「大人の楽しい魔物狩り……狩られ」第1話


【あらすじ】


 冴えない平社員《平吉》ら会社のフロア全員……総勢二百名は、ある日、灰色の何もない奇妙な部屋に拉致される。そこで、「スキルをやるからゲーム感覚で世界を救え」と世界救済を強要される。
 しかし、世界救済として実際にやらされたのは荒廃した都市で、謎の魔物《キメラ》を討伐していくというものであった。
 かなしいかな、各人に与えられるスキルは現世における能力に応じたものであることが告げられる。平社員である平吉は平凡能力《シールド》を得るが、ゲーマーであった平吉は、いち早く順応していく。

 ハードな世界で逆境に抗い、奮闘しながらも、次第に世界の違和感が明かされていく。

【補足】

ネタバレ設定や作品コンセプトの補足は下記のリンクに記載します。
(まっさらな気持ちで読みたい方もいるかもしれないので……)

【本文】


「お名前は?」
「平吉です」
「貴方の年齢は?」
「35」

 うつろな意識の中、頭の中に響くような声で次々に質問される。

「役職は?」
「……平ですが」
「平吉で平ですか……」

 やかましいわ!

「……何か特技はありますか?」

 なんすかこれ? 面接か?
 こっちは先日、昇進試験で爆死して、もう面接はこりごりなんだよ……!

「ゲームですが、何か?」
「どの程度、取り組んでいますか?」
「だから! オンラインアクションゲームでギルド長を務めてますよ! ゲーム内では有数の上位ギルドです!」
「そうですか…… では、Mサイズのスキルコアを進呈します」
「あ、どうも」

 Mサイズ? スキルコアって何ぞ?

 ◇

 目が覚める。何だったんだ、今の質問は……?
 まぁ、目が覚めたってことは夢だったのだろうな。などと考えながら上体を起こす。

 そして思わず口に出す。

「……どこここ?」

 何もない灰色の部屋にいた。
 さっきまでは会社のフロアにいたはずだった。

 そこにフロアにいた二百人の同僚達もいる。
 俺と同じように続々と目を覚まし、動揺している。

 服装はスーツから動きやすそうな簡素な物になっている。

 部屋には出口らしきものもない。
 数名が壁を叩いている。
 しかし、何らかの成果を得られているようには見えない。

 状況把握もままならないうちに一つの変化が起こる。

「皆さん、お疲れ様です」

 フロア中央上部から女性のシルエットをした灰色のホログラムのような人型が出現した。

「私が皆さんの今回の仕事の<ファシリテイター>を務めさせていただきます」

 ファシリテイター? ミーティングのリーダー的な役割を担う人を時々、そう呼ぶ。

「あなた方は拉致、監禁されたと思っていただければ概ね認識相違ございません」

 当然、ざわめきが生じる。ファシリテイターは淡々と説明を続ける……、

「ですが、その目的は至って建設的なものでございます。あなた方にはゲーム感覚で、この世界を救っていただきます」

 が、ちょっと何言ってるかわからなかった。

「何この夢……リアル過ぎなんですけど……」

 フロア1のキラキラ系女子、星野さんが動揺した様子で呟く。
 星野さんは少しパーマのかかった明るめ髪の綺麗な女性だ。
 声が大きめで、フロアでも随一の存在感だ。

「夢ではありません」

 ファシリテイターは星野さんの言葉を否定する。

「どうやったら解放されるんだ!?」

 次長の火野ひのが、皆がまず聞きたかったことを尋ねる。
 火野次長はこのフロアにおいて部長に次ぐ、ナンバー2だ。
 年齢は五十代。強面の外見である。
 外見通りの中身をしており、きつめの性格だ。

