直前に発売中止。メガドライブ用テトリスのサンプルROM

1989年、ゲーム機の主流は任天堂のファミコンとセガのメガドライブ、そしてNECのPCエンジンという、三つ巴の戦いがありました。
そしてこれはゲーム機の売上は、面白いゲームソフトがあるかどうかに大きく左右されるものでした(これは今もそうかもですが)。

ファミコンはハードとして終焉期を迎えていて、PCエンジンは発売から2年くらい経っている中で、セガのメガドライブは数ヶ月前に発売された最新機種です。
製品外観には大きく16bitと書いてあってなんだか高性能なイメージがありました。実際も高性能で街のゲームセンターのと遜色ない再現ができているゲームソフトが多かったです。
ただ、いくら性能がよくても対応するゲームがあまりなく、私が店員としてお店に立っている時も売れてはいましたが、大ヒットとまでは言えない売れ行きでした。

そんな中である日メガドライブ用のテトリスが発売されることをゲーム雑誌で知りました。
テトリスの発売日は1989年4月15日。それまでにあった他のテトリスは操作方法が直感的ではなく絵もそんなにきれいでもなく、ゲームセンターにあったセガのテトリスが1番面白かった。それがメガドライブに移植されるという。
これでメガドライブが売れて品薄になると思い、その前にメガドライブを買っておこうと私はテトリスきっかけで購入しました。

ゲームの発売日が近くなってくると、ゲーム流通会社の営業さんがサンプルROMというものをお店に持ってきてくれます。サンプルROMには発売前の新しいゲームソフトが収録されていて、お店の人がそれを試して、発注数を決めるための目安にしたりします。
そしてついにテトリス発売前にサンプルROMがお店に届いたのでした。

私はアルバイトの身でしたので、順番はあとの方でしたが、少し待つと自分の分がまわってきました。
今回のサンプルROMは基盤だけで、普通のゲームカセットにあるプラスチックのケースには入っていません。
メガドライブ本体にはカセット挿入口に蓋が付いていて、基盤だけを挿すのは少しコツがいりましたが、なんなく挿しこんで電源オン。しかし何も映りません。
もしやと思い、表裏をひっくり返して挿入し直したら、あのゲームセンターのテトリスのロゴとまったく同じタイトルがテレビ画面いっぱいにあらわれた瞬間はかなり感動しました。
ゲームを始めないでそのまま待っていると、デモ画面に切り替わります。デモ画面のブロックの動きまでゲームセンター版とまったく同じに再現されていているではありませんか。さらに感動です。

そんなこんなで自らを焦らしながらも、やっとゲームスタート。
ゲームセンターでは周りの音が騒がしくてはっきり聞こえなかったセガテトリスのゲーム音がクリアに聞こえ、ある意味新鮮です。
コントローラーが違うのはしょうがないですが、操作感やゲーム画面はまったく同じ。ゲームセンターでは100円挿れても、ある程度でゲームオーバーになってしまうテトリスを思う存分楽しめます。もし5,000円で買ったら50回やれば元が取れるとしょうもない計算をしながら、発売されたら購入しようと決めたのでした。

そして発売日だった1989年4月15日が近づく少し前、アメリカでテトリスの裁判が起きてるらしいという話を聞きました。しかし私は海の向こうの国の話として、まさかこの裁判でメガドライブのテトリスが発売中止なるとはまったく思っていません。

このテトリス発売中止の経緯はどなたかのサイトの紹介にお譲りするとして、ここでは書きません。興味のある方は「テトリス事件」とかで検索されるとわかると思います。
簡単に言うと、セガは版権を持ってると思ってメガドライブ用テトリスを開発・量産したが、実際には版権が無かったというお話しです。
広告やポスターなどもすでにあったと思います。当初は発売延期とされていましたが、その後発売中止と聞き、テトリスをやるためにメガドライブを買ったのに、私の計画はもろくも崩れ去ったのです。

そしてその数ヶ月後、1989年6月14日に任天堂から携帯型ゲーム機ゲームボーイ用のソフトとしてテトリスが発売され、操作性の高さや携帯型なのでどこでもテトリスができることが受けて、その認知度が一般の人にも広まります。ゲームボーイ本体の販売に大きく貢献したでしょう。
私もゲームボーイを購入し電車の移動はもちろん、学校の授業中にもやってしまうほどハマってしまいました。特に人対人の対戦モードがたまらなく面白いのです。当時はWi-FiやBluetoothなどの無線技術がないので、対戦するためには有線の通信ケーブルで2台のゲームボーイを繋げる必要がありました。ダメなことですが授業中に隣の席の友達と対戦するため、通信ケーブルを席の間で繋げてまでもやってしまうほどの中毒っぷりです。
これをするために本体とソフトを2つ用意する必要があり、それもゲームボーイがヒットした理由の一つだったと思います。

後日談になりますが、ある日秋葉原のゲームショップに、発売中止になったはずのメガドライブ用のテトリスが売られているのを見つけました。もちろん正規品ではありません。パッケージには「俄羅斯方塊」と中国語のタイトルが書いてありましたが、どうやらテトリスを中国語で書くとこうなるようです。
メガドライブのテトリスを買えなかった私は、思わず買ってしまいました。自宅に帰って試してみると、あの時のテトリスのサンプルROMとちゃんと一緒です。
電源を入れた時やタイトルに出てくるSEGAの青いロゴが、ただの青くベタ塗りした四角になっている程度の違いはありましたが、ゲームそのものはサンプルROMでやったものと同じです。
もしかしたらあの時に出回ったサンプルROMがコピーされて「俄羅斯方塊」になったのかもしれません。

もしメガドライブでテトリスが出ていたら、当時のゲーム勢力図が大きく変わっていたかもしれません。しかし後にはあの大人気ソフト「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」などヒット作に恵まれて品薄状態が続くほどの売れ行きで、私のメガドライブも活躍してくれました。
また約10年の時を経て「メガドライブ ミニ」の収録タイトルとしてテトリスが収録されたと聞き、もし当時のセガの方々の気持ちや、開発されたテトリスが少しでも報われているといいなと勝手ながら思っています。

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