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ホウレン草畑でつかまえて

 生まれてこの方30年弱、人からどう見られているか、そればっかり考えていて逆にファッションに疎い。例えば僕が、いきなり洒落た恰好を決め込んだとする。似合ってればいいだろうけど、似合ってないとなれば、中途半端な時期にデビューでもしようとしてるんじゃと思われそうで、踏ん切りがつかなかった。
 大抵僕は、ファストファッションの中でも特に市民権を得ているファーストリテーリング系列で全身を揃える。別にデザインが好みといった訳ではなく、店員にかごを渡さなくて済むから、余計なことを考えないでいれる。誰かに何を買ったか、直接的にはバレないことが理由だったりする。
 そんな僕が初めて買ったファッション雑誌、それがPOPEYE。部屋に平積みしてあったら洒落っ気が出るかなと、いやらしい思想をひっさげて1年以上前のバックナンバーを中古で10冊ほど適当に買い漁った。
 Amazonで注文したものの、プライム対象商品でないせいで届くのが遅かった。ファッション誌を買うことへの小恥ずかしさに襲われないように「買ったのはライフスタイル誌だ」とか、「RHYMESTERの宇多丸が寄稿してるから買ったんだ」とか思って誤魔化して、悶々としながら長い3日を過ごした。
 4月の第3水曜日、定時で仕事から帰った僕は、403の郵便受けいっぱいに詰め込まれたもったいない本舗からの届け物を小脇に抱えて、マンションの階段を一番飛ばしで駆け上がった。
 乱暴に黄色の包装を破り、敢えてずらして平積みすると想定通りインテリアとして成り立った。刊行番号が若い順番に重ねていったら、一番上がガールフレンド特集になって、少し羞恥心をくすぐられたから、一つ後ろにあったシティボーイの部屋特集と順番を入れ替えた。
 暫く満足していたものの、折角雑誌なんだからと読んでみることにした。パラパラと適当に開いて不規則に止めてみると、オーバーサイズの服に身を包んだいかにも都会ぐらしなスナップショットが掲載されていた。彩色が上手に散りばめられていると、素人目ながら理解できる。
 僕は、部屋に備え付けのクローゼットを開けて、持っている服を確認した。見事にモノトーン。思わず部屋を飛び出し、近くのセカンドストリートへと走った。

 ナガサカ

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