「順を追って説明いたします」

「順を追ってじゃねえんだよ!! まずそこから説明しろ!」

 火野はファシリテイターに対して部下を攻め立てるかのように命令する。

「解放の条件だけを抜粋して説明しても理解が難しいため、順を追って説明させていただきます」

 ファシリテイターは淡々とマニュアル回答のような対応を見せる。

「ふざけやがって……!」

 火野が毒づく。

「まぁまぁ、火野さん、まずは話を聞こうじゃないか」

 部長の日比谷が熱くなっている火野を諌める。
 日比谷はフロアの最重役である。

「……はい、わかりました」

 日比谷は四十代前半で、火野よりも若い。
 短髪で渋い顔立ちをしており、いわゆるダンディなおじさんの佇まいをしている。

「流石、部長さま。賢明で、助かります」

 ファシリテイターがおだてる様に日比谷を称賛する。
 日比谷は「どうぞ」のジェスチャーで応える。

「それでは、説明を続行させていただきます。まず、このコントロールヘッドギアセットを装着してください」

 目の前に突然、ヘッドギアとゲームのコントローラ、そして仰々しい椅子が出現した。

「何これ……すご……!」

 フロア1のキラキラ系女子、星野さんが分かりやすいリアクションをしてくれる。

 皆、不審に思うが、他にどうしようもない。
 言われるままに、椅子に腰かけ、コントローラを手に持ち、ヘッドギアを装着する。

 すると目の前には、まるで現実世界のような映像が映し出される。

 白い壁の部屋で巨大な扉がある。
 ぶっちゃけ、ヘッドギアをつけるまでにいた灰色の部屋と大差なかった。

 周囲には、やはり部内の二百人がいて、全員、その場で静止していた。

 服装は灰色の部屋における軽装ではなく、目覚める前に着ていた服装になっているようだ。
 スーツ姿の人とカジュアルの人が半々くらいである。

 FPSのように一人称視点となっている。
 自分自身の顔は確認できないが、下を向くことで服装は確認できる。
 普段通りのスーツ姿だ。

 周りを見渡すと、空間に浮遊するように、マップや数値が表示されている。

 ファシリテイターはゲーム感覚で世界を救うなどと言っていたが、確かにゲームさながらだ。

「全員、装着したようですね」

 ファシリテイターによるその確認と同時に、耳元で何かを施錠するような音が聞こえる。

 再び、ざわめきが起きる。

「ヘッドギアをロックいたしました。ミッションをクリアすれば外れますので、ご安心ください」

 何を安心しろと言うのだろうか? と思うが、反論の余地があるようには思えない。

「貴方達は手元のコントローラを使用することで、貴方達自身を操作することができます。それでは、コントローラによる操作をオンにします」

 その言葉と同時に気の早い者達が動き出す。
 自分もどちらかといえば、その部類だ。
 手元のコントローラを恐る恐る動かしてみる。

「……」

 動いている。確かにゲームみたいだ。より強くスティックを押し込む。

「!!」

 速い! 現実ではなかなか体験することのできないスピード感のある動きだ。

 俺は思わず、スティックをグリグリ動かして、そのスピード感を堪能する。

「痛っ!!」

 つい調子に乗って動き過ぎたせいで、誰かと衝突してしまった。

 しかし、声が出たということは、どうやら発声することは普通にできるようだ。
 というかそれよりも痛いということは感覚もリンクしているのか……?

「どうも、すみませんでした」

 俺はぶつかって尻もちをついている相手にひとまず謝罪を述べる。

「こちらこそ……すみません……」

「……!」

 その相手と目が合うことで思わず息を呑む。

 それもそのはずだ。そこには普通のリーマン……ではなく、絶世の美女がいたからだ。

 透き通るような肩の辺りまでの髪、大きな目に黒目がちな瞳がこちらをきょとんと見つめている。

 フロアに、こんな綺麗な方いたっけ? いやいや、いないだろ。こんな綺麗な人に気付かないことは難しい。

「な、なんか大変なことになっちゃいましたね」

 皮肉にも共通の話題を持っていたため、俺は何となく会話を開始する。

「は、はい。私、今日がここでの仕事の初日だったのですが……」

 なるほど、そういうことか。
 システム開発の会社である我が社では、月初めに、必ずと言っていいほど新たに参画者がいるものだ。
 しかし、初日でこんなのに巻き込まれるとは……

「お気の毒に……」

「はい……」

「実は自分も、朝方、トラックに轢かれそうになって死にかけたんですよ。不運って続く物ですね……。あ、でも、その時は、嘘みたいなんですけど、目にも止まらぬ速さで現れたリーマンにお姫様抱っこで助けられちゃって……」

