見出し画像

芥川龍之介全集を読む 第一巻 『虱』

作家の全集にチャレンジ

時間のある大学時代のうちに、数人の作家の全集を読もうと思い、ちくま文庫版の芥川龍之介全集を購入した。

芥川龍之介は大好きな作家の一人で、全八巻と量もとりわけ多いわけではなかったので、最初の全集通読に選んだ。芥川龍之介の次はカミュやツルゲーネフなどにも挑んでみたい。

全八巻あるので、一冊読むごとにその中で最も印象に残った話を記事にしていきたい。とはいえ、芥川龍之介のメジャー作品は書評も世に溢れているので、なるべくマイナーな作品にしていこうと思う。目標としては今年度中に全八巻を読み終えたい。

第一巻はデビュー作の『老年』から『二つの手紙』までの、初期の作品群となっている。有名作品としては、『羅生門』『鼻』『酒虫』『芋粥』『偸盗』などが収録されている。

『虱』

今回私が選んだ作品は『虱』である。

大正五年三月に発表された『虱』は、滑稽な人間たちを描く風刺小説である。1864年、加賀藩の一行は長州征伐のため大阪から西へと向かうが、船の中にはが沢山でさあ大変。一生懸命虱を潰してみてもキリがない。皆が途方に暮れていると一人の変わり者である森権之進が虱による健康法を発表し、虱を飼い始めた。これに対して船中の反応はさまざまである。虱健康法に追随する者、反発する者。特に井上典蔵の反発は凄まじく、森が飼っていた虱を食ってしまった。これに森は激怒。二人の争いは刃傷沙汰にまで発展してしまった。そんな騒動があっても船は西へ西へと走っていった。

以上が『虱』のあらすじである。私の説明で伝わったかは不明だが、非常に笑える話で、特に森と井上が「虱。虱。」などと叫んでいたところはあまりに滑稽で思わず吹き出してしまった。

船がある方角に向かって進む小説というとメルヴィル『白鯨』が思い出される。『白鯨』は西部開拓に対する反発として東へ向かっていたが、『虱』は西に向かっている。モビー・ディックの体長が30メートルに対して、虱は3ミリメートルなのだからスケールの違いにも笑ってしまう。

長州征伐のため西へ進む船が当時の日本の西欧化の風刺であることは間違いないだろう。『虱』は最後「西へ西へと走っていった。」で締めくくられる。日本は幕末から明治維新、大正へと開国、文明開化などで大きな発展を遂げた。その背景にあるのは西欧文明の吸収である。しかし、その過程では多くの動乱があった。幕府と薩長の対立、征韓派と内治派の対立などなど…多くの出来事を経ながら日本は西欧的近代化を進めたのである。

芥川龍之介から見れば明治六年の政変も虱程度のちっぽけなものだったのだろうか。芥川龍之介の政治的スタンスが私には分からないので何とも言えないが、『虱』はそのような単純な風刺小説ではないと思う。今後全集を読み進めていくうちに『虱』についても考えていきたい。

まとめ

『虱』は短編であるが、読んでいるうちに超大作『白鯨』を思い出してしまうような、深いテーマを持っているかもしれない。『白鯨』も『虱』も船が目指すのは「白人文明」の象徴である(目的は全く違うが)。近代日本の発展のあり方を考えるのもよし、滑稽な人間たちをみて笑うのも良しと、優れた作品である。

今回は『虱』を取り上げたが、第一巻で他に印象に残った作品としては『忠義』『二つの手紙』が挙げられる。いつかこれらも記事にしてみたい。

第二巻の記事はこちら→(作成中)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?