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私はカメラ Episode1
「求道者的に生きることを放棄したんだろうね」
投げやりな言葉に「そうなんだ」と適当に答えた彼女はもはやホットケーキが待ち遠しくて仕方がないといった様子だ。傍らには彼女のカメラがあってその手前には私のカメラがある。あからさまに写真だけが人間関係を繋いでいる感じの二人だ。
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「僕にとって写真は」
こんなこと言っていいのかなとわずかながらの躊躇をはさみつつ、やっぱり本音を投げてしまう。
「向こうから訪れるもので自分から生み出すものじゃないんだ。僕は努力が嫌いだから写真うまくなりたいなんて思って取り組んだこともないし」
彼女はむごいほどに静かなため息をついてみせる。
「なのにプロになったのはなんで?」
「商売にしたかったから。商売って商売として成り立ってれば後は自由だから。価値はクライアントが決めることで他者は関係ないからね」
「私はプロでもアマチュアでも技術的にとか表現力的にとか向上していくってことは大事だと思うんだけどな」
「それはそうなんだと思うよきっと。でもそこがまさに僕のダメなところなんだって」
「意識低い系だ」
彼女が笑って僕も笑った。
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カフェを出て30分ほども撮り歩いただろうか。買ったばかりのカメラのシャッターを切る彼女は楽しそうだ。たまたま昔通った写真学校の前を通った。
「ここの坂道。ズラリとバイクが並んでいたんだよ。みんな写真学校に入ったのにカメラを買わずにバイクを買ったんだね」
「そうなの? 写真学校に入ったのに?」
「そう」
「写真学校って何をやるの?」
「スタジオ実習とか。最初の授業を覚えてる。ワイングラスをみんなでああだこうだ考えながらライトでうまく照らして行くんだ」
「なんだ、それじゃ真面目にやっていたんじゃないの」
「一応授業だから」
「どのあたりから意識低い系になったのよ」
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写真を撮ることはめちゃくちゃ楽しい。今も楽しい。なんでこんなに楽しいんだろうと思う。あまりにも楽しいから私は人生を踏み外してしまったのかもしれないなんて思ったりもする。そうするとつまり写真を撮るということは堕落していくことなのかもしれないなとか思ったりもする。ストイックに表現とか追求する人はまた別なのだろうけれど撮れば撮るほど堕落していく感じがしてしまう自分としてはあまり人に写真をすすめることはできないのかもとか思う。
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「とりあえず楽しいからいいんだよね」
「それはまあそうね」
「いちいち深く考えるキャラじゃないし」
「ああそれはわかる」
「どういう意味?」
「そういう意味w」
楽しさに身を委ねて楽しさの部分でしか写真と関わらない人間がいてもいいだろうとは思う。たぶん写真芸術とか写真表現とかにはなんの寄与もできそうにないけれど。
私は今とても自由だ。
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