「へぇー、そんなことってあるんですね……。無事でよかったですね」

「あ、はい……」

「……」

 早くも会話が途切れる。

「あ、えーと、すみません。私、平吉って言います。よろしくお願いします」

「あ、はい……私は白川しらかわです。こちらこそよろしくお願いします」

 白川さんか。
 挨拶してくれただけではあるが、感じのいい人だな……などと思っていると、白川さんは、そのまま静止状態になってしまった。

 どうやら積極的に操作は行っていないようだ。
 こちらが一方的にぶつかってしまったのだろう。申し訳ないことをした。

 一方、白川さんとは対照的に、やたらと動き回っている人物が視界に入る。
 彼女は早海さんという女性だ。二人目の”四天王”である。

 実はこのフロアには四人の美女がいる。
 社会人になっても中学生並みのノリの男性達からは陰で美女四天王と呼ばれていた。
 その中で最も目立つタイプなのが、先のキラキラ星野さんである。
 が、この早海さんも四天王の一角であった。

 早海さんは、四天王の中でも、真面目そうな女性だ。
 完璧に均整の取れた顔立ちで、顔面すら生真面目にパーツを配置したようだ。振る舞いも落ち着いた様子である。
 四天王の中では圧倒的に癖が少なく、”普通力”はハイスコア……、
 と、思いきや、一方で、ITスキルが高く、仕事が尋常ではなく速いことで有名だ。
 ゆえに、<疾風(はやて)の早海>という少々口に出すのが恥ずかしい異名を持っている。

 そんな早海さんは好奇心旺盛なのかいろいろと試しているようだ。

「早海さん、熱心だねぇ」

 火野次長がお気に入りの早海さんを讃えている。
 しかし、当の本人には、あまり聞こえていないようで無視するように練習を続けている。

 この探究心が仕事ができる秘訣なのだろうか……と考えているとファシリテイターの声が聞こえてくる。

「試しに動かすのはよいですが、あまり色々やり過ぎるのは――」

 その言葉が最後まで発せられる前に、早海さんのアバターから突如、光り輝く刃状のものが発せられた。

 聞きなれない切断音と共に、何かが二つに分かれ、片方が宙に浮く。

 その宙に浮いた方、胸の辺りから上だけとなった火野次長と目が合ってしまう。

 一瞬、時が凍りついたように感じられた。
 火野次長の上半身は重力に従い、地面にぼとんと落下する。
 下半身もゆっくりと力を失い、地面に叩きつけられる。

「きゃぁああああ」

 女性が悲鳴を上げる。
 俺は呆気に取られて、その光景を見ていた。
 火野次長の体の断面からは大量の血液が流れ出ている。

 しかし、次第に火野次長から光の玉のようなものが放出される。
 強く発光し、その光が、彗星のように尾を引いて、まるで吸収されるかのように早海さんに向かっていった。

 その演出で全員が言葉を失う。

 演出のおかげで、これはバーチャルでの出来事であると、逆に幾分、冷静さを取り戻すことができた。
 それにしても、結構、グロテスクな演出だ。

 バーチャルであるとわかっていても背筋が凍りつくようだ。

「一応、処理しておきましょうか……」

 ファシリテイターがそう呟くと、火野次長の体は炎に包まれ、燃え尽きるように消滅してしまった。

「申し訳ありません。説明が遅れました。あまり色々やり過ぎるのは危険です。L+R同時押しで戦闘モードに切り替わりますので、お気を付けください」

 ファシリテイターは相も変わらず平淡に続ける。

 しかし、戦闘モードがあるということは……、

「我々は……何と戦うのだろうか?」

 日比谷部長が俺の疑問を代弁するかのように険しい口調で確認する。

と呼ばれるです」

 ファシリテイターの口から、さも当然であるかのように、いかにもモンスターらしき名称が発せられる。

「……キメラ?」

 二次元に縁のなさそうな日比谷部長には、あまり聞きなれない言葉ではあるかもしれない。
 しかし、ファンタジーでは常用単語の一つだ。
 複数種が混合したモンスターのイメージであるが、そのイメージで正しいのだろうか。

「怪物だと思っていただければ差支えないかと」

「少なくとも我々同士が戦うものではないという認識で正しいか?」

「YESです。それが目的ではありません。冒頭に申し上げた通り、あなた方には世界を救っていただきたいのですから」

「……ひとまず承知した。だが、まさかバーチャルでゲームオーバーになったら現実でも死ぬってことはないよな?」

 日比谷部長がとんでもないことを質問する。

 その一瞬は胸が跳ね上がるような感覚であった。

「回答として、その質問内容は起こり得ません」

「……そうですか。わかりました」

 日比谷部長はほっとしている様子だ。
 俺自身も少し……いや、かなり安心する。

「それでは引き続き、説明します。戦闘モードに切り替わった状態でAボタンを押下することで通常攻撃が行われます。通常攻撃はブレイドです」

 空中にコントローラのグラフィックが出現し、ボタンの解説が始まる。
 通常攻撃、ジャンプ等の基本的操作の説明の後……、

「Cボタンは固有スキルです」

 固有スキル……?

