僕たちは大切な何かを忘れてきたのかもしれない
ニンヤンさんは、すすすすっ〜と小さなナイフで裏庭に生えている植物の茎を割いていき、細く糸状になった茎の束をクルクルとロープ状に捻っていった。そして細長く割いた竹の板の両端にそれを括りつけ、グググっとしならせる。獲物に狙いを定め呼吸を止めた。
スパンッ!と一射
葉の羽をつけた竹の矢が数メートル先の的を見事に射止めた。彼はこの手製の弓で野鳥や小動物を狩るそうだ。
ここはラオス北部の山奥にあるモン民族が暮らす村。僕は以前、カンボジアの飲み屋で知り合ったイギリス人からモン民族について興味深い話を聞いていた。
彼らは文字を持たず、歴史や物語を先祖代々、音で語り継いできているそうだ。おおお、会ってみたいと、僕は早速ラオスの北部ルアンパバーンに飛んだ。
ルアンパバーンからバイクにまたがり山を越えると小さな民家が見えてくる。低く積まれた石垣、茅葺の屋根、深い軒先で女性達が編み物をしている。乳児をおぶった幼い女の子の笑顔が眩しく、「あ〜懐かしいなぁ」とアジア特有の素朴感に浸っていると、おじさん達が集まってきた。
どうやら一緒にゲームをやろうと誘っていて、球を投げろと言っている。(言葉がわからない時はとにかく相手の言ってることを真似したり、興味を示すと対話が生まれていくものだ。)
よーし、ルールもわからないけど、投げてみよう。それっ、どうだ!?
すると皆ニヤニヤしながら何かを飲めと言っている。よく見ると瓶の中に特大のスズメバチが十数匹、、えっ、まじっすか? 引き下がるわけにもいかず恐る恐るワンショットをゴクっ。
「カァッハァァー○※□◇#△!」胃は大爆発、皆は大爆笑(笑)
さっそく痛烈なおもてなしをうけた。冒頭で話にでたニンヤンさんはこの時に出会った村のハンターだ。
ニンヤンさんは自宅を案内してくれた。まず目に入ったのが石斧だ。まさかと手に取ってみると、彼は家の柱を切り倒す真似をしてみせている。。。
いま、何時代ですか(笑)
すると、奥さんが白米をお椀に一杯よそってきてくれた。なんと、ひょうたんの椀にひょうたんのおたま! ありのまま、自然のカタチで頂く。
するとニンヤンさんが缶で作った二胡を弾きはじめた。素朴でどこか哀愁が漂う二胡の音色は、文明の真っ只中にいる僕たちに優しく音で語りかける。
「大切な何かを忘れてきたのでは?」と。
それは、昔ながらに手で道具を使い、遊び表現するヒトの原初的な喜びを思い出させてくれる物語のように僕には聴こえてきたのだった。
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