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ワン トゥー フォー sec4

信じない人間は多いが、オレは話しぶりや行動に反して、
冷静で慎重なタイプと分類されるべきパーソナリティを備えている。
誤解のないように付け加えておくと〝少なくとも本人はそう自覚している〟レベルではあるけれど。

ともあれ、行動に移す前の下準備を大切にするタイプの人間だ。
まずはmacbookairに入っているファイルのチェックだ。
デスクトップ画像はパトリシアちゃんのフォトコラージュ。

そうだね確かにお利口そうな表情をしている。
それにしても猫の目というか、視線というべきか、
とにかく人の心を見透かすような彼女たちの目力は、
オレのような優柔不断な人間には結構なプレッシャーだ。

じっと見つめられると今までの悪事のすべてを告白してしまいそうになる。
もし、なにかのきっかけでオレが神父様にでもなることがあったら、
懺悔室には壁の四方に猫の画像をレイアウトすることにしよう。
信者たちへのさりげないサービスとして。

そんな間抜けなことを考えながらPATと書かれたファイルをクリックした。
それにしても今どきパスワードを自分の誕生日に
設定するというのはいかがなものか。
一周回って逆に安全?いやそれは流石にないだろう。

ぶつぶついいながらも一通り目を通した。
最新のmacbookairを前にして独り言を言いながら
おぼつかない手つきでタッチパッドを操作しているオジサン。
決して他人目に触れてはならない不審者の図なんだろうな。


おびただしいパトリシアちゃんの画像+動画、
曽祖父母どころか10数世代まで遡る系図と
生存が確認されている兄弟姉妹をはじめとする血縁者?リスト。
これはもうサラブレッドに匹敵するほどの家系図だ。
5世代以上となるとハッキリしない我が家の家系図がみすぼらしく見える。

その他にもチュールを含む画像付きのお気に入りおやつリスト、
特技の欄には二足歩行、逆立ちなどと書いてある。
ご丁寧に肉球の写真まであった。もちろん手足?すべてのだ。
パトリシアちゃんのすべてを網羅しているとは言っていたが。
なるほど、概ね増子のレクチャー通り。
資料の内容もその事実を裏付けするものがほとんどだ。

しかし、それだけではないのでは、と思わせるような違和感があった。
不自然なのだ。増子本人が作ったものでないとしても。
立場上、資料のチェックはしているはずだ。
だとしたら、間違いなくある箇所の不自然さを指摘したに違いない。
その問題の箇所がオレの目に触れるとなると事情が違っている。

これはメッセージであり、正式なオーダーなのだ。
本当の目的なパトリシアちゃんではない。
それを確かめることはある意味、あちらの団体、
いや増子やパトリシアちゃんの保護者である会長、
もしかしたらオレの属する協会やオレ個人にとっても、
リスキーなことなのに違いない。

暗黙の裡に読み取るようにといったレベルの話なのだろう。
最初から単純な猫探偵の役割ではないとは想像していたが、
ひねくれ者の意欲を刺激するには十分なテーマのようだ。

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