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異世界がでたらめすぎて困ってる

目覚めると部屋のど真ん中に巨大な自販機があった。それもまぁあの縦長の扉を開けて横倒しになったびんを引っこ抜くタイプ。今どきの子は目にしたこともないレアなオールドコカ・コーラスタイル。そういえば焼肉金竜山の冷蔵庫がこの方式だったな。ビール頂戴なんていうと、勝手に開けて飲め、なんて言われましたっけ。ぼんやりとそんなことを思い出していた。
待て待て、過去の記憶はともかく、これはまぁ礼儀ということで…とりあえず開けるよね。えぇ開けましたとも。中にはみっしりと詰まった瓶ビールと瓶コーラ。
オールドタイプのガラス瓶ボトルだ。懐かしさも手伝って手が伸びた。そうそう自販機のここのところが栓抜きになってたんだよ。今どきの若い子にはわかるまい。などとのんきに考えながらグビッと。お〜ぉこの炭酸のシュワッがいいね、こいつはあれだな。砂糖じゃなくって◯◯◯甘味料入りの初期タイプだな。いいね炭酸の効きっぷりがウィルキンソンジンジャエールの辛口クラスだよ。
「あの~よろしいでしょうか」背後からおずおずと誰かの声。
振り向けばくすみ系のオレンジに黒のストライプが入ったオーバーオールの女の子。だれ?服装から見るにこのシトはビール屋さんってわけじゃないな。あなたもしかしてコカコーラの人?ずいぶんと昔のデザインだけど。え~っと鍵は掛けといたよね。多分だけど。それとも俺って拉致された。
「あっそこは気にしないでください。」
いや気にするでしょう。でもまぁそうおっしゃるならね。ってチョット待て!!。
「俺、なんか今、口に出していいました」
「いえいえなにも」
これは…もしかして…そうかわかるんだ。ってことはだな…。これはあくまでも検証のため、と自分に言い聞かせながら、目線を彼女の上から下までじんわりと。ちょっと妄想してみました。さぁこれでどうだ。
「エロジジイ!」
ほんとにわかるようだよ。このなんだその冷蔵庫女は。
っと、冷蔵庫開ける→女登場→今までとは違う新しい人生。この流れはもしかすると世界初の冷蔵庫型異世界ファンタジー。あれですか。
「ハイ、そのようにお考えいただいてよろしいかと」
そうくるか。そうくるのか。なんかいいぞ。これはそう、あれだな。多分夢だ。さっき飲んだのは見た目も味もコーラだったが、実はコーラとそっくりのアルコール飲料だったと。最近体質がまた変わったんだつまり俺は今酔っていて目の前には何もない、だれもいない。幻覚だひょっとしてアル中じゃないよな。
「はいアル中ではありません」
「ご親切にありがとう」
思わず返事なんかしちまったよ。 よそから見たらとても不思議な光景だと思うコーラを飲みながら酔っ払っているおじさん。相当不審な光景には違いない。
ということは・・・。
「はい、あなた様こそが我々が求めていたお方です」
でたっ、異世界展開だ。やっぱり夢だな。だってマンガで見た世界観がそのまま投影されるなんてありえませんもの。オレの記憶由来だね、こいつは。夢ならいっそ遊ぼう。でこれから行くのはどんな世界、何をするわけ。そこは気になるとこだよね。
「異世界とおっしゃるのはあれですかその」
「そうです召喚ということになります」
「あーあの召喚、そうね異世界ときて、それがこういうやつですか。 ねぇあなた。えぇっとなんと呼べばいいのかな」
「クリフ・タイジェンともうします」
「なるほど、クリフさんね。アタシのこといくつだと思ってます。60過ぎですよ。世間でいうところの高齢者。異世界ってのは普通30代まででしょ。こんなおじいちゃんが行く世界じゃないと思いますけどね」
当然の疑問をぶつけてみただけなのに、なぜかクリフの態度がいきなり豹変した。
「いやその謙虚さ、ご自分をわかってらっしゃる。人生経験豊かというか。その小賢しい猜疑心がお見事。若い世代ではこうはいきません。昨今の異世界なんてものはね、あなた。それはもうなかなかに巧妙。お若いシトなんかの手におえるもんじゃありませんよ旦那。その点旦那はいいやね。なんてったってもう、せこい・疑り深い・しみったれ。3拍子揃ってますなぁ異世界で生きてくには、これはもうまたとない人材でありまして。 憎いよこの色事師、令和のゲンさん。あっそれっゲンさんは色事師、ゲンさんは〜」
とてつもない長台詞である。口調から察するに小娘の皮をかぶった落語家。もとい幇間、一八である。ここでこういう口調で来るとなるとこれはどうにも裏があるね。えいゃかまやしねぇや。こうなったらこっちもノるしかあるめぇ。
「おいおいどうにものせ上手だね。お前さんというシトは。さしずめ昨日川っぺりで見つけたシャレコウベ、お前さんあれだね。あのあたしがロンリコかなにかでもって供養した、あの一件。違いあるメェ」
とここでノっちまうのが、俺の悪いとこだろう。だってそうだろ。この年になって新しいことを始めるなんて気持ちはあっても体力、気力がついていくはずがない。なけなしの自制心でごまかそうとしたところへ。
「そこもご心配なく。身体能力も含めてボディは新しいものをご用意いたしますのでご安心ください」
そうきたか。そうだった、こいつは俺の考えが読めるんだ。
「あのですね、それ系のマンガやアニメの例でいうと。あれですか若くていい男とか。スライムとか。いやなぜか女性にってのもありましたよね。となると今回は」
クリフの表情が少し変わった。ヤレヤレみたいなやつだなこれ。
「あぁそれですか、ある程度ご要望にはそえると思うんですが、限度がありますからねぇ…」
なんだなんだよ、その視線。ノセておいてこれかよ。上から下まで値踏みするような。いや違うなこれわざとだよ。身の程を知れってか。そういいたいのか。
「まぁ贅沢は言える立場じゃないしね。アタシだって自分の身の程はわきまえてるつもりですよ」
ここは大人の余裕というか、老人特有の哀れさを装ったセコさを感じていただいてと。
「で、ものは相談ですがね、いやいや多くは望みません。ほんの少しだけ。まず先方の環境や一般的な住民とか、魔物なんかの情報を教えていただいてと。それに合わせてアタシのスペックを用意していただくと。どうでしょうそんなところでひとつその」

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