「固有スキルは、一人に一つずつ配布しております。Cボタンを一度押下することで固有スキルの内容が表示されます。
 固有スキルの能力については事前アンケートを元に、有能と思われる方に優先的に大きなスキルコアを埋め込んでおります。大きなスキルコア程、強い能力が発現しやすくなります」

 俺の固有スキルは<シールド>か。簡単な説明も表示されている。

 <防御壁を展開し、攻撃から身を守ることができる>とある。

 地味だな……

 事前アンケートとは、最初に目を覚ます前に行われていた面接のような尋問のようなあれか。そういえばMサイズのスキルコアと言っていたな。

 響き的には、平均くらいのランクのものだろうか。まぁ、平社員だしな。Sサイズじゃなかっただけマシか……

「Lボタン+Cボタンで固有スキルを発動することができます。
 なお、固有スキルの中には常時発動型やON/OFF切替え型のものもあります」

 俺は、自身のスキルは防御系スキルであったので、試しに使ってみることにする。

 ボタンを押下すると、左前腕の外側を中心として、1メートル大の正八角形を組み合わせたような透明なエフェクトが発生した。

 使いやすそうではあるが、特殊能力感は薄い能力だ。

「操作に関する説明はこのくらいです。あとは、ご自身で適当に試してみてください。それでは、これからミッションに挑戦していただきます」

 ファシリテイターは大して話を引っ張ることもなく本題へと進んでいく。

「今回の皆さんのミッションクリア条件は、
 外の世界に出て、三時間以内に合計百体以上のキメラを討伐。
 その後、ここに戻ってきてください」

 条件の宣言と共に、ゲームのインフォメーションメニューのように
 0/100、
 3:00:00、
 200、
 が表示された。

 0/100というのは、恐らくキメラとやらの討伐数だろうか? 制限時間についてもわかりやすい。

 となると、200というのはプレイヤーの人数であろうか。たまたま今日、日比谷部長が朝礼で人員がちょうど二百人になったと言っていたので間違いない。

 ってあれ……? 200……?
 数値おかしくね?

「最初のミッションなので、チュートリアルみたいなものですよ。恐れずに挑戦してください。それと、皆様の関心事である解放条件ですが、今回のミッションを含めて、四ミッションクリアすることです」

 散々、引っ張っておいて、さらりと解放条件を告知する。しかし、ゲームの四ステージならそれほど多くはなく、絶望的な数値ではないように思える。

「それでは皆様もそろそろ世界を救いたくて、うずうずしていらっしゃる頃でしょうし、始めましょうか」

 その言葉と共に、巨大な扉が上にスライドするようにゆっくりと開く。

 空間に表示されている3:00:00が2:59:59へと変わる。

 そのまま58、57……と数値は小さくなっていく。

 始まるや否や、戸惑うこともなく一人の女性が走って扉へ向かっていった。

 美女四天王の三人目、<ロケット宇佐ちゃん>こと、宇佐さんだ。

 宇佐さんは、四天王の中で俺が、唯一、面識がある。
 たまたまグループが同じだったというだけなのだが。

 宇佐さんは美人である。

 そこは疑いようがないのだが、四天王の中でも異彩を放っている。
 まず、特記すべきはロケット定時退社だ。
 毎日、終業の鐘と共に脱兎のごとく去っていく。
 ゆえに一部では、そのまんまだが<ロケット宇佐ちゃん>と呼ばれている。

 また、昼休みも鐘と共に、うつ伏せになり、食事もせずに机と一体化しているかのように眠っている。
 いつもアンニュイな雰囲気で気だるげというか眠そうな感じで、少し話しかけ辛いが、仕事の会話には支障はない。
 残念(?)なことに右手薬指に指輪を付けている。

