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短文学集

25
筋も思想も体系も、全部気にせず楽しむことを短文学と称して日々の感傷を綴る。
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#煙草

ため息の代わり

ため息の代わり

 いつもよりも早い時間、チャイムの音を合図にしてクラスメイトたちはいそいそと席を立つ。試験期間中に与えられる普段よりも長い放課後を、真面目に勉強にあてるもの、遊びの計画に浮足立つもの。いずれにしても、みんなそそくさと教室を出ていこうとする。

 私は、ぐずぐず荷物をまとめる。文房具と少しのテキストしかない、やけに隙間の多いカバンをいつまでもひっかき回している。まだこの部屋に残っているのは、休憩時間

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代替品

代替品

 長雨の下から出て傘を畳むと、頭上の山門が作る軒の下に水滴が落ちて黒いシミを作っていった。耳に染みついていたビニールの膜に雫が弾ける音がようやく遠のき、遠く山野を濡らす音が辺りに満ちている。傘を柱に立て掛けると腰掛け、鞄からライターと、久しく箱を開けてすらいなかった煙草を取り出した。
 ジーパン越しに湿気が伝わる。腕の産毛の先まで満遍なく包んだ湿気が、煙草まで達していないかが気がかかりだった。もた

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