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西城秀樹「ブーメランストリート」

西城秀樹さんが亡くなられました。
ネットやメディアでは盛んに在りし日の姿とともに往年の名曲を久しぶりに聴く機会がにわかに増えました。
「激しい恋」「情熱の嵐」「ギャランドゥ」から「走れ正直者」まで、実に多彩な楽曲を歌いこなす、まさに「スター」だったんだなと、改めて感じる今日この頃なんですが、数あるヒット曲の中で、私個人がもっとも好きな楽曲はというと、「ブーメランストリート」でしょうか。ヒデキの歌ということもさることながら、楽曲そのものがとても魅力的でよく練られた歌だなあと、感心してしまいます。この曲がヒットしたのは1977年。歌謡曲がど真ん中で華やかなりし時代。インパクトもあり、音楽的にかなり練り込まれたヒット曲がたくさん生まれた時代だったのではないかと個人的には過大評価しておりますが、この曲も御多分にもれず、かなり面白い曲です。
まずは改めて聴いてみることにしましょうか。

作詞は阿久悠、作曲は三木たかし。60年代アメリカポップ・ミュージックにおけるゴフィン&キャロルキング。これで名曲が生まれないことはないよねという、ヒット曲を生み出す定石のコンビ。同時代のこのコンビのほかのヒット曲といえば、石川さゆりの「津軽海峡冬景色」。同じ人たちが作ったとは思えないような幅の広さです。ちなみに編曲は萩田光雄。こちらもこの時代の代表的な編曲家であります。ちなみに萩田光雄さんの編曲で私が最も好きなのは、山口百恵の「曼珠沙華」ですが、これを語るとそれだけでご飯3杯食べられるくらいのネタなので、それはまた別の機会に熱く語ることとします。

さて、「ブーメランストリート」。まずもってイントロのSEからやられます。ブーメランを彷彿させるなんてわかりやすいSE。なのに嫌みのないカッコ良さなのでしょう。結構勇気いるんじゃないかなと思うんですよね。なにせ生楽器の生演奏録音に、シンセのSEをかぶせると、なんとなく浮いた感じになりがちなのに、この曲ではバッチリ決まります。

そしてシンコペーションで畳み掛けるような印象的なイントロ。これが、サビのメロディを想起させる感じで、一気にあの有名なサビになだれ込みます。
そしてあの有名なサビ。ここがこの曲の見せ場ですが、まさかの3拍子。ブーメランのごとく、くるくる回っていくような展開。これはインパクト大ですよね。そして「きっと〜あなたは 戻ってく〜るだろう〜」で、4拍子に戻ります。サビが変拍子の曲って、なかなかないと思うのですが、このアプローチが、曲に強烈なインパクトを与えています。
自分が考えるこの曲の肝は、歌詞の温度感と歌詞の流れが、メロディと絶妙に合わさっているところだと思うのですが、その一つの手段がこの「変拍子」だと思うのです。不安定な拍子や拍数を多用して、次に何が起こるのかを聴き手に無意識に期待させているわけです。
サビから続くAメロがそういう意味で凝っていて、あえて字余りな小節数でぶっ込んでくるのですよ。8小節+6小節の14小節でひとかたまりのAメロ。これが2回繰り返されます。普通なら8小節で切って、同じメロディをそこでもう1回繰り返すのが定石ですが、この曲では、切らずにもう6小節分のメロディを付け足したような形になっています。これがいい意味での字余り感になって、曲に余韻を残しています。
そこからサビに戻すかと思いきや、Bメロのパートに入ります。ここがまたニクいのが、Bメロのパートに3つの動機があること。⑴「カリッと音がするほど小指を噛んで」⑵「痛いでしょ忘れないでしょ」⑶「そんなこと言ったあなたの後ろ姿が」の3つ。で、(3)の反復形である「もうやがて見えなくなる」で終わるという構造。近頃のJポップではあまり見かけないような構成ですが、この時代には結構こういう構成の曲が多かったりします。この辺に、メロディ作りの多様性というか、作り手の味みたいなものを感じさせます。おそらく、歌詞に沿う形でメロディが作られていったのではないかと思います。でないと、なかなかこういう曲の発想は出ないのではないかと思います。
さらに(2)パートでダメ押しの変拍子で、「痛いでしょ」メッセージを突きつけていくわけです。この辺はもう職人の技ですよねー。

そこから次こそサビかと思いきや、間奏を挟みます。その辺に歌詞のドラマ性を引き立たせる効果を感じさせます。そこからAメロとBメロの2コーラス目に戻り、そこからようやく待ってましたのサビが、最後のダメ押しで転調してテンションマックスへ。ヒット曲の王道ですね。
ところでここ、元の調で一旦サビを歌ってから、最後にダメおしで半音高い調へ転調するというのも考えられたんじゃないかと思うのですが、おそらく、それやっちゃうと、くどすぎるブーメランになると判断したんじゃないかと思います。その辺りに、編曲の緻密な計算が垣間見えます。

ヒット曲のツボをこれでもかというくらいに押さえたこの楽曲。なかなかに奥深いのに、聞こえはとてもポップという、70年代歌謡曲の妙、という感があります。改めてこうやって聞くと、ヒデキさんの楽曲は、なかなかいい曲多いです。ロックでありブルースであり、それを非常にポップな解釈で歌うというところに、いつの時代にも受け入れられる普遍性を感じます。
ヒデキさんのご冥福を心から祈る次第です。。


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