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世界で一番早く日のあたる場所

2019年の末、僕はネパール首都カトマンズに降り立った。すると「こんにちは~!」とナマステ感を出しまくるカタコト日本語のおじさんがこっちにくる。「登山ですね。日本人。大丈夫。オフィス行く。」すでに車を横付けしていて、カトマンズまでの料金も高くない。まぁいってみよ、と乗り込みオフィスへ向かう。「はい、これ8泊の旅。山は雪、あなた草履ダメ。靴ある。寝袋ある。」えええ早っ。到着から1時間、言われるがまま怪しいツアーに乗っかることにした。

トレッキング最初の地点はポカラ。クネクネ断崖絶壁を8時間程バンバン飛ばしていく。アジアどこでもそうだが、移動手段はどれも死と隣り合わせだ。ポカラに着き1泊。3,500mにある展望台を目指して登り始めた。登山道といっても、小さな村々を通っていくので民家が立ち並ぶ。道は500年前に舗装された石畳で、石垣は花々で彩られ、平石が積まれた壁は石板で葺かれた屋根を支えている。沖縄の雨端のような長く伸びた軒が皆の憩いの場になっていた。そこで発酵させた乳、ハーブ、米やトゥンパと呼ばれる酒の材料になる黍などを干していて、アジア独特の長閑な風景が残っていた。

足りるを知るとはいうけれど、足りないことの方が多いだろう。ここは3,000m付近、シェルパ達はカラダヒトツで40キロほどの荷物を独特な体の使い方でひょいひょいと運ぶが、僕はたかだか30リットルのザックを背負ってるだけでヒーヒーしている。この場所に生活物資を麓から運んだり、ましてや建材を仕入れ建築するなんて言われたら絶望するだろう。この町の人はここで手に入る材料で道を作り畑を耕し家を建て生活しているのだ。2015年の大地震では甚大な被害を受けた村もあり、登山中もまだ補修の追いつかない民家があった。だが彼らにとってこの建築工法は切っても切り離せないのだ。

とはいえネパールには毎年多数の観光客がやってくる。最初の宿にはテレビ、wifi、シャワーと大抵の物は揃っていたのだが1,500mを超えると設備は少なくなり物価が上昇していく。部屋についていたコンセントは差し込み1箇所ごとに値段がつき、僕はことあるごとに「マホンガチャニー?」とネパール語で値段交渉をしていた。山小屋に至っては隙間風が吹き込む劇寒な造りで朝がくるのをじっと耐えた。

夜の闇が淡く消えかかる明朝、遠くの方でポワっと何かが暖かな色に照らされた。とその瞬間、目の前に巨大な山が現れた。おおお、アンナプルナだ!!標高8091m、世界で一番早く日が照あたった瞬間かもな、と呟いてる間にスーッと温かくなってきた。太陽はこんな過酷な場所にさえ平等にエネルギーを運んでくれる。僕はこの純粋な自然エネルギーを心に焼き付けていた。

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