を続け、スタートアップエコシステムメンバーの1人として活躍し続ける人は確実に存在しているわけです(し、中々に羨ましがられる立場でもあるわけです)。今流行の、FIRE(Financial Independence, Retire Early)も十分可能になるでしょう。

かつて、同じような能力同じような待遇で会社にいたはずなのに、気付いたらあいつは、ベンチャーで輝きながら活躍している一方、自分は、サラリーパーソンとして日々疲弊している。これがまた、人生の悩ましいところであり、面白くもあるところです。


起業される方の多くは、自分の情熱・原体験を強調されますが。その背後には、①②のような思考プロセスを経ている方も多く、起業の理由も様々であることを味わっていただけましたら。

一方で、起業は、合法的なギャンブルと表現したように、失敗する可能性の高いものです。生半可な気持ちでやるものではないですし、「これをやらずには、自分は人生を終えるわけにはいかないんだ!!」という衝動があるべきだと思います。起業家マインドは、誰しもが持つべきだと思いますが。全員が全員、起業家になるべきではありません。大企業サラリーパーソンに向いている人はそれをやるべきですし、ベンチャーに向いている人はベンチャーに行けばいい。当たり前の内容ですが、本来はベンチャーに向いている人が大企業に行くと悲劇ですし、その逆も然りです。しっかり適正を見極めましょう。

ちなみに、ベンチャーに向いている人はどういう人か。ここは完全に個人的好みですが、「いい意味でいかれている人」が向いていると思います。狂気に満ちていて、衝動を持っているくらいの人の方が成功するかなーと思います(「おい深津、私は勝手に成長させるから黙って見ておけ。必要になったら助けを求めるから」くらいがちょうどいいかなあと思います)。

終わりに:

学生対象にこんなことを語っていいのかと思いつつも。早くに知っておいて損はないことかなあと思い、記述してみました。僕が学生だった頃、こういうことを知りたかったなあと思うことを書いたつもりです。

特に学生を意識した記事は、もう1本くらい執筆する予定です(主に理系の人を対象としたnote)

どれだけの学生にこの記事を読んでいただけるかわかりませんが。自分が何に向いているかを考え続ける日々は社会人になってからもずーっと続きますので。そのプロセスを楽しみつつ、日々を充実させていただけましたら。

また次回!!

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