 そんな宇佐さんは誰かを待つこともなく、一人で行ってしまう勢いだ。

 たまたま扉の近くにいた意外な人物がそれに続く……。俺だ。

「宇佐さん、待って。僕も行く」

 なぜ引き留めたのか。確固たる理由はない。ただ、なんとなく一人で行かせるのは嫌だったのだと思う。

「あ、はい……どうぞ」

 俺の声掛けにより、宇佐さんは足を止める。無表情ではあるが、帰ってきた言葉は、幸いにして拒否の言葉ではなかった。

「平吉、ゲーマーだし、俺も付いていこっかな」

 また、誰かが後ろからそんなことを言う。
 誰かと思えば、同期でフロア内で俺にとって唯一友人といえる関係である主任の友沢であった。

「じゃあ、行っちゃいます」

 扉を出ようとしていた宇佐さんはもう待ち切れないようだ。

「お、おーけー! ついていくよ」

 俺は宇佐さんに続く。
 扉を出ると、短い通路があり、その通路を抜け、無機質な階段を登ると外の開けた場所へと出られた。

「へぇー、本格的だな」

 しっかりついて来ていた友沢が声を上げる。

 確かにステージは極めてリアルに作り込まれている印象だ。
 荒廃した都市のようなステージだ。
 今までいたのは地下であろうか。
 階段から出た目の前にはビル群に囲まれた四車線程度の広さのある道路であった。

 ステージのクオリティの高さに驚いていると、宇佐さんが離れていく。

「あっ! 宇佐さん!?」

「大丈夫です。一人では行きません。でも、少し離れていてください」

「えっ!? あ……あぁ……」

 宇佐さんはそそくさと離れていく。
 と、いきなり拡散レーザーのようなものを乱射し始めた。

 ふよふよと浮遊する数十個の光球を発信源とし、輝く直線状の光が派手な破壊音と共に建造物を粉砕する。

 かなりの当たりスキルじゃないですかと少々、羨ましく思う。

 レーザーが収まると、宇佐さんはジャンプしてみたり、ブレイドを出し入れしてみたり、その場でいろいろな動きをしている。

 なんとなく予想はついたのだが、恐る恐る聞いてみる。

「な、何したの?」

「え…? 試し撃ち」

 無事に予想通りの回答が返ってくる。

 こ、この人……多分、ゲーマーだ……。

 すぐに外に出て行ったのは、早くレーザーをぶっ放ちたくて、居ても立っても居られなかったのだろうか。

 しかし、自分も宇佐さんを習い、いろいろなアクションを試してみることにした。

 ブレイドアクションを行うと手中に光刃が出現し、それを剣のように振り回すことができた。

 ブレイドによる攻撃以外にもしゃがむ、転がる、サイドステップ、バックステップといった割と自由度の高いアクションができるようであった。

「平吉のスキルはシールドか?」

 友沢が話しかけてくる。

「あぁ、見ての通りだよ。友沢は?」

「俺は<視力強化>みたいだ」

「なんだそれ?」

「単純な視力強化と透視の掛け合わせみたいだな。おかげ様でかなり遠くまで視認可能だわ」

 彼のトレードマークである黒縁眼鏡が強化されたかのような能力だなと思ってしまう。

「スケスケメガネってか? って、お前、いかがわしいことになってないだろうな!?」

「肝心なところは闇だな」

 ちゃっかり確認してんじゃねえか……! と思いつつ、ゲーム的にも、便利な能力だなと、また少し羨ましく思う。

 些細な羨望心を押し殺しつつ、周りを見渡す。ざっくりだが、外に出ているのは半分の百人くらいだろうか。

 フィールドはかなり広く、それぞれが密集し合うことなく適度にばらけている。気のおける数名でなんとなくグループを形成しているようだ。

 俺の近くには宇佐さんと友沢がいたが、実は、もう一人、比較的、近くにいた。
 その人は、誰かとグループになっているわけでもなく、漂うようにしていた。

 孤立しているのであれば、流石に不憫なため、拒絶覚悟で声をかけてみることにする。

「あ、えーと、白川さん……でしたっけ?」

 でしたっけ? などという言葉を選択したが、完璧に覚えていた。

「あ、はい……えーと、先程の……平吉さん」

「ですです」

 ちゃんと覚えていてくれたのかと、内心かなり感動する。

「えぇ!? 平吉!! 誰や、その美人は!?」

 友沢が早速、反応する。

「こちら、白川さんです…… さっきたまたま話をしたんだけど、なんと……今日からこの現場で勤務だったそうで……」

「マジですか!?」

「あ、はい……そうなります」

 白川さんは眉を八の字にして、少し困ったような顔で返答する。

「もしそのせいでグループを作り辛いのだとしたら、僕達と一緒に来ませんか? こんな状況でいろいろと不安なのはお互い様でしょうし……」

 思い切って、直球で誘ってみる。

「……はい……是非……」

 少しだけ沈黙があったが、白川さんは、こちらの提案を受け入れてくれた。

「よかった……えーと、こちらは友沢、それとこちらは……宇佐さんです」

「……よろしくです。宇佐と言います」

 宇佐さんも白川さんに挨拶をしてくれた。

「あ、私は白川です。よろしくお願いします」

「ひゃっほー、美人二人でテンション上がってきたぜ。お前、グッジョブ!」

 友沢が小声で伝えてくる。
 なりゆきによる部分がほとんどだが、冷静に考えると確かにそうだな。

「で、どこ行けばいいんだろ」

 友沢が素朴な疑問を口にする。

「多分、あっち」

 宇佐さんが特定の方向を指差す。
 指差した先に目印になるようなものは特にない。
 だが、彼女が差した方向については俺も概ね同意できた。
 なぜなら、空間表示されたマップに進行方向を示すかのような矢印が表示されていたからだ。

「あ、前の奴らもそっちに向かうみたいだな」

 友沢の言うように、他の者達もすでにそれに気づいていたようで、複数のグループが呼応するように大きな集団として動き始めた。

 自分達は集団の進行方向の中央付近にいたようであり、前のグループの流れに続く。

 集団の先頭を引っ張っていたのは割と目立つタイプのグループのようだ。

 美女四天王、フロア1のキラキラ系女子、星野さんの後ろ姿はキラキラオーラを放っているので、簡単に視認可能だ。

 ◇

 集団としてマップの矢印の方向に移動を始めてから三キロメートル程度移動しただろうか。

 風景に大きな変化はなく、荒廃した都市のビル群の中の大通りを進んできた。

 ふと時間表示に目をやると、すでに30分程度が経過している。

「結構、走って来たけど、何も起きないなぁ」

 友沢が呟く。

「そうだな……」

 今のところキメラどころか生物にすら遭遇していない。

「えっ!?」

 友沢が急に驚きの声を上げる。視力強化のスキルで何か変化を捉えたのだろうか。

「どうした?」

「い、いや……前の方にいた奴が一人、一瞬で消えた……ような……」

「え……?」

 具体的な内容が前方から聞こえてくる。

「おぉー、なんか出たぞぉ。安川が食われたぁ」

 安川……さん……? 面識のない人だな……。
 伝わってきた声からは、あまり緊張感を感じ取ることはできない。
 しかし、食われたってどういうことだ……?
 空間上に表示されている数値が200から199へと変わる。

「何こいつらきもい」

 キラキラ星野さんがそう評するのも頷ける。

 上半身はカエル。下半身はやたら強靭な肉体を持つ人間。体長は2・5メートル程だろうか。そんな生物が、ざっと見で三十体ほど直立していた。こいつらがキメラだ。人並み以下の洞察力であっても、理解するには十分な風体のモンスターがいた。

「み、水谷課長、どうしま……」

 星野さん隣にいた男への助言を求めかけたその時であった。
 星野さんの体にはピンク色のつるつるした物が巻き付いていた。
 次の瞬間には、星野さんはそれまでいた場所から消えている。

「えっ」

 星野さんの上半身だけがカエルの口の中から出ている。
 その光景を見て、先刻のピンク色がカエルの舌であったことを認識する。

「きゃぁあ、あははは、何これぇ、気持ち悪ぅう」

 星野さんがカエルの口の中から生えて、きゃははと笑っているという奇妙な光景が眼前で展開されている。

「ちょ、なに、何これ? え? 本当に気持ち悪い、ってか、え? きゃ、きゃぁあああ……あ」

 ちゅるんという音が聞こえてきたような気がした。星野さんの姿はもう視認することができない。一時いっときの静寂の後、数値が199から198へと変わる。

【2~3話リンク】

本作は完結まで掲載しております(35話)。
下記、全話をまとめたマガジンです。
各話にも次話のリンクがあります。


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