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小さいことの積み重ね ロベルト・ボラーニョ『野生の探偵たち』

ロベルト・ボラーニョの『野生の探偵たち』について。

ロベルト・ボラーニョは、1953年生まれのチリ人の作家・詩人です。
2666』という長大な小説が世界的に評価され、日本でも“ボラーニョ・コレクション”という名で全集のようなもの出版され非常に高い評価を受けている作家です。

今回紹介する『野生の探偵たち』ですが、謎の詩人を追う若者二人について語られた50人程のインタビューと、ある少年の日記から構成された小説です。特に読み応えのあるストーリー展開があるわけでもなく、いつ盛り上がるのだろう。。。??と読み進めて結局盛り上がらず。。と言った感じの作品でした。美しいと感じられる瞬間は頻繁にあるのだけれど、物語として読むと少し退屈な作品でした。

『野生の探偵たち』(上)ロベルト・ボラーニョ 著  柳原孝敦 訳 松本健二 訳(白水社)

これは、タイトルに“探偵”という単語が含まれていることと、作品の長さから、ぼくが勝手に純文学テイストの長編ミステリー作品!と思い込み期待しすぎたことに原因があったのだと思います。その前に読んだ『2666』という小説は、聖書か!というくらい長大なのですが、それを三ヶ月以上かけて読んだ時に「二度と読むか!」と思っていたのですが、懲りずに手を出してしまいました。
しかし、なぜこのような詩人の方が向いていそうな作家が、こんな長大な小説を書いているんだろう?と不思議に思うのですが、ぼくが今まで面白い!と思って読んできた飽きさせない長編小説とは全く異なった観点から書かれているからなのでしょう。この作品は、物語と言うよりは詩のような小さい断片が集まってできたような作品と言った方が良いかもしれません。そして、その断片が多ければ多いほど全体像が正確になるんじゃないか!ということで長くなったような印象を受けます。

そもそも、長編だからと言って物語である必要があるわけでもないですし、読み手の興味を引き続ける必要もないのでしょう。むしろ、そのような創作態度が評価されているのかな?と思います。
“現代音楽”という何でもありのジャンルの音楽を大学で勉強していたにも関わらず、そういう所を楽しめなかったことは痛恨の極みですね。。

何にせよ、完結にまとめることは非常に重要ですが、小さい事の積み重ねでしか到達できない領域というものがあるのだと思います。そしてこの作品はその領域に到達しているのかもしれません。要領よく楽しめたり学べたりする本とは違い、現代のライフスタイルとは相性の良くない本ですが、人生(例えば結婚生活!)では、小さいことの積み重ねが重要!ということは、思った以上に多いように思います。少なくともそんな感じの教訓を得られる小説だったのではないでしょうか。。。(小説から教訓を得る事は余り無いので凄いことかも!)

ところで、今年(2022年)に、母校である東京藝術大学の音楽学部の紹介動画の作成に参加しました。
50人近くにインタビュー(15分〜60分程)を実施し、それらを編集しコンパクトにまとめるという業務を担当したのですが、母校のことを自分の所属していた科(作曲科)からしか見ていなかったんだなーと痛感しました。
インタビューでは、教師や生徒が自分の周りの細部を語っています。それらのインタビューからは、その細部が理解できるだけなのですが、全てを聞くと小さい断片が多数積み重なってこそ見えてくる全体像というもあるという事を実感する経験となりました。良ければご覧ください!(しかし、入学前に観たかったー。。。)

【東京藝術大学音楽学部】紹介動画

インタビュアー:田口仁
インタビュー撮影:進藤綾音
撮影助手:植村真
編集:高橋宏治
録音:元木